第10回『人類を狙う深夜の狩人・ヒューマンキャッチャー6』
この小説に目を留めていただきありがとうございます。
皆様の暇つぶしになれば幸いです。
自動人形が疑似餌の近くまでやってきた時、不意にヒューマンキャッチャーが潜んでいる草陰の上方から、細長い物が縦に振り下ろされるようにして、自動人形めがけて伸びていくのがわかります。
スロー再生のゆっくりな速度であってもブレてしまっているそれは、ピンク色をした鞭のように見えます。先端部分は丸くなり、一直線に自動人形へと伸びています。
猛スピードで伸びてきたその先端が、自動人形の胴体部分に接触。その後、伸びてきた時と同じ速度で自動人形ごとヒューマンキャッチャーのいる草陰へと戻っていきました。
「さっき伸びてきたのは、あいつらの舌だ。カエルやカメレオンとか、ああいった類のな」
なるほど、確かにそう言われてから先ほどの映像を見返してみれば、伸びているのは確かにカエルなどの舌に似ています。やはり高い隠遁能力を持っていることといい、カメレオンが基になったモンスターなのかもしれません。
しかし、スロー再生でもブレてしまう程の速度とは驚きです。
実際にはどのくらいの速度が出ているのでしょう。
「彼らが伸ばす舌の速度は、探索者ですら目で追うことは難しいほどのスピードです。
実際にその速さを計測してみたところ、なんと時速700km以上の速度が出ていたようですよ」
時速700km以上というと、私たち一般の人間には目で追うことはおろか、見ることもできないでしょう。気付いた時には既に攻撃を受けていると言っても過言ではありません。
魔力で身体能力を強化している探索者であっても、恐らくぎりぎり見えるかどうか。
この恐るべきスピードを持つ舌による攻撃があるからこそ、ヒューマンキャッチャーとの近接戦闘は避けるべきと言われているのです。
「彼らは普段、舌を渦状に丸めて口の中に収納しています。そして獲物を捕食する瞬間、根本から一気に渦を解放し、鞭を縦に振る要領で先端部分をものすごい速度で相手に向けて伸ばしているんです」
鞭を思いきり振った場合、先端の速度は音速を超えると言われます。さすがにモンスターと言えども、舌という器官を音速を超える速度で動かすとダメージを負ってしまうので、時速700km程度になるようにしているようです。
さらに先端部分からは非常に強力な粘液を分泌しており、少しカスっただけでも100㎏くらいの重さなら余裕でくっ付いて口元まで戻すことができるようになっています。
「恐ろしいのは、彼らの舌の筋力です。時速700kmという恐ろしい速度で振り下ろされているのに、その最中でもしっかりと獲物に当たるよう微調整をすることができるんですよ」
「しかも、絶対に地面に当たらないようギリギリで止めることもできるんだ。
舌ってのは、言ってしまえば内臓に近く脆い部分だからな。高速で地面にぶつけてしまえば、使えなくなってしまう」
彼らにとって舌は獲物を捕まえるための手段であるのと同時に、守らなくてはいけない弱点でもあるようです。
ですがもちろん、戦う場合にはその舌は強力な武器として使われます。時速700km近くの速度で縦横無尽に振るわれる、筋肉の塊である舌は、生半可な防具では防ぐことすらできないでしょう。
上級探索者のディフェンダーであっても、真正面から耐えられるのは5発が限度と言われます。
下級探索者であれば、例え防御に優れるディフェンダーであっても、一撃で紙屑のように吹っ飛ばされてしまうでしょう。
「彼らが活動していない時間……つまり眠っている時に襲えばいいのではと思うかもしれません。
しかし、彼らは眠っている時も周囲の景色に溶け込んでおり、見つけ出すのは難しいです。そうして探している間に彼らに気付かれてしまえば、その舌で攻撃を受けてしまいます」
決して寝ているからといって簡単に狩れるというわけではないヒューマンキャッチャー。
昼間でも暗い森林部の草陰から、周囲に溶け込んでいる彼らを見つけるのは、熟練のスカウトですら難しいと言われるほどです。そして草陰を移動すれば当然音が出てしまい、それによって彼らに接近を悟られてしまいます。
そうなれば、あちらの方が先に接近してきた者を見つけ、攻撃されてしまうのです。
だからこそ狩猟をする際には、彼らの目印である疑似餌が目立つ深夜、遠距離からの狙撃が一番安心だと言われているのでしょう。
「彼らは舌に獲物をくっつけると、そのまま獲物を丸呑みしてしまいます。
彼らの胃酸はとても強力で、例えば岩や鉄などであってもほんの数秒で容易に溶かすことが可能です」
人間がそんな胃酸の中へ放り込まれてしまえば、その先は想像したくもないものとなります。
この強力な胃酸を持っているというのも、彼らが人間をターゲットにしているから持ったと言われています。武器を持った人間ならば、胃の中で暴れる危険がありますからね。
ですから鉄ですら数秒で溶かす胃酸を持つことで、丸呑みにした人間が一切抵抗できなくするようにしているのです。
「さらに言うなら、彼らは深夜から朝方までしか活動せず、それ以外は草陰でずっと眠っています。
あれだけの巨体でありながら、活動時間を大きく限定することで魔力の消費を極端に抑え、一度捕食をしてしまえば1ヶ月は飲まず食わずでいきていけるんですよ」
捕まってしまえば確実な死が待ち、それでいて対策も十分に行うことができない。何より人間なら子供を助けなければと思ってしまう心理を利用するため、疑似餌をわざと精巧な子供型にする。
さらに、ほとんど移動などの行動を起こさないことで、待ち伏せという不確実な方法でも問題なく活動し続けることができる。人間だけをターゲットとしたヒューマンキャッチャーの、恐ろしく合理的な生態がそこにありました。
読んでいただき、ありがとうございます。
今回はちょっと長くなったので、その7まであります。
もう少しお付き合いくださると嬉しいです。
※誤字脱字などありましたら、感想などで教えてください。




