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ごっどぶれすゆー スサノオ様本気出す?  作者: 宮城 英詞
災い転じて福と成す

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伏見のお稲荷さん

京都、伏見稲荷。

電車を降りてすぐそこにあるその神社は、全国数万社を数えるお稲荷さんの総本社である。

 麓から山の中に至るまで無数の鳥居が並ぶその神社は、疫病による災禍のためか、俺の目にはさながら要塞のように見えた。

 おかげで、俺のような「見えている」部外者は、たとえ与根倉さんのような同行者がいても、容易に入ることができないようだった。

 結局俺は、門番のお稲荷さんに止められ、与根倉さんが話を通すまでの間、しばらく外で待つ羽目になった。

「……許可が下りた。身を清めて入って。」

十分ほどして、ようやく許可が下りたことを与根倉さんから知らされた俺はアルコールで手を消毒してようやく、厳重な門をくぐることを許された。

そしてその中は数多のお稲荷さんが所狭しと動き回る、戦場のような光景が広がっていた。

野戦用のテントが張られ、門の向こうを双眼鏡警戒するお稲荷さんや、物資を輸送するお稲荷さん、通信機でどこかと連絡をしているお稲荷さんもいる。

ここ最近の霊的なごたごたもあってか、中は霊的にも臨戦態勢であった。

「……さすが、お稲荷さんの総本社ですね。」

「……ここには2万柱以上の稲荷明神がいる。私たちにとっては最後の砦。」

 与根倉さんの言葉に俺はなるほど、と頷いた。

 自分の縄張りが奪われ、さらにここが霊的に落城することがあっては全国の稲荷明神は終わりだ。そしてこの非常事態。全国の稲荷明神はせめてここの信仰だけは失うまいとここに集まってきているのだろう。

 向こうに見える山には、見張り台らしきものも見える。

 稲荷山は霊的な山城として機能しているらしかった。

 与根倉さんに案内されて向かった中央のお社では複数の武装したお稲荷さんに守られた、巨大なお稲荷さんが出迎えてくれた。

 こちらを見下ろすほど巨大な狐目の美女。背後には複数の尻尾が優雅に動いているのが見える。

 まさに強大な霊威の象徴。

 俺はその姿に土産の油揚げを差し出すと、うやうやしく頭を下げた。

「お目通りお許しいただきありがとうございます。大阪から来ました榊と申します。」

 そう言うと彼女は静かにほほ笑んだ。

 流石は本家。いつもお付き合いしているお稲荷さんとは比較にならないほどの霊威である。

「よう来られた。妾が伏見の稲荷明神じゃ。ご活躍はかねがねきいております。」

「恐れ入ります。」

「聞けば、わが同胞はらからを探してこられたとか……。確かに疫病の流行でこちらにも大勢の子たちが逃げ込んできました。この奥で保護しておるのでそちらを覗いて行かれるがよかろう。」

「ありがとうございます。」

 予想は正しかったようだ。やはりこの状況下でここに逃げ込んでいたお稲荷さんがいたようである。

 俺は彼女の言葉に深々と頭を下げた。

「妾もこの状況、快くは思うてはおらぬ。こちらも稲荷山の防衛で手は離せぬが。できうる限りの協力は惜しまぬ。逃げ込んできた子らの中には手が空いておる子もおる。もしよければ幾柱か連れて行ってもらっても構わぬぞ。」

 お稲荷さんのありがたい言葉に、俺は素直に感謝し、逃げ込んだお稲荷さんが集まっているというお社の奥に案内してもらった。



 奥に進むと、そこには難民キャンプのようになっている一角があった。そこにはどうやら行き場を失ったらしい神々が集まっていた。

 どうやら、霊威の弱い神々の多くが今回の騒動で居場所を追いやられたらしい。事務所に祀られていたお稲荷さんのような小規模なお稲荷さんが多いのか、人型を為さず狐のままでいるお稲荷さんや、そんな形すら持たない、低級霊一歩手前のもやのような存在もちらほら見受けられる。もしかすると、逃げ込む前に大きく霊威を弱らせてしまったのかもしれない。

 最前線とは打って変わって、入院病棟にいるような、落ち着いているがどこか沈んだ空気が感じられた。

「ここに、明石さんいるのかな?」

 流石のこの状況をみると心配になってくる。

 ここに逃げ込んでこられたのは運のいいほうのお稲荷さんだろう。

 ここまでの混乱が起これば、弱って社長のように小さくなるか。存在そのものが希薄になってしまっている可能性もある。

 そうなると見つけることも困難だ。

 だが、意外と早く、明石さんは見つかった。

「……いた、あのテントの中。」

 明石さんの消息を聴いて回っていた与根倉さんが奥のテントを指さす。

 俺はそれに慌てて、奥のテントに駆け込んだ。

 仮設ベッドが並ぶ大型テントの中に彼女はいた。

 備え付けられたテレビを、せんべいをかじっていた彼女は俺がテントをのぞき込むのに気づき耳をぴんと立て振り向いた。

「榊君と与根倉やないの!無事やったん?」

 立ち上がりこちらに駆けこむ明石さん。

 俺はその姿に絶句した。

 声こそ確かに明石さんのそれだが、もうなんだかこれ以上ないというくらいに丸々と太っている。こちらに駆け寄ろうとしているらしいが、もうこの数メートルでよたよたと苦しそうにしている。

「……あの?明石さん?その姿は……?」

「いやぁ、国から助成金入ってくるからなーんもせんでも経済回るからなぁ。毎日食っちゃ寝しとったらこの通りや。」

「……堕落している。」

 笑いながら言う明石さんに与根倉さんが批評を加える。

 なるほど、ロックダウンの助成金をあてに今までその霊威を保っていたようである。しかしながら神としては何も働いていないどころか怠惰な精神を醸成していたらしい。

 これは、スサノオ様とは違う形で穢れ始めている症状なのだろう。

「とにかく、早い所事務所に復帰してください。今こっちは大変な状況なんです。」

「えー?でもスサノオさんまだ怒ってるやろ?」

「……もうなんかいろいろあってどうでも良くなってますよ。」

 やっぱりこっちの情報が全く入っていないようである。

 神も怠けると、こういうことになるようである。

「そうか……でも、いきなりフルタイムで仕事してもアレやから、ここからテレワークで仕事したらあかん?」

「ダメです!」

 肥満は福の象徴というが、これは性根が腐りかけている。

 さながら夏休みが終わりかけた学生の心境だろうが、ここで甘やかすわけにはいかなかった。

「いいですか?補助金はいずれ尽きるし、一部は返さなきゃいけないお金でしょう!今ここでだらけてたら補助金切れた瞬間に借金まみれになりますよ!今、電気街は乗っ取りの危機なんです!ここでいい加減な事したら、神社自体更地になりますよ!」

「……へぇー。今そんなことになってんの?」

 太ったせいかどこかスローな反応。

 驚いたのか関心ないのか今ひとつわからない。

 俺はそれにため息をつくと、今までに至る事情を説明し始めた。


どうにか見つけた明石さん、

無事だったのは良いけれど

巣ごもり過ぎてキレがない

これで頼りになるのかな?

次回更新お待ちあれ!

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