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「一度も勝てませんでした……」
結果発表で並ぶ杏鶴の名前は、誰よりも下の位置に並んでいた。
その上には雪翔、夏、暑志と並んでおり、結果的に一回戦目とあまり変わらない内容になっている。
「キル数は圧倒的だったけどな」
「そのおかげで王冠が貰えたのでよかったです」
「初心者が最多キル賞取ってるのヤバ過ぎる」
とても満足した表情で、ソファーに座った杏鶴が鼻を鳴らす。
ゲームに慣れていなかった彼女も、自分なりの形で楽しめたみたいだ。
「杏鶴がめっちゃ邪魔してくるから。結局あいつらに勝てなかったぞ」
「素直にルールを教えてくれないのが悪いのです。初めに手心を加えてくれていたら、協力することだってできたのに」
「えぇー。本当に協力してくれてたかー?」
夏と暑志は夜も更ける前に帰っていき、今は雪翔と杏鶴の二人しかいない。
沢山騒いで疲れたのか、杏鶴は少しぐったりとしていて、彼女らしくない気の抜けた姿勢で寛いでいる。
「……銃を手にしたら、一先ずあなたで試し撃ちをしていた可能性はあります」
「怖っ。ハンドル握ると性格変わるタイプや」
お試し感覚でやっていいことではない。
実際に先に喧嘩を吹っ掛けたのは雪翔ではあるけれど。
「雪翔はコントローラーを握ると意地悪になるのですか?」
「ん? いじわる?」
「いつもより冷たく感じました。全く助けてくれませんでしたし」
雪翔に放任されたことに彼女は少し不満そうだ。
目線だけを動かして、ジトッとした瞳を向けてくる。
「杏鶴にはリアルじゃ勝てないからな。ここでくらいボコしとこうと思って」
「想像以上に最低な返答が返ってきて驚いてます」
「ははは。代わりに暑志がいろいろと教えてくれただろ?」
「あの人だけです。私にルールを教えてくれたのは。……何度か撃ちましたけど」
「全然見境なかったよな。めっちゃ面白かったわ」
甲斐甲斐しく杏鶴のことをサポートしていた暑志が、レーザー銃に焼かれた瞬間が恐らく最高潮に盛り上がった。
「感情が昂って恩を仇で返してしまいましたが、怒っていたりしないでしょうか」
「平気だって。俺達の間じゃ殴り合いなんて日常茶飯事だし」
雪翔の扱われ方を見ていたら、杏鶴にも伝わっている筈だろう。
「そうは言っても私は初めましてだったので……」
「でも、約束してたんじゃないか? 次はリベンジするんだろ?」
「……はい。次は負けません」
今日は勝てなかったけれど、これで終わりではない。
再戦の誓いを彼女は交わしているのだ。
「だったら、その時までに特訓しとかないとな」
「ですね。三位の人くらいには勝てるようになっていないといけません」
「よーし。ボコボコにしてやるから覚悟しろ」
分かり易い挑発に雪翔がぽきぽきと指を鳴らす。
それに呼応するように機嫌が良くなるものだから困ってしまうのであった。
「私は……、雪翔の友人の、友達になれたのでしょうか」
コントローラーを握り直しながら、杏鶴がぽつりと独り言ちる。
その声はあまりにも弱弱しくて、問いかけになる前に萎んでいった。
「遊ぶ約束をしたんだろ? だったら。考える必要もないんじゃないか?」
それは、きっと。約束が果たされた時に実感を得るのだろう。
雪翔は、何も心配していないから。過度な励ましは必要ないと、軽く微笑む。
そんな雪翔を十秒以上見上げて、杏鶴はゆっくりと視線を落とす。
その目線の先には、伸ばした足に添えられた、彼女の白い手のひらがあった。
指先を控えめに絡めながら、自分を顧みるような素振りで、杏鶴は言う。
「何だか……、不思議な感覚がします」
慣れないことに戸惑う姿は、彼女の年相応な幼さを垣間見せた。
他者との繋がりに一喜一憂する一面は、十六歳の少女に相違ない。
「嫌な感じか?」
「……いえ。そうではなさそうです」
「そっか。そいつはよかった」
雪翔の問いに、彼女は小さく首を振る。
横顔から見える唇の端は、僅かに上を向いていた。
「変な奴らだけど、仲良くしてやってくれな」
「私の周りに変な人が増えてきているみたいです」
「残念だったな杏鶴。世には類は友を呼ぶって言葉があるんだ」
「類は友を呼ぶ……。なるほど。そうなのかもしれませんね」
「あれ? 怒られない?」
「ふふっ。今日の私は機嫌が良いので許してあげます。特別に、です」




