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第三話 旅は道連れ

【第三話】


 翌日の早朝。少年と妖精は、人魚の鱗を求めて人魚伝説が残る海上都市・ローレライへ向け出発した。静かな森の小道を、上りかけの朝日を眺めながら歩く。少年は残り物の硬いパンを少しかじり、カケラを妖精に渡した。二人は朝食を取りつつ、この先の予定について話し合っていた。


「アル、ほんとにここに馬車が通るんだろうな?……俺たちこれに乗れなかったら絶っ対ローレライには辿り着けねえんだぞ」


 欠伸をしながらも不安そうに辺りを見回す妖精。何せ少年から、ローレライまでには馬車で1週間ほどかかると聞いたのだ、そわそわするのも仕方がない。そんな姿を見た少年はくすりと笑って、彼もまた少し眠気の残る表情で答える。


「いつもこの季節になると、ローレライから干物が運ばれてきて市場に並ぶんだ。それを運ぶ馬車が朝早くにここを通る。」

「そんなことよく知ってたな」

「うん、買い物とかは自分でやってたから。あとはお願いして乗せてもらえるかどうかかなぁ……」





◇◇◇




 二人は広々とした、磯と魚の匂いのする荷台に揺られている。辺りは青々とした木々が茂り、道端には白や淡色の花が点々と咲いている。軋みながらゆっくりと走る馬車を眺めながら、ほっとした少年は呟く。


「よかった……! 本当に通りかかってくれて」


 その言葉を聞いた御者は大口を開けて笑い、少年の髪を少し乱暴に撫でる。


「なんだ坊主ぅ、まさか本当に来るまで待つつもりだったのかよ! 運が良かったなぁ、次のはいつ来るかわかんねえぞ。なんてったってローレライの海が大荒れだからなぁ」


 少し深刻そうな顔になった御者に驚いた少年は答える。


「そんなにひどいの?」

「あぁ……なんでも沖に出ると船が沈んじまうらしくてよ、地元の奴らも気味悪がって近づかねえ。人魚の仕業だなんて言ってるやつもいる」


(あの街には、本当に人魚がいるのかな?

だとしたら何でそんなことを…………)


 妖精はのんびりと寝そべるが、心の隅に残る“海”という言葉が憂鬱な気持ちを呼び起こした。それを誤魔化すように、少年が自分のために置いた服に包まるのだった。




◇◇◇




 それから3日が経ち、時折人を乗せたり、降ろしたりしながら馬車は走る。たまに川や畑の脇道を通ることもあるが、ほとんどは森の小道を通る。そんな変わり映えのしない景色の中、相変わらず荷台にいるのは少年達二人だけ。

 昼下がりの太陽に誘われるように二人が船を漕ぎ始めた頃、馬車がゆっくりと止まった。少年が寝ぼけ眼で当たりを見回すと、そこにはローブを着た冒険者が立っていた。フードに隠れて顔のほとんどは見えないが、唯一見える桜色の唇は柔らかく弧を描いていた。


「もし、この馬車はローレライを通りますか?」

「おう! ちょうど向かってる。銅貨3枚でいいぜ、乗ってけよ」

「ありがとう、助かります」


 女性は控えめなカーテシーをして馬車に乗り込むと、ふわりと少年達の正面へ座った。微かなハーブに似た香りが鼻腔をくすぐる。少年の方を向くと口元だけで微笑み、さえずりのような美しい声で尋ねた。


「こんにちは、坊やたちはどこまで行くの?」


 その美しさに見惚れていたところへ突然話しかけられた少年は、一瞬固まるも気を取り直して答えた。


「……僕たちも、ローレライへ行きます」

「あら奇遇ね、私もよ。でも……あなた達はとても冒険者には見えないわ、何をしに行くの?」


 やや緊張気味に答えた少年を見て、頰に手を当てた女性は訝しみと心配を含んだ声音でもう一度尋ねた。


「僕たちも冒険者です。……ローレライへは、人魚を探しに」


 人魚、と聞いた女性の手がピクリと動き、唇を緩く噛んだ。その手をそっと撫でながら女性は考え込み、小さな声で答える。


「人魚、ね……。私も、それを探しているところなの」

「お姉さんも人魚の鱗?」

「いいえ、私が欲しいのはそれじゃないわ。…………呪いを解く方法を、探してるの」


 呪いを解く方法、と聞いた少年はぎょっとした後、僅かに訝しげな色を持った顔で女性を見る。話を聞いていた妖精も、少年の隣で狸寝入りをしつつ聞き耳を立てていた。


 不思議そうな顔で見つめる少年に対して女性は口を開きかけたが、それを戒めるように唇をきゅっと引き結んだ。


「これ以上は、まだ言えない。……でも、なるべく早く知りたいの」


 女性はどこか追い詰められたような声で答えた。そんな様子を見た少年はしばらくそわそわとしていたが、横を向いてこそりと妖精に話しかける。一瞬顔を顰め女性を見た妖精がそっぽを向き、苦笑いした少年は女性の方を向くと、まっすぐと顔を見て尋ねた。



「僕たちにも、協力させてくれませんか」



 驚いた女性は一瞬口を開き固まったのち、躊躇いがちに答えた。


「…………私の呪いはとっても危ないものよ、何かあったらあなたでは対応できない」


 そんな女性に対し、不貞寝していた妖精がめんどくさそうに答える。


「ふん、そいつは戦えねーけど俺がついてる。逃げ切るくらいの時間稼ぎは余裕だぜ」


 その言葉にぱあっと顔色を明るくした少年は女性の方を見つめ、彼女もまた少年の方を見た。


「こうやって話しててわかったんです。…………あなたはいい人だ。会ったばっかりなのに僕のこと、心配してくれてる。

…………そんな人が困ってるなら、助けたいんだ」


(それに…………僕だって、助けてもらったから)

 緊張にはやる心臓を落ち着けながら、少年は彼にとってのヒーローを思い浮かべ、ただじっと彼女を待った。




 しばらく二人は無言で見つめ合い、やがて女性が先に目を逸らし、震える声で答えた。


「私の呪いを解くのを……手伝って欲しい」


 少年はそれに対して輝かんばかりの笑顔で持って答える。


「もちろん!」


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