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「雪翔ダウンッ!!」
「ユキよえぇー!」
「うぜぇー!?」
食事を終えた大人三人組は、据え置きの家庭用ゲーム機を起動して、パーティーゲームを楽しんでいた。すごろく風のボードゲームと対戦型のミニゲームが合わさった【パンチパーティー】は、物騒なアイテムを用いて、相手を蹴落とし合いながら順位を競う友情崩壊ゲームである。
キャラクターには体力が存在し、すごろくのターンでアイテムによる攻撃が可能。体力がゼロになるとスタート地点に戻され、順位に直結する王冠を手に入れるためのコインまで失ってしまう。あと、今みたいに滅茶苦茶煽られる。
「あと一歩だったのに……」
クラウン目前で、雪翔は夏にライフルで撃たれ、スタート地点にリスポーンした。これにて全てのターンが終了。逆転は叶わず、四肢がぐにゃぐにゃになった自分のキャラクターが、ボロ雑巾のように投げ出されたところで、表彰式が始まる。
ミニゲームで一番勝利を収めた人。
コインを一番多く集めた人。
ダメージを一番多く稼いだ人。
その三名には、追加で王冠が贈呈され、最終的な順位が決まると、
「俺の勝ちぃー!! ユキよえぇー!?」
表彰台の最も高い位置に、ちょんまげを結ったアバターが着地した。
一位は、序盤から首位を守り続けた暑志であり、ボーナスクラウンも総取り。
ミニゲームもすごろくでも、圧倒的なゲームセンスで他プレイヤーを蹂躙し続け、大差で一位を勝ち取っていた。
「いやァ。やっぱりぃ、暑志さんには敵わないナァ」
「うんうんうんうんうん」
「ゲーム上手でカッコいいネェ」
「うんうんうんうんうん」
「きも男ロールプレイすんなっ」
「あれれー? どうしたのカナ? 最下位クン?」
「俺一位っ」
うざ過ぎる一位、二位がこれでもかと雪翔を煽る。
夏も負けた側の筈なのだが、一位の暑志にごまをすることで、自分も勝利者陣営のような顔をしていた。とんでもなく小狡いやり口に憤りを隠せない。
「ぐぬぬぬ。もう一回だ! 次は勝つ!」
負けて終わるのはプライドが許さず、二人に再戦を叩きつける。
「随分盛り上がっていますね……。何をしているんです?」
そこで、キッチンの方から後片付けを終えた杏鶴が戻ってきた。
三人の並々ならぬ熱狂具合に気圧されつつも、テレビ画面を見て首を傾げている。
「お。杏鶴もやるか? 四人でもできるぞ」
「このゲームをですか? やったことありません」
それぞれコントローラーを握って、横並びで座る夏、雪翔、暑志。
暑志が少し横に逸れて、雪翔との間にスペースを空けてくれる。
そこに杏鶴が腰を下ろし、暑志からコントローラーを受け取っていた。
「スマホのゲームとかも?」
「はい。この機械も初めて触りました」
「ほぅ……。丁度良いな。一緒にやろう」
「丁度良いとは……?」
「ん? ああ。いや。初心者の杏鶴をボコボコにしようなんて思ってないぞ?」
「絶対に嘘ですよね。……最下位だからって初心者にあたらないでください」
「んなっ!? おまえも言うかっ!」
先程のやり取りを、後片付けの片手間に見ていたらしい。
雪翔に効く言葉を的確に選んできて、より悔しさを煮え滾らせてくる。
「そこまで言うなら一緒にやるよな?」
「……まぁ。やってあげてもいいです」
杏鶴にまで挑発されて黙っている訳にはいかない。
コントローラーも四人分用意し、次のパーティーを開始する。
「あ、あの。流石にルールは教えて欲しいのですが……」
「分かってる分かってる。皆まで言うな」
「いえ。早急に教えてください。既に何かが始まりそうです」
「それじゃ。杏鶴。ジャンプはバツボタンだ」
「な、なるほど。それで飛んでくる岩を避ければ……、しゃがみましたけど!?」
前方から迫りくる岩を腰を据えて受け止め、顔面から吹き飛ばされる杏鶴のアバター。そのままマグマに落っこちていき、ジュっと無残に蒸発していた。
「あぁー。間違えたわ。ジャンプはマルだったわ」
「このっ……。意図して嘘を言いましたね」
「うおっ!? 揺らすなぁ! タイミングがズレるだろ!?」
胡坐を掻いていた右膝がグイッと押されて、強引にバランスが崩される。
そのせいで岩を避けることができず、二番目にマグマに転がり落ちていく。
「何してくれてんだぁ!?」
「……ふんっ。天罰が下ったんです」
「喧嘩はやめろてぇー」
「俺一位っ」
ミニゲームを終えれば、サイコロを振って王冠を取りに行くターンになる。
その道中に手に入れたライフルを取り出し、三マス後ろにいた杏鶴の頭に照準を合わせた。
「な、何ですっ。そんな物騒な物を構えて……」
「へっへっへっへっ」
「私に撃つつもりなんですか……?」
「さっきはよくもやりやがったなぁ!」
「考え直すことをおすすめしまっ」
「喰らえぇー!」
命乞いをする杏鶴にズトンと一発引き金を引く。
それからさっさとサイコロを回して、事件現場からそそくさと逃走を図る。
「あばよー!」
「許せません。この世の全ての人間の中で一番嫌いです」
「やっばぁーい。俺も手滑らせちゃったぁん」
「え? 百瀬さん……?」
並々ならぬ憎悪を燃やし、今にも爆発しそうな杏鶴。
そこに追い打ちをかけるように、夏の懐からたわわに実ったスイカが飛び出し、コロコロと転がり始めた。
それは明らかに意図した足跡を残して、杏鶴の方に近付いていく。
「杏鶴ちゃんってさぁ。スイカ好き?」
「スイカはす。いえ! 嫌いです! だから。こっちには転がさないでください」
「好き嫌いはだめだよーん」
スイカは足元に到着し、その瞬間に大爆発。
既にボロボロの身体が宙を舞って、地面に強く打ち付けられた。
「……」
「ごっめぇーん」
「……駆逐します。絶対に」
経験者達からの洗礼を食らい、杏鶴の瞳に殺意が満ちる。
その内殺戮マシーンになってしまいそうな勢いで表情が死んでいるが、唯一の良心である暑志が助け舟を出して、どうにか宥めようとしてくれている。
「杏鶴ちゃん。こっちのルートに行けば、最強の武器があるぞ」
いや。完全な殺人鬼になるように後押しをしていた。
「それが私の欲する物です。王冠なんて要りません」
王冠を集めることがこのゲームの本質なのだが、杏鶴は迷いなく武器屋の方に進路を切り、雪翔と夏を蹂躙するための武器を求めて駆け出していく。
「やべぇのが生まれちまったかもしんねぇ……」
その後も杏鶴は、拙い操作ながらもミニゲームを乗り越えて、着実に武器屋を目指して歩を進める。
そして、とうとうその場所に到着した。
「ようやく手に入れられました。これが最強のレーザー銃。……ふふふ」
全方位全距離を一撃で仕留められるレーザー銃を手に入れ、杏鶴が不敵な笑みを漏らす。
「笑ってる。最下位なのに笑ってる……」
「ここから始まっちまうのか……。杏鶴ちゃんの殺戮ショーが」
「盛り上がってきたぁー! やったれー!」
「覚悟してください。一番クラウンに近い人間から抹殺していきます」
「やべぇやべぇ」
「こっわ」
「あれ? 杏鶴ちゃん。俺も?」
悪質なやり口まで身に着けて、レーザー銃を振り回す杏鶴。
そこからの展開は実に凄惨で、絶対的な力による虐殺が、最終ターンまで続くのであった。




