南さんは仕事中
さて、まずはいつもの事務所のメンバーの招集……なのだが、あの疫病の騒動以来ずいぶん長い事見ていない二柱のお稲荷さんは、果たして一体どこにいるのか?
まずは神々の居場所を突き止めなければならなかった。
俺はいまだうら寂しい電気街を歩きながらスマホ片手に途方に暮れていた。
「電話しても出ないし、向こうから顔を出すこともないんじゃ出向いて探して歩くしかないけど……元居た顔見知りの商店街の神々はほとんど居なくなったから聞いて歩くわけにもいかないしなぁ……。与根倉さん、何かご存じです?」
俺の言葉に与根倉さんは西を指さした。
「……あっち。一筋向こうにはまだ霊威が消え切っていないところがある。」
俺はその言葉にああ、と頷いた。
電気街の一筋向こうには、ここ数年サブカルチャーを中心とする店が立ち並びだした区域がある。そこはいわばオタク文化の中心地として南さんの縄張りになっていた区域だった。
「……そういえば、あの辺りで南さんを見かけたという話もありましたね。まずは近い所から行ってみますか。」
そう言うと俺たちは電気街の西側に移動した。
その通りは、以前は平日でも人の行き来の激しい場所だったが。疫病の影響で現在は閑散とした状況だった。
これでもスサノオ様の影響力が減って多少は開くお店が出始めたようだが、それでも以前とは何か状況が違って見えた。
「何か、みんなが楽しんで買い物する場所という雰囲気じゃないですね。」
「……殺伐としてる。」
俺の言葉に与根倉さんが頷いた。
確かに人がいるにはいるが、大荷物を抱えた人たちがちらほら見かけられる。
関公様の影響か、日本人ではない人もずいぶん増えているようだ。
それは、楽しくショッピングしているというより、何か仕入れ業者のような必死さが感じられた。
「まぁ、元々問屋街といえばそうなんですが……元はこんな所じゃなかったんですがねぇ。」
少し前のテーマパークのような賑わいを知っているのでその光景はどこか不気味に感じられる。経済が回っているので、良しとすべきなのかどうか……。
「……居た。」
そして、南さんは与根倉さんにあっさり見つけられた。
彼女の指差す先には、雑居ビルの前でお客さんを呼び込んでいる南さんの姿があった。
彼女はこちらの姿を確認すると、笑顔で手を振っている。
俺は慌ててそこに駆け寄った。
「榊さん!お久しぶりです!皆さん無事だったんですね!」
まるで戦場で生き別れた人に会ったかのような口ぶりである。
まぁ、確かにあの騒ぎだ、彼女たちにとっては似たようなものだろう。
俺は元気そうな南さんの姿にまずは胸をなでおろした。
「ええ、社長も弱ってはいますが無事です。こちらは何とかスサノオ様を弱体化させることが出来ました。……南さんはこちらで?いままで何を?」
「決まってるじゃないですか。商売繁盛です!」
俺の問いに南さんは笑顔で答えた。
そして、店の奥へと俺たちを案内する。
そして、その店内の光景に俺たちは言葉を失った。
それは、山のようなプラモデルの箱の壁だった。
「南さん、これは……。」
「そう、プラモデルです!疫病の巣ごもり需要で、プラモデルが飛ぶように売れているんです。特にネットを通じて海外には大人気で、すべて定価の倍以上で売れるんですよ!もう売るものが無くなって、今日は新発売のキットを仕入れてきたところです!」
「……これも倍の値段で売るんですか?」
「ええ、みんな喜んで買ってくれますよ!」
南さんの言葉に俺は眩暈がした。
通りでみんな大荷物を抱えているはずである。
文字通り彼らはここに「仕入れ」に来ているのだ。
しかも、物流や普通の店が閉まっているのをいい事に、新商品まで買い占め、高値の値段で売っている。結果、価格の高騰化とモノ不足に拍車がかかり、さらに売値が高くなるという図式である。
「転売屋相手に商売繁盛してる……。」
「……外道に堕ちた。」
頭を抱える俺に与根倉さんがまたぼそりとつぶやく。
確かに、このような売り方は一時自分が儲かれば良いという類のもので、やり口はあのスサノオ様と大して変わりはない。
小規模な動きならともかく、ここまで大規模にやればいずれ物価を始め、他方面に悪影響を与え、いずれ市場を崩壊させる。
それは八百万の神々の価値基準からすれば外道という事になるのだろう。
だが、南さんはさらに笑顔で、今度はゲーム機を出してきた。
「あとゲーム機もすごいんですよ。これなんか入荷したとたんに売れて、ネットではそれこそ数倍の値段で取引されてます。これはもうゲーム機ではなく、投資商品ですよ!」
「南さん!やめてください!こんなのまっとうな商売じゃないですよ!」
言いながら、ゲーム機の箱を俺に差し出す南さんに狂気すら感じ始めた俺はさすがに声を荒げて訴えた。
だが、それに南さんは答えることもなく、俺にゲーム機の箱を押し付ける。
よく見るとそこには
『私は監視されています』
というメモが張られていた。
はっとなって周囲を見回すと。大荷物を抱えた人々に紛れ、人民服の関公様の姿が見える。
「榊さぁん……私、こうでもしないと神としてやっていけないんですぅ……。何とかしてくださいぃぃ!」
そう言って、笑顔を見せる南さんの目が、全然笑っていないことに俺はようやく気が付いた。
目に涙を浮かべ、言葉にはできない何かを訴える南さんを連れ出すことは、どうやら非常に困難なようだった。
近くの神をこき使い
買ったものを高く売る。
確かに儲かっちゃいますけど
これって先がないのでは?
南さんは、監視され
逃げ出すこともできないみたい
じゃぁ明石さんはどこいった?
続きは次回のお楽しみ。




