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ごっどぶれすゆー スサノオ様本気出す?  作者: 宮城 英詞
災い転じて福と成す

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もしも、外国の神が来たら

結局、武力に訴えられてはどうにもならず、我々はいつもの事務所に帰ってきた。

 まさに一難去ってまた一難。

 恵比寿様とテーブルの上の社長は、深刻な顔で街の地図を広げていた。

「うかつやったな。まさかこの非常時に火事場泥棒的に縄張りを奪いに来る神々があるとは考えてもおらんかった。」

「しかも相手は外国の神さんや。こっちのしきたりや都合なんかお構いなしとは……こっちとしては打つ手がありまへんなぁ。」

 恵比寿様の言葉に俺は暗い面持ちで地図に目を落とした。

「どうも、スサノオ様が弱って空いた店舗をのきなみ占拠した感じですね。元々南側にそれなりの縄張りがあったのをさらに広めた感じです。」

「……まさに根こそぎ。」

 俺の言葉に与根倉さんがぼそりとつぶやいた。

 本当に容赦のないやり口だ。

 日本の神々にはとてもこういう事をする発想自体無いだろう。

 社長はその惨状に大きくため息を付いた。

「なんにせよ、ワシらとの関係を否定し始めたのは不味いな。このままやと、ここの産土神としてのワシの力は弱まる一方や。下手するとこの事務所も畳まなあかんかもしらん。」

「そんな……。」

 社長の言葉に俺は愕然となった。

 それは、俺が職を失うという事以上の話である。

 霊的な勢力が入れ替わり、この地に中華街が誕生する。そしてそれはその地域にあった文化と信仰の消滅を意味していた。

 今は小さくなっただけの社長は人々から忘れられ、最終的に消え去ることになるだろう。

「……いや、この事務所とワシが消え去るくらいなら、まぁ時代の流れっちゅうことやろ。廃村なんかで良く起こる話や。……せやけど、ここだけがぽっかり他所の神さんの縄張りとなったら、あの様子では十中八九、他の区域の八百万の神と喧嘩が始まるやろ。そうなったら、えらいことや。」

「神々の喧嘩ですか……。」

 俺は先ほどのスサノオ様とアマテラス様の「喧嘩」を思い出し、ぞっとする思いがした。

 八百万の神々は互いに敬意を払い、共存共栄することで霊的にこの国の繁栄を支えてきたのである。

 それが他を認めない武神が乗り込んで自己主張を始めたら。おそらくみんなが「本気で」追い出しにかかることになるだろう。

 それはどちらが勝つにせよ、霊的均衡が崩れ、現実世界では戦争や暴動、天変地異という形で人間に影響が及ぶ話になる。

 さらにその時点で取りまとめ役としての社長のような産土神、すなわち土地神が不在となれば、少なくとも霊的には制御不能の区域になるだろう。

 こうなると、中華街として繁栄するのはまだましな方で、下手すればゴーストタウンへまっしぐらということになるだろう。

 それは、今まで自分がしてきた仕事がどれだけ社会に影響を与えてきたかを実感している俺には十分想像できる話だった。

「せめて、形だけでも土地神である社長に従ってくれればいいのに……なんであんな頑ななんでしょうね?」

「武神やから、としか言いようがないなぁ。多分ワシの力が弱まっとるから、利用価値が無いと判断されたんやろ。」

 まさに合理精神。いかにもいつかは天下を取らんとする武神の考えである。

 これは間違いなく他と喧嘩になる。

 俺はその先を考えて頭が痛くなる思いがした。

「……それにしても、いくらノーマークやったとはいえ。福の神が逃げた事実上の閉鎖店舗を占拠してどないするつもりでっしゃろ?」

 恵比寿様の問いに俺は社長と目を合わせ首を傾げた。

 確かに、言われてみればおかしな話である。

 これだけ豪快に空き店舗を支配しても、そこから商売は生まれない。一体何を持って霊威を示すのか?

「……多分。この地を繁栄させることに興味はない。」

 そして、後ろで与根倉さんがぼそりとつぶやく。

 その言葉に、社長は切ない顔でもう一度溜息をついた。

「……なるほど。空いてたから取った。取ったからにはそこからできるだけ利益をとり、最悪誰かに高値で売り払えればそれで武神としては「勝利」したことになるわな。あの辺の神は華僑や遊牧民族の信仰が源流や。土地というより家族、一族単位で繁栄させる考え方なんやろなぁ。」

「……ますます厄介ですね。」

 社長の見解に俺は納得しつつもため息を付いた。

 おそらく、あの手の神々は利益を上げ、信者が繁栄すれば場所がどこであろうと問題ないのだろう。手に入れられるものは容赦なく征服し、そこで利益が得られなければ他に行けばいい事だ。

 なんとも根本的な価値基準が違うらしい。話し合いでどうにかとかそういう落としどころを見つけるのが実に困難である。

「そうなると、あの霊威の強さも納得がいくな。どうもその土地の景気に左右はされとらん。多分ネットかなんかを通じて外国の信者さんから力を得てるんやろ。世界中動きがとれん中、たまたまここが空白になったから入り込んできた、という所やろな。」

 向こうにしてみればこちらが甘いのだろうが、なんとも恐ろしい話だ。本当に油断も隙も無い。

 いや、世界中が疫病で停滞している中、向こうとしてもこれが一種の生存戦略という事だろうか?

 世の中は現実も霊的にも過酷である。

 俺たちは深刻な面持ちでうなり声を上げた。

「……どうします?」

「……こちらとしては本意やないが。ああ出てくるからにはある程度力を示さんと話し合いもできんやろ。追い出すほどでないにしても対立してもええことないと思わせんといかんやろなぁ。」

「力、ですか……。」

 なんとも難しい話だ。

 社長には力がなく、かといっていまだ疫病の災禍がくすぶっている昨今、アマテラス様クラスの神がそう簡単に応援に来てくれるはずもない。

「ひとまず、知恵を出すのも、力を示すにも、束になってかかるしかないやろ。榊君。まずは与根倉と行方の知れん明石と南を探してきてくれ。」

「わかりました。」

 確かに、まずは四散した神々を集めてこないことには話が始まらない。

 俺は社長の指示に頷いた。

「……今回ばかりはうちの事務所が音頭を取って解決せえへんわけにはいかんな。そうせんと土地神としての立場がなくなる。」

 険しい顔でそう言う社長に、俺は事態がこの事務所の存続につながっていることを痛感せざるをえなかった。


関公様が勝ったなら、

丸く収まるわけもない

社長もみんなも路頭に迷い。

街もどうなるかわかりゃしない?

急いで神探さなきゃだけど

みんな一体どこいった?

気になる神の大捜索は?

続きは次回のお楽しみ



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