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第6回『泳ぐ刃物・ナイフフィッシュ2』

この小説に目を留めていただきありがとうございます。

皆様の暇つぶしになれば幸いです。

 全長24mにもなる中型船であるこの船の底一面がガラス張りになっているというのは、実際に自分の目で見てみると驚きの一言です。さらに博士がスイッチを入れたことで一斉にライトが照らされ、周辺の水の中が明るく照らされます。



「ほら、見えますか? 前の方からナイフフィッシュが何匹もぶつかっていますよ」



 博士の指さす先……船が進む方向から無数のナイフフィッシュが向かってきて、ガラス張りの船底にヒレをぶつけて去っていくのが見えます。

 当然ですが、ナイフフィッシュが故意に船へとぶつかっているワケではありません。

 彼らはただ泳いでいるだけで、そこに船が向かっているので避けきれずにぶつかってしまうのです。そもそも、ナイフフィッシュのヒレが固く切れ味の良い物となっている理由は、そういった衝突をした際に身を守るためだと言われています。

 三角形の体の頂点から硬いヒレを伸ばすことで、柔らかい体に衝突する可能性を少しでも下げているんですね。

 まあ、彼らにとって生き残るために取った方法こそが、皮肉なことに漁師たちから蛇蝎の如く嫌われる原因となってしまっているのですが。



「ナイフフィッシュがぶつかったところを見てください」



 ちょうどぶつかったばかりの部分を見てみれば、硬化ガラスであるはずの船底に薄い傷がついています。マリンゴーレムの体を混ぜ込んだこの硬化ガラスを傷つけられるというのは、かなりの硬さがある証拠です。

 なるほど、これでは普通の金属製の漁船が傷だらけになってしまうのも納得できる話でしょう。

 特殊な硬化ガラスで作られたこの船底は、このくらいの傷ならばすぐに海中のマナを使って修復していきます。しかし金属製の装甲ではそうはいきませんから、船底に何回もナイフフィッシュによって傷がついてしまえば、そこから錆て行くことになり、なにより複数の傷がつくことで船底全体の強度が低くなり、穴が空いてしまう危険もあるのです。 



「実際、今までにも何回かナイフフィッシュの傷が原因で船が沈没したという事件が起きています」



 ナイフフィッシュによる海難事故は、全体数は多くないものの年に1~3回程度の頻度で起きています。ナイフフィッシュはそこまで速く泳いでいるわけではありませんが、漁船はかなりの速度で海の上を移動していますから、当然ぶつかれば大きな傷がつく場合も少なくありません。

 ですから彼らのいる場所を通るということは、ナイフが浮かんでいる海域を猛スピードで進んでいるのと同義なのです。

 当たり方が悪ければ、一回ぶつかっただけで穴が空いてしまう危険もあるため、漁師たちからすればたまったものではないでしょう。



「ですからそういった事故を防止するために、現在ほとんどの船は船底に対ナイフフィッシュ用の装甲を付けています。

 ただ、この追加装甲のせいで船の維持コストが増えてしまい、出費がかさんでしまうんですよね」



 海の中ならどこでも存在していると言えるほど大量に生息しているナイフフィッシュとぶつからないよう、彼らを避けながら海を進むことは不可能です。

 そのため対策として、海を行く船は必ず船底に追加装甲を付けることでナイフフィッシュの対策としています。追加装甲といっても、分厚い鉄板などを付けてしまえば船の運航に支障をきたしてしまいますし、今回我々が乗っているような特別仕様にするには莫大な資金が必要となります。


 ですから、ほとんどの漁船は厚さ3㎝ほどの薄い鉄板を船底を覆うように付けることにしています。しかし薄い鉄板ですから、数回漁に出るだけでナイフフィッシュのせいでボロボロになってしまい、そのたびに交換する必要があります。

 ただの金属板とはいえ頻繁に交換するとなれば、それだけ出費がかさむのも納得です。


 とはいえ追加装甲を付けていなければ、船そのものがダメになってしまうので付けない訳にもいかない。

 追加装甲そのものは海洋モンスター全般への対策にもなっているとはいえ、遭遇を回避できず、そのうえすぐ鉄板をダメにしてしまうナイフフィッシュは、漁師にとって頭痛の種になっているのです。



「ちなみに、船にぶつかったナイフフィッシュも当然ですが無事ではすみません。

 大半の場合はヒレが壊れてしまい、泳げなくなってそのまま死亡するという事がほとんどです」



 いくら鉄と同じ強度があると言っても、船と小魚であるナイフフィッシュでは質量に大きな差があります。

 そのため衝突した部分のヒレは必ず割れたり欠けたりしてしまい、ヒレの一部を失ったナイフフィッシュは普通に泳げなくなってしまい、他のモンスターに捕食されたり、泳げず呼吸ができなくなって死亡してしまいます。

 もちろん、体の部分が衝突すればそのまま死亡することもあるので、彼らが望んで漁船にぶつかっていないことがわかるでしょう。


 漁師たちにとって天敵ともいえるナイフフィッシュ。

 そんな彼らですが、実は普通の魚の生態とは大きく違っている部分があります。



「実は彼らは、食事をせずに生きていけるモンスターなんです」



 モンスターの多くが他の生物を襲うのは、それらが獲得している魔力を自分の中に取り込み、自分の物とするためです。しかしナイフフィッシュは非常に小型のモンスターであり、さらに泳いでいるだけなのでそこまで魔力も消費しません。

 そして皆さんご存じだと思いますが、海や森といった自然の多い場所ではマナが非常に豊富で高い濃度となっています。

 そうなると、小型モンスターであるナイフフィッシュは他の生物を捕食しなくても、吸収できるマナから変換できる魔力だけで生きていくことができるようになるのです。



「ですからナイフフィッシュは他の生物……それこそプランクトンなどの微生物でさえ捕食する必要はありません。

 日がな一日、のんびりと海の中を移動しているだけの無害なモンスターなんです」



 直接何かを襲うという訳ではなく、移動している結果被害をもたらしてしまうというのは、ある意味モンスターとしては異端です。しかし食事をしなくても生きていくのに十分なエネルギーを得られるのですから、わざわざ他の生物を襲うという手間をかける必要がないのも頷けます。

 さらに言うなら、そもそも彼らには他の生物を捕食するだけの身体機能が備わっていないという部分もあります。



「彼らの正三角形の体は、太さが2㎝ほどしかない非常に細い体となっています。

 さらに食物を摂取する必要がないせいもあって、胃や腸といった器官は存在せず、心臓しか確認されていません」



 それは元からそういったモンスターとして存在していたのか、長く食べ物を摂取しないでいたから退化したのか、そこのところはわかっていません。

 ナイフのようになっている彼らのヒレは、あくまで自分を捕食しようとする相手への対策でしかないのです。

 外敵への対策としても、あまり役立っているとは言えないのですが。


 そして海中のマナを取り込むだけで生きていけるからこそ、ナイフフィッシュは全ての地域の海に存在することができているのも事実です。

 海中に存在するマナは、海であれば地域によって若干の違いはあれどほとんど誤差。

 ナイフフィッシュたちが生活していくには、十分すぎるほどのマナが存在しています。


 他の海洋モンスターは、そのマナだけでは体を維持することができないため、より多くのマナを確保するため捕食できるモンスターや生物が多い場所を生息地としています。

 しかし自分だけで生きていく循環が完結しているナイフフィッシュは、それこそ海の中ならどこでも生きていけます。

 さらに水温の変化にも強いモンスターですから、どの海でも元気に泳ぎ続けることが可能なのです。



「まあ、それだけに世界中どこでも漁師を悩ませる種になってしまっているのですが」



 ちなみにナイフフィッシュのヒレでは、漁で使われている網が切れる心配はありません。というのも、ナイフフィッシュのヒレはそこまで切れ味が良くないからです。

 彼らのヒレは非常に薄く硬いため、スピードがある状態なら切れることもありますが、触れただけで切れるほど鋭いわけではありません。そのため、太く丈夫な網を切り裂くことは不可能で、普通に網漁で捕まえることができます。



「ちなみに彼らは普通に食用魚として扱われています。スーパーの鮮魚コーナーで見たことは多いんじゃないでしょうか」



 当たり前ですが、鮮魚コーナーなどで販売されているナイフフィッシュは危険なヒレ部分は取り除かれています。

 ナイフフィッシュは三角形をしているため、それぞれの頂点を頭から尻尾に向けて切り取っていくだけでヒレが綺麗に取り除けるので、加工がしやすいという特長があります。

 味そのものは平凡で、美味しくも不味くもないという程度。それこそ季節や場所を問わずにいつでも採ることができるので値段も安く、庶民の味方と言える魚です。ですから漁師たちの間では、漁船を傷つける厄介者でありながら、いつでも収入に繋がる魚として重宝もされています。






お読みいただき、ありがとうございます。

ちょっと長くなっちゃいましたね。

その3に続きます。


※誤字脱字などありましたら、感想でご指摘ください。

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