関公降臨
すべての雲には銀の縁取りがある
―海外のことわざ
後始末を千住院に任せ、恵比寿様と共に慌てて商店街に駆け付けた俺はその光景に目を丸くした。
昨日までスサノオ様が占拠していた店に人民服を着た神々が取って代わっている。
長いひげに、赤ら顔の神は大きな薙刀のような武器を片手に空き店舗の前に居座っていた。
「……あの神は……?」
「関公はんやがな、えらい高名な中国の商売の神や。」
「関公って……三国志の関羽?あの神様って武神じゃないんですか?」
「まぁ、商売も一種戦いなとこありますさかいなぁ……。」
何という事だ。
おそらく霊的な空白地帯を見つけてそこに入り込んできたのだろう。
疫病の対策に手いっぱいで気にする余裕がなかったとはいえ、まさかこんな所で勢力を伸ばそうとする神々がいるとは。
俺はおおよその状況を把握して頭を抱えた。
「これはまた、えらいことになっとるな。」
そうこうしているうちに社長が与根倉さんの肩に乗って現れた。
彼は周囲の光景を改めて見回すと腕を組んでうなり声を上げた。
「なんとも情けない……土地神としてのワシの力が弱まった結果やな。
「外国の神さんやから、こっちの縄張りも決まり事もお構いなしですわ。」
恵比寿様も困り顔だ。
確かに、一見ざっくばらんで自由な商店街の神々だが、土地神である社長の元、それなりの不文律やルールもあった。関公様も、商店街の片隅でそれなりに鎮座していたはずである。
それが、パワーバランスが崩れた瞬間、露骨に勢力を広げてきたのである。
「……どうします?社長。」
「まぁ、別に商店街に外国の神さんが居るのは今時珍しい話やない。地域の雰囲気が変わってしまうがこの際仕方がないやろ。後付けになってしまうが、こっちの仁義だけは通してもらおう。」
やれやれと言った顔で社長が目くばせすると、与根倉さんが契約書とボールペンを取り出してきた。
なるほど、事後承諾的に社長と契約することで、話を収めようというわけである。
まぁ、小規模ながら今までこんな事例がなかったわけではない、この電気街が中華街みたいに変わっていくのは確かに違和感がないではないが、無理に追い出す理由もないだろう。
「……確かに、それが一番穏便な方法ですね。」
俺はそう言うと社長を肩に乗せ、商店街入り口の関公様に話しかけた。
「あのう……。」
「何奴!」
話しかけた瞬間、臨戦態勢でこちらに武器を突き付ける。
周辺の関公様が集まって来て、たちまち盾による封鎖線が出来上がった。
流石というかなんというか、実に戦闘的である。
「私はこの土地の土地神です。そちらの物件の守り神になっていただけるなら、こちらの書類に……。」
「ここは我々の縄張りだ。そのようなしきたりに従ういわれはない。」
「いや、しかし昔からここを取り仕切っているのは当方でして……。」
「否!ここはどの神も居なかった。だから我々が占拠したのだ。ゆえにここは我々の支配下である!これは天命である!力無き者は去れ!」
そう言うと、背後の神々が一斉に武器を構えた。
さながら三国志の映画を見ているような光景である。
俺も鼻先に刃物を突き付けられ、思わす小さく手を上げる。
「……社長。話し合いが通じる雰囲気じゃないですよ。」
「力関係変わったとたんこれか……外国の神さんは、仁義の考え方も独特やなぁ。……しゃぁない。いったん戻ろうか」
社長の言葉にうなずくと俺たちは、仕方なくその場を離れた。
疫病払いに関わってたら
他所の神様やって来た
共存できればいいけれど、
どうもその気はないみたい
さてさてどうする?榊君
続きは次回のお楽しみ




