第3回『森の王者・シルバーベア4』
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途中で何回か縄張りを示す引っ掻き傷を付けなおしつつ、ムーンが獲物を見つけたのは実に30分ほど後のことです。
見つけたのは、本来なら平原にいるはずのスケイルウルフでした。恐らく、平原から森の中へと迷い込んでしまったのでしょう。あたりを見回しながら、森の中を進んでいます。
「シルバーベアの狩りはそこまで複雑なものではありません。
獲物を見つけたら全速力で追いかけて、持てる力の全てで叩き潰す。それだけの単純なものです」
博士の言葉が終わるかどうかの間に、ムーンは雄叫びをあげてスケイルウルフへと走りだします。
雄叫びに気づいたスケイルウルフは一瞬だけ驚いた様子を見せましたが、すぐに身構えてムーンへと走り出し、恐ろしいほどの俊敏性で彼の背後を取りました。
そして、背後からムーンの左腕めがけて飛び掛かり、その鋭い牙を突き立てます。
スケイルウルフの牙は、鉄製の鎧でさえ簡単に貫通し、人間に致命傷を負わせることができる鋭さを持っています。
シルバーベアであってもその牙で噛みつかれては、ただでは済まないのではないか……我々はそう思いました。
……しかし、森の王者と呼ばれるのは伊達ではありません。
「スケイルウルフの牙は、確かに恐ろしい殺傷能力を持っています。
それでもなお、シルバーベアとスケイルウルフでは戦闘能力に絶望的な差があります」
確かに噛みついたはずのスケイルウルフの牙は、しかしムーンの左腕に傷一つ付けることはありませんでした。
牙は銀色の体毛に阻まれてしまい、肉どころか表皮にすら達していないのです。
「シルバーベアの体毛は硬く、魔力で保護されているため鎧のような役割を持っています。
さらに彼ら自身の筋肉も非常に発達していますから、戦闘時に緊張して力が入れば、ちょっとやそっとの攻撃ではダメージを与えることはできません」
スケイルウルフは噛みつきが通じないと理解した瞬間、ムーンから離れて爪での攻撃に切り替えます。
しかしその攻撃もまた、ムーンの毛皮と筋肉に阻まれてしまい、皮一枚切り裂くことはできませんでした。
「シルバーベアと戦う探索者は、基本的にあの体毛と筋肉を切り裂くことができる硬度を持つ、ミスリル以上の武器を持つことが必須です。
一応、鉄などの武器で狩猟を行う探索者もいますが、その場合は防御力の無い目や口の中を正確に狙って攻撃できる、高い技術を持っていなくてはいけません」
これもまた、低ランクの探索者が森の中での狩猟を許されていない要因です。
ミスリル以上の武器は高額で、最低でも日本円で1000万円以上の現金を用意しなくてはいけません。それを用意できる、もしくは激しく動き回るシルバーベアの目や口の中を狙う技量を持つには、経験を重ねなくてはならないでしょう。
「平原や森の中で、シルバーベアの体毛と筋肉を貫ける攻撃をするモンスターはいません。
そしてああして通じない攻撃を繰り返していると……」
自分の攻撃が通じないと分かっていても、スケイルウルフは逃げようとしません。逃げても追いつかれ、背中から攻撃されるということが分かっているのでしょう。
そして何度目かの攻撃をしようと飛び掛かった瞬間――タイミングを見計らったのか、ムーンは自分を攻撃しようとしてきたスケイルウルフめがけて、カウンター気味に右腕を思いきり振り下ろします。
大木を腕の一振りでなぎ倒すシルバーベアの攻撃は、ただ腕を振り回すだけでも必殺の威力。
現に、その一撃をくらったスケイルウルフの胴体は殴られた場所を中心にVの字になるような形で地面にめり込み、頑丈な背面部分の鱗を残して、腹部はほぼ千切れかけています
こんな威力の一撃を人間が貰ってしまえば……その結果は想像に難くありません。
体毛と筋肉という鎧、そしてただ腕を振るうだけで必殺となる膂力。
一連の戦いで見せた力は、まさに森の王者と呼ばれるに相応しいものでした。
「スケイルウルフは大きいですから、ご馳走だと思って確実に仕留めたかったのでしょう。
さすがに普通に殴ったくらいではあそこまで酷い状態になることはないですよ」
ムーンの戦いに圧倒されている我々に向けて、博士が苦笑しながらそう付け加えます。
なるほど、いくら膂力が凄いと言っても地面にめり込むほど力を入れるのは、ひとえにご馳走に逃げられないよう、一撃で仕留める必要があったからなのでしょう。
「シルバーベアの食事量は、平均して一日に1トンとも言われています。そんな彼らにとって、スケイルウルフのような中型モンスターは欠かせないご馳走になるんですよ」
スライムのように常に魔力を消費しているシルバーベア。
その魔力を食事によって賄うからこそ、その食事量は非常に多くなりがちです。個体の体重によって必要量は違ってくるものの、全てのシルバーベアは共通して一日にかなりの量を食べることになります。
森の王者として君臨し続けるためには、食事をし続けなければいけないという、地道な努力が必要となるのです。
そうこうしている間に、仕留めたことを確信したムーンはスケイルウルフへと近づき、おもむろに死体を持ち上げて頭からかぶりつきました。
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