どこにいるのか?明石さん
「そらまたえらいことになっとるなぁ。」
事務所に帰り、南さんの現状を報告すると机の上の社長はさすがに困り顔でうなった。
「おそらく、スサノオさんから逃げてきた神々をかくまう流れで配下につけてもうたんやろな。通りで連絡がつかんわけや。」
「利用できるものは隙あらば利用する感じですね……。」
「多分、表向きは八百万の神々にやらせて、後ろで指示を出しとるんやろ。こちらの都合はお構いなしに利益を上らげれるだけ上げようという算段やな。」
恐ろしい話である。
こちらの後のことはお構いなしで全力で商品を買い集め、値を吊り上げ、高く売る。
自分が表に出ると都合の悪い所は配下にした神々にやらせ、おそらく都合が悪くなったら切り捨てていく算段だろう。
流石はもともとは武神。利益第一優先でやることに容赦がない。
調和と協調を尊ぶ八百万の神々では発想すらできない。
「こっちも面倒ごとが起きてましてなぁ。」
そう切り出したのはソファーに座る恵比寿様だ。
俺と同じく、この近辺を見て回ってきたらしい。
彼はテーブルの上の地図で、現在関公様の勢力範囲になっている近辺を指さす。
「どうもこの区域を飛び越えたあたりに、関公はんがちょいちょい姿を現して、神々が留守にしている間に勝手に居座ってた、みたいな話がぽつぽつ出てますねん。強く言わな出ていきもせんし、怒ったら武器を振り回しよるんで、この辺の神々がほとほと弱っとるんですわ。何とか話し合いで解決できんもんやろか?」
「……強引に勢力広げにかかってますね。」
本当に油断も隙も無い。
つまり、向こうは現在の縄張りを守るどころか、拡大しようとしているという事か。
俺は恵比寿様の言葉に恐怖すら覚え始めてきた。
「やはりのんびりはしとれんようやな。」
そう、こちらが弱っているところにを見せたら向こうは容赦なくこちらの居場所を奪ってくる。
向こうからしたら、弱っている奴が悪いという理屈なのだろう。
急いでこちらの勢力を立て直さなければならない。
そして……
「こんな状態で、明石さんは無事なんでしょうか?」
俺の言葉に、恵比寿様と社長は渋い顔でうつむいた。
「南はんがあの状態やと。どこかで捕まっとるんやろか?」
「明石の事や、もしかすると雲隠れを徹底しすぎて今の状況が解らんかもしれんな。疫病自体はよそではまだまだ治まってはおらん。よそで潜伏しとったら、この状況には気づけんやろ。」
なるほど、どちらもありうる話だ。
俺は恵比寿様と社長の言葉に考えを巡らせながら、パソコンに向かう。
そしてネット空間にいる与根倉さんに語り掛けた。
「ネット上で、明石さんの最近の仕事の痕跡はありますか?」
「……ない。顔の広い子だから動いていれば他の神々に何か動きがあるはず。最近は動きがない。」
「と、いう事は、どこかで潜伏している?神様がお社から出て逃げ込める先なんかあるんですか?」
俺の言葉に、相変わらずの無表情で考え込む与根倉さん。
そして数秒後、彼女はモニターの先でもしかしたら、と小さくつぶやいた。
「……あそこなら、逃げ込めるかもしれない。」
「どこですか?」
俺の問いに画面に神社の紹介サイトが映し出される。
それに俺はなるほど、と頷いた。
「……京都の伏見稲荷ですか。」
「そう、私たち稲荷明神の総本山。あそこなら、稲荷明神としての力を守りながら潜伏できそう。最悪、何か情報は得られる可能性がある。」
なるほど、確かに稲荷明神としての信仰が集まる場であれば、隠れるにも、籠城するにも都合のいい場所だろう。
また、他のお稲荷さんも集まるから最悪何らかの情報が手に入るかもしれない。
「よし!行ってみましょう。伏見へ。」
俺の言葉にいまだ小さい社長は頷いて、俺の出張を許可した。
お稲荷さんの実家と言えば
やはり伏見のお稲荷さん
そこに行けば何かわかると
一先ず京都に行ってみる。
さてさて、京都に何が待つ?
続きは次回のお楽しみ!




