第3回『森の王者・シルバーベア5』
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仕留めたスケイルウルフの死体に、頭からかぶりついたムーン。
どうやら、いよいよ食事開始ということでしょうか。
「シルバーベアは骨を避けて食べるなどの、通常の肉食動物のような食べ方はせず、骨ごと噛み砕いて飲み込みます。
魔力を少しでも多く取り込むためには、その方が効率が良いのでしょうね」
博士の言葉通り、かぶりついたスケイルウルフの頭を、大きな音を立てて頭蓋骨ごと食べているムーン。
血の一滴すら逃さず食べようとしているかに見えるその姿からは、なるほどムーンたちシルバーベアにとって魔力がどれほど重要なのかが分かります。
「ちなみにシルバーベアは縄張り争いに負けるなど、特殊な理由がない限り森から出ていくことはありません。
これは、平原ではマナの濃度が低すぎて、先ほど見せたような力が使えなくなってしまうからなんです」
空気中に含まれる魔力の元となるマナ。
この濃度は、自然物が多い場所ほど高くなると言われています。そのせいもあって、平原にはあまり強いモンスターは存在せず、森や溶岩地帯、海の周辺といった場所になるほど強いモンスターの生息域となっていくのです。
マナが生物の体内に取り込まれることで魔力へと変換されることは周知の事実ですが、その魔力がどのように使われているのかを知らない人も多いのではないでしょうか。
魔力は私たち人間も含めた生物の体内で生成されたあと、体を動かすあらゆる動作の補助として消費されています。
火事場のバカ力と呼ばれる、緊急時にあり得ないほど凄い力を発揮するのは、この魔力を瞬間的に多く消耗することで限界を超えたパワーを発揮させているんですね。
ですからマナの濃度が薄くなればなるほど、こういった凄い力を発揮することは難しくなります。
つまりシルバーベアの恐ろしい力もまた、マナ濃度の濃い森の中だからこそ使うことができるというわけですね。
実際、縄張り争いで敗れて森を追われたシルバーベアが平原へと迷い出て、その銀色の体毛を失いスケイルウルフなどに狩られるという事例も、非常に稀ではありますが確認されています。
「シルバーベア自身もそれを理解しているからこそ、めったに縄張り争いは起きません。
お互いの縄張りが重なってしまった時は、争うよりも先に縄張りの交渉をする場合の方が多いんです」
シルバーベア同士の縄張り争いは、それこそ文字通り命がけのものになります。
先ほど見たあれだけの力でお互いに殴り合い、噛みつき合って決めるわけですから、負けた方は運が良くても瀕死……勝利した方もしばらくは動けなくなる傷を負うことがほとんどです。
そうして弱ったところ探索者に狩られたり、他のモンスターに襲われる可能性があることを理解しているのでしょう。
ですから森の中で傷ついたシルバーベアと出会うことはまずありません。
こういったリスクリターンの管理ができる知能の高さもまた、彼らが森の王者であるには必要なのです。
「おや、話をしているうちに食事が終わったようですね」
視線をカメラ映像に戻すと、3mはあったスケイルウルフの体は血だまりを残してすっかり無くなっていました。
ムーンを見れば、手や体についた血を器用に拭って舐め取り、毛づくろいをしています。
「シルバーベアは意外と綺麗好きなんです。体毛に汚れが付いていると、ああして毛づくろいをするだけでなく、1日に2~3回くらいは水浴びをします。汚れが付いていても、特に体毛の効果に影響はないんですけどね」
綺麗好きというのは、私たちが知らないシルバーベアの一面でした。森の王者、凶悪なモンスターという印象しか持っていなかった我々は、その情報にほほえましさを感じます。
彼らは体毛が汚れることを嫌い、多い個体ともなると、それこそ食事のたびに水浴びをし、そのためだけに水場の近くを縄張りにする場合もあるのだとか。
私たち人間から見ても美しいと感じる銀の体毛。
それはムーンたちシルバーベアからしても、自慢に思う部分なのでしょう。
毛づくろいを終えたムーンは、その場を後にして次の縄張りを確認するために歩き出しました。
食糧探しも兼ねているからか足取りはゆっくりで、あたりを注意深く観察しながらです。
「彼らの生活サイクルは、おおよそこれの繰り返しです。
縄張りを見回りながら食料を探し、狩って、食べる。そして体毛が汚れれば水浴びをして眠る。
ある意味では私たち人間以上に規則正しいサイクルで生活をしているんですよ」
森の王者として恐れられているシルバーベア。
しかし今まで知らなかったその生態を知れば知るほど、我々取材班は彼らに親近感を覚えました。
「確かに、私たち研究者の中にもシルバーベアに親しみを覚える人はいます。
綺麗好きであったり、食べ物の確保に必死になったりと、恐ろしさだけでなくどこか人間臭さがあるせいでしょう」
次の餌を探して歩き出すムーンの背中を追いかけながら、博士もまたそう言って笑うのでした。
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