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ごっどぶれすゆー スサノオ様本気出す?  作者: 宮城 英詞
光の戦士

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20/44

未だ神は戻ってこない

             天は高くして卑きに聴く 

                司馬遷「史記」


 20XX年、世界はかつてない災厄に見舞われた。


 学校から人は消え、商店街にはシャッターが並ぶ。

街からは行きかう人々も消え、経済は完全に止まったかのように見えた。


だが、人類は死滅してはいなかった。


 誰もいない商店街。

 俺はシャッターの並ぶアーケードの通りを一人歩いていた。

 かつてここは買い物をする人々や観光客でまっすぐ歩くこともできないほどにぎやかな通りだったのだが、今やそこを行きかう人々は誰もいない。

 うるさいくらい聞こえてきていた車の音すら聞こえない。

ただ、整理するものがいないのに律儀に信号が動くのみ。

遠くに小鳥のさえずりが聞こえてくるほどだ。

 小春日和、平日の昼下がりだというのに商店街は刻々と廃墟に近づきつつあった。


 そう、ここには神々もいない。


 あの災厄の日から、すべてが変わってしまった。

 人々とともにあれだけいた商店街の神々は姿を消し、街はただ、沈黙し続けている。

 ―俺たちは、一体どこから間違ってしまったのか―。

 俺はそんなことを考えながら沈黙し続ける街の中を歩いていた。



 あのスサノオ様が大量発生した日から数か月の間、俺は疫病の流行という災厄を軽く見ていたことを思い知らされ続けていた。

 事態は病気の流行に収まらず、神々がスサノオ様を恐れて姿を消すと同時に人間の経済活動が、それも世界規模で停止してしまったのである。

 それは人々の接触で病気が広がるという医学的な対策を各国が国ぐるみで行ったという人間の決定の結果ではあったのだが、ロックダウンという指示の元、学校が、会社が停止し、街に人が出ていくことが悪いこととされ、他の街に行くことを人々が敬遠し、人間が集まることを禁じられてしまうという事態になると、霊的にも神々は力を振るえなくなってしまった。

 結果、街は静止し、ゆっくりと朽ちていく。

 どうやら空いた場所のあちこちに、スサノオ様の分身たちが棲みついたようだが、結果穢れと荒廃を増幅して、さらに街の荒廃を促進していた。

 そして、商店街の向こうを見れば、俺の目には遠くに巨大なアマビエ様が見えている。

 人々の「不安」を糧に霊威を増すその神は、巨大な不安を糧として膨張し、今や通天閣に匹敵する巨大さとなっていた。

 多分、霊威の膨張の結果だろう、その姿は霊視できる俺の目には日本全国どこにいても見える、まるで夜のお月さまのような存在になっている。

 一部ではアマビエ様を疫病の守り神として崇拝する動きすら出ているそうだが、元々「件」と呼ばれる神の役割と属性のためか、人々の不安の象徴としているだけで、特に何をするでもなく、遠くに佇んでいるのみだった。

 このままでは遠からず、この町ばかりか人類そのものが朽ちてしまう。

 俺たちはその危機感から様々抵抗を続けてはいたが、霊的にも世界規模のこの事態の前では、日々の生活を支えるのがやっとという有様であった。

 通りを曲がり、路地に入る。

 その先にあるわが職場「弘田土地管理」も、今や開店休業状態である。

かろうじて中に土地神はいるが、やってくるのは暇をもてあそんだ疫病神ばかり。

現在は居留守を決め込むばかりで、表にはカーテンが閉められたままになっており、現在はこの災厄に対する抵抗組織の前線基地のようになっていた。

周りにスサノオ様がいないことを確認し、戸を三回叩く。

「……榊です。買い出しから戻ってきました。」

 そうつぶやくと中から鍵が開けられる音がする。俺はそれを確認すると最小限に戸を開け、素早く中に入った。

中には、自分のお社を事実上占拠された恵比須様と、疫病にかかり先月やっと隔離状態から解放された千住院がいた。

本日はここでささやかな対策会議が行われるにあたり、どうにか開いているコンビニで食料や食べ物を買ってきたところである。

「おう、すまんな、飲食店がどこも開いてないからここで話せざるをえんのや。お使いまで頼んで悪いな。」

お茶のペットボトルと弁当を受け取りながら千住院が礼をいう。

俺は、千住院が珍しく人に気を遣うのを見て苦笑した。

確かに彼をここに招かないと相談もできないこの状態がもはや異常であった。

外食産業は真っ先に営業が止まってしまった。おかげでこんな街中では相談はおろか食料の調達すら難儀してしまう。

流石にこの事務所に出前を呼ぶわけにも行かず、最近はもっぱらコンビニ弁当である、来客とはいってもどうにかできものではなく、唯一スサノオ様から害を受けない俺が買い出しに行くことになったというわけである。

 そして何より……。

 俺は恵比須様と社長に飲み物を供えながら続けた。

「仮に開いている店舗があっても、どこにスサノオ様がいるかわかりませんからね。」

 そうなのである。町中にはスサノオ様が溢れかえっている。

 下手なところでは相談などおぼつかないし、千住院などスサノオ様たちに好かれていないので再び病気にされる可能性すらあった。

ここに集まらざるをえないというのももはや消去法の結果でしかなかった。

「やれやれ、いつまで続くんじゃ。こんな状態が……。」

 うんざりした顔でペットボトルのお茶を飲む千住院。

 それはもはや彼ばかりでなく人類全体の正直な気持ちであった。

 そして、どこからともなく社長の声が聞こえる。

「もうなんだかんだ言うてあれから何か月も経った。ぼやくのも飽きたやろ。いい加減対策を考えんといかん。今日はそれで千住院君やえべっさんに集まってもらったんや。」

 突然響いた小さな声に、千住院は不思議そうにあたりを見回す。

「誰?なんかいうた?」

 どうやら千住院は社長の存在に気づいていないようだった。

 その言葉に俺は慌てて社長席に駆け寄った。

そこには、机の上に手のひらサイズになった社長がいる。

俺は社長を、そっと掌に載せた。

「……これが、ここの土地神さんかいな?」

「はい、ここの所のロックダウンで街の活気が失われてから、みるみる霊威が衰えているんです。なんとか小さくして存在を保っていますが……。」

 言いながら、目を丸くして驚いている千住院の前のテーブルに社長を移す俺。

「いやはや、情けない限りですわ。」

 そういう社長は頼りない上に、老いたようにも見える。それはさながら街の荒廃の象徴そのものと言えた。

その社長の姿に千住院は深いため息をついた。

「そう言ったわけで、わてらの状況はもう危機的ですのや。なんとか対策を出さなあきまへん。お二方にも知恵を分けてほしいんや。」

 そして、どこかやつれた恵比須様が声を上げる。

 俺たちはうなづき、今後の対策を検討し始めた。


月日は流れ、時間が経っても、改善なし

むしろ朽ちゆく、街があるのみ。

予想以上の病の猛威に神も仏も困り顔。

さてさてどうなる新展開。

続きは次回のお楽しみ!


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