第13回『ダンジョンに蠢く怪物・ロックスパイダー5』
足が張り付いて動けないまま、半狂乱になって叫びながらこん棒を振るうゴブリン。
しかし、ロックスパイダーの体はおろか足に当たっても、鈍い音を立てて弾かれるだけでダメージを与えている様子はありません。
むしろ焦って攻撃をしたせいか、左足でも糸を踏んでしまい、バランスを崩して仰向けてに倒れてしまいました。
暗闇で逃げる選択肢がなく、ゆっくりとロックスパイダーが近寄ってくる様子を想像すると、ああして半狂乱になってしまうのも頷けます。
「暴れれば暴れるほど、糸を踏んだりして余計に身動きが取れなくなる。
足元に粘着性の高い糸があるという状況は、我々が思っている以上に厄介なものなんです」
攻撃をする時には足を踏ん張らなくてはいけません。
その足元が安心できないというのは、なるほど確かに厄介極まる状況です。
さて、仰向けに転んでしまったゴブリン。その際に背中もまた、糸にくっ付いてしまったのでしょう。叫び声をあげながら立ち上がろうとしていますが、もはやそれは不可能。
完全に無力となった獲物を前に、ロックスパイダーは不可思議な行動をとり始めます。
そのまま獲物に向かうのではなく、わざわざ獲物の上……天井に向かうように壁を登り始めたのです。
「もう少し様子を見てみましょう。彼らの捕食シーンを見ることができますよ」
博士に何が起きているのかを尋ねてみたところ、そんな返答が戻ってきました。
その言葉に従い、壁をよじ登る姿をカメラで見守ります。ほどなく天井までよじ登り、ゴブリンを正面から見ることができる位置に移動したロックスパイダー。
するとどうでしょう。
ロックスパイダーは顔を上げてゴブリンに口を向けると、そこから白い塊を何度も勢いよく吐き出したではないですか。
吐き出された白い塊は、ゴブリンの体のあちこちに貼りついていき、最終的には顔以外全てを覆いつくしてしまいました。
「今吐き出されたのは糸の塊です。ああやって敵の体を糸で完全に覆って動けなくするわけですね」
わざわざ天井まで移動したのも、正確に狙いを付けるためだったわけです。
しかし、なぜわざわざ正確に狙いを付ける必要があるのでしょうか。動けなくするだけなら、適当に糸の塊を吐き出せばいいようにも思えます。
「それは簡単です。獲物を殺さないように……つまり今回のゴブリンでいうなら呼吸する口や鼻を塞がないためですよ」
なるほど、獲物を殺さずに捕まえるために必要だったというわけですか。
さて、体の隅々まで糸に覆われてしまったゴブリン。こうなるともう、糸に覆われていない口で意味のない金切り声を上げることしかできません。
ロックスパイダーはゴブリンがもう抵抗できないことを確認したのか、悠々と天井から降りてきます。
そしてゴブリンの近くまで移動すると、なんと前足の一本をゴブリンの胸の上――ちょうど心臓があるあたりへと動かします。すると、急にゴブリンが苦しみだしました。
「ロックスパイダーたちゴーレムは、当然ですが生物のように肉などを食べることはありません。
そんな彼らの捕食というのは、魔力を吸収することを指しているんです。生物の心臓は魔力を作り出す器官でもありますから、ああして直接魔力を吸収しているんですよ」
カメラを魔力を見ることができる特殊なモードに切り替えて撮影してみると、確かにゴブリンの心臓部からロックスパイダーの足先に向かって、急激に魔力が流れているのが見えます。
ロックスパイダーの足先には、魔力を吸収する特殊な構造が備わっているのでしょうか。
「その通り。ロックスパイダーの二本の前足は、先端だけが吸魔鉱石という特殊な鉱石で造られています」
吸魔鉱石とはダンジョンでのみ採取できる鉱石で、名前の通り魔力を吸い取る効果を持っている鉱石です。そしてこの吸魔鉱石は、小さくなるとより強力に魔力を吸収するという特性があります。
細長い足の先端だけ――おおよそ3cmほど――がこの鉱石になっているのであれば、それこそゴースト並の勢いで魔力を吸収することができます。
「先端部分だけをどうやってあの鉱石に変えているのか、それはまだわかっていません。
なにせダンジョン内のモンスターは生態調査が難しいですからね」
ダンジョンに生息するモンスターは、生け捕りにすること自体が難しく、またダンジョンという特殊な環境を再現することも難しいため、なかなか生態調査が進んでいません。
ロックスパイダーがどうやって捕食をしているのかが判明したのも、実はつい最近なのです。
ゴーレムというモンスター自体、どのように生まれているのかが分かっていませんから、分からないことの方が多いのも仕方ないことなのでしょう。
「ロックスパイダーがああしてその場で捕食行動をするのは、巣穴まで持ち帰ろうとすると他の敵に横取りされる危険があるからと言われています」
確かにダンジョンという閉鎖された環境において、獲物を持ち歩くというのは危険が伴います。
そう考えれば、捕まえたその場で捕食してしまうというのは理に適っているように感じます。それに、糸で覆われた獲物を一度剥がしてから持ち歩けるようにするのも、無駄な時間がかかってしまいます。
獲物が引っかかるのを待つという狩りの形態である以上、捕まえた獲物は確実に自分のものにする必要がある。
だからこそ、ロックスパイダーはこうしてその場で獲物を捕食することに特化したのかもしれません。
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その6へ続きます。
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