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第6回『泳ぐ刃物・ナイフフィッシュ4』

この小説に目を留めていただきありがとうございます。

皆様の暇つぶしになれば幸いです。

 固まって動いていたのに、まとめて食べられてしまったナイフフィッシュたち。



「こうして見ているだけでも、ヒレが攻撃に使えないのはわかりますよね。

 ですが――見てください、あれこそがナイフフィッシュが外敵に食べられないための対策の結果です」



 博士がそう言うのと同時に、ナイフフィッシュたちを口の中に納めたロケットシャークが苦しむように身悶えし、閉じた口を大きく開きました。

 すると食べられたはずのナイフフィッシュが一斉にその口から飛び出してきます。

 よく見れば、開いたロケットシャークの口からは血が流れ出ているようにも見えます。



「考えてもみてください。ナイフフィッシュたちのヒレはナイフのようになっているんです。

 それを複数体口の中に入れる……ということは」



 想像するだけでゾっとします。つまり先ほどのロケットシャークは、口の中に何本ものナイフを閉じ込めた状態になっていたわけです。そして当然ながら口の中に入れたナイフは、外に出ようとめちゃくちゃに動き回ります。

 ロケットシャークに限らず、ほとんどの生き物はどれだけ外皮が硬かったり、装甲のような鱗をもっていたりしても、口内は食べ物を食べやすくするために柔らかくなっています。そんな場所でナイフのような物が動き回れば、どうなるかは想像するまでもないでしょう。


 実際、カメラを使って開いたロケットシャークの口の中を見てみれば、あちこちに無数の傷跡が見えます。

 それは当然ながら、ナイフフィッシュたちが口の中で暴れまわったせいなのでしょう。



「まあ、とはいっても食べられた全てのナイフフィッシュが無事に脱出できる訳ではありません。

 例えば口を閉じた時に噛み砕かれてしまえば、ナイフがあっても関係ないですからね」



 よく見てみれば、ロケットシャークの口から逃げ出しているナイフフィッシュたちの数はあまり多くなく、ほとんどの個体は体を噛みちぎられて死亡してしまっています。

 基本的に大型の海洋モンスターは、獲物をそのまま丸呑みするのが普通です。

 しかしロケットシャークのような中型モンスターの場合、しっかりと噛み砕いてから飲み込むので、捕食されてしまえば無事に逃げられる確率は低くなってしまいます。



「ロケットシャークの牙は、厚さ10cmの鉄板ですら簡単に噛み砕きます。ナイフフィッシュのヒレなんて、あってないようなものでしょう」



 ちなみに大型モンスターの場合、彼らのヒレで多少傷つけられたとしても蚊に刺された程度の痛みしか感じません。

 捕食者への対抗策としてナイフのようなヒレを手に入れて、群れを作っているはずのナイフフィッシュ、しかし実際にはそこまで有効な対抗策にはなっていないようです。

 ロケットシャークも、一度は驚いて口を開けたようですが、数秒もすると気を取り直して別のナイフフィッシュの群れを襲いだしました。そしてまた再び群れを飲み込んでから、驚いたように口を開けています。



「あれはロケットシャークの学習能力が無いのではなく、単純に効率が良いのでああしているんです。

 口の中を多少傷つけられたとしても、ナイフフィッシュを食べて魔力を得ればそれで修復することもできますからね」



 魔力を使うことで行える身体強化は、自然治癒能力の強化も行っています。

 つまり口の中を切られた程度なら、ナイフフィッシュを食べて得られる魔力で身体強化を行うことで、あっという間に完治してしまうのです。

 一時的に逃げるためとはいえ、やはりナイフフィッシュのヒレはそこまで自衛に役立っているとは言えません。

 それでも、もし捕食者に対抗できるだけの戦闘力を身に付けるなら、体の構造を大きく変えなくてはいけません。


 そうすると現在のように海中のマナだけ魔力を補うことは難しくなり、捕食をするという余計なリスクを背負うことになります。ナイフフィッシュは無理に体を変えてリスクを増やすよりも、1匹だけでも逃げることができればいい、という今の方法で自衛することを選んだのです。



「ある意味では、彼らこそ生態系を支えていると言っても過言ではありません」



 自分では捕食せず、被捕食者としてもそこまで激しい抵抗をしない。

 そんなナイフフィッシュだからこそ、多くのモンスターの食料とされています。しかしそれは、余計なリスクを背負わず生きることを選んだ彼らなりの、生態系への恩返しなのかもしれません。






お読みいただき、ありがとうございます。

その5へ続きます。


※誤字脱字などありましたら、感想などでご指摘ください。

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