災厄は終わらない
しばらくして岩倉さんは無事意識を取り戻した。
「……あれ?私なんでここにいるんだっけ……。」
導眠剤とアルコールが効いたのかぼんやりするらしい。
だが、どうやら一部を除いて体への影響はほとんどないようだ。
俺はその様子に胸を撫でおろした。
「お疲れさまでした。勅使の役割無事果たしましたよ!」
「……ああ、そう……良かったわ。」
「ありがとうございます!さすがですね!」
「そ、そうでしょ?……うん、これで、あとは報告書出すだけね……あれ?これどこまで書いていいのかしら……。」
もう一つピンと来ていない岩倉さんだが、職務が遂行できたことはなんとか認識できたらしい。
彼女の役所内での立ち位置がどうか知らないが、多少は良い報告ができるのではないだろうか。
「なんか肌がひりひりするわ……。」
そう呟く彼女に俺はさもありなん、と無言で頷いた。
そう、彼女の体に起きた一部の影響というのは日焼けである。
おそらくあれだけの強烈な太陽光の中心部に居たためだろう。
白くてきれいな肌が印象的だった彼女が、連日、日サロに通い詰めたかのような小麦色の肌になっていた。
多分あとで鏡を見て気づくだろうが、そこは言うまい。
俺は彼女を起こすと、周囲を見回した。
撤収するため持ち去るものを探したが、あらかた焼け落ちたようだ。
恐ろしい威力だが、この際は身一つで撤収できるのはありがたい。
そして岩倉さんが着替えるため一足先にこの場を立ち去ると、突如、強い風が吹いた。
その風は周辺の塵をかき集め、徐々に人型を形作る。
もしやと思う間もなく、それはスサノオ様の姿となっていった。
「いやぁ、久しぶりに本気で力使ってすっきりしたわ。榊くんありがとうな。」
一瞬ぎょっとしたが、どうやらかなり浄化されたらしい。上半身は相変わらず素っ裸だが髭も髪の毛も完全になくなり、さながらお坊さんのようなヘアスタイルになっていた。
何より、あれだけいたスサノオ様達がもうこの一柱のみである。多分もうあちこちに手を出す霊威はもうあるまい。
「やっぱりたまには、こういうのやらなあかんな。またこんなんあったら呼んでな。」
ジムでひと汗かいた後みたいな口ぶりでそう言うと、スサノオ様は高らかな笑いと共に去っていった。
こんな天変地異クラスの喧嘩を毎度やられてはたまったものではないが、ひとまず無害化……というより災厄前よりましなくらいまでは浄化されたようである。
そんなどこまでも無邪気なスサノオ様に千住院は複雑な顔で見送る。
「……あいつはどうやったら消えてなくなるんじゃ。」
「まあ、神様ですからね。そうそう消滅はしないでしょう。」
多分人間の罪の意識が完全に消えない限りあの手の神様は存在し続ける。
つまりは、弱らせることはできても消滅することなどできないのだ。
「……ひとまず、疫病自体はこれで大幅に治まるやろ。あれこれめちゃくちゃになったから、今度はそれの後始末やな。」
「まずは逃げ散った神様を呼び戻さなきゃなりませんね。」
そう言うと俺たちは空を仰いだ。
アマビエ様はいまだに巨大なまま、遠くにそびえ立っている。
病気が払われても、人々の不安はそうは消えないのだ。
俺たちはこれからやらねばならないことに思いを馳せ、小さくため息を付いた。
「おおーい!大変やー!」
さて、と撤収を行おうとしたその時、遠くから呼ぶ声が聞こえる。
見ると、周囲の様子を見に行った恵比寿様が慌てた様子でこちらに駆けて来ていた。
「大変や!スサノオはんが祓われて空いたところに外国の神さんがはいってきた!」
「ええ?」
一難去ってまた一難。
この災厄の終息のためには、まだまだやらねばならぬことが多いようだった。
疫病穢れは払ったけれど
商売繁盛の道遠し
さらに他所から神様来たら
一体どうすりゃいいのやら
一難去ってまた一難
電気街はどうなるの?
次章更新とくと待て!




