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第3回『森の王者・シルバーベア2』

この小説に目を留めていただきありがとうございます。

皆様の暇つぶしになれば幸いです。

 高い防御力を持つ毛皮のあるシルバーベア。しかし彼らの脅威はそれだけではありません。

 むしろ、体毛の機能は彼らの脅威において、おまけ程度でしかないのです。



「シルバーベア最大の脅威は、その力と爪です。

 森林地帯に生える直径2mを超える幹を持つ樹木を一振りでなぎ倒す膂力、そしてそこに付随する長さ10㎝に及ぶ爪。

 例え鎧を着込んでいたとしても、普通の人間なら一瞬でボロ雑巾になってしまうでしょうね」



 聞くだけで寒気がするようなシルバーベアの力。

 実際、シルバーベアに襲われたことで10人で組まれた探索者のパーティーが一瞬で全滅したという話もあります。

 モンスターではない熊でさえ、私たち人間にとっては脅威なのです。魔力に体が馴染んだことでモンスターと化したシルバーベアなら、その脅威は推して知るべしということでしょう。



「しかも彼らは肉食で、自分以外の全てを捕食対象とみなしています。

 森林地帯に入ったなら、常に彼らからの襲撃を警戒しなくてはいけないんですよ」



 さらに厄介なことに、シルバーベアは常に魔力を体毛に付与している関係上、スライムと同じく常に体内の魔力を消耗しており、魔力飢餓に近い状態なのです。

 そのため1日の食事量も非常に多く、体長3mほどのスケイルウルフなら1日に6体以上は捕食しますし、自分が狩れる範囲内にいるならばスライムでさえも捕食対象となります。


 この凶暴性もまた、シルバーベアの厄介な特徴です。

 森林地帯を主な活動場所としている探索者にとって、常にシルバーベアからの襲撃を警戒するというのは、ある意味拷問のようなキツさだと聞きます。

 いくら森林地帯の実入りが良いからとしても、そう連日あそこに踏み入りたくはない……とも。



「ただ、困ったことにその危険性とは裏腹に、彼らの討伐依頼……というより素材入手依頼はとても多いんです」



 そう。シルバーベアの素材――主にその体毛の採取依頼は、意外なほど多く出ています。

 シルバーベアの体毛は、解説した通り魔力を付与することで高い物理防御と魔法防御の両方の特性を持っています。ですから、防具の下地として非常に重宝されているんです。



「中級以上の探索者の防具には、ほとんど下地にシルバーベアの毛が使われています。

 体毛ですから防具に組み込まれても軽く、魔力さえあれば半永久的に稼働し続けるバフですから」



 特に身軽さが必要なハンターやシーフといった職業の探索者にとって、軽くて防御力の高いシルバーベアの体毛で作られた防具はとても重要です。

 上級になってもまだ愛用している探索者がいるほど、その防御力は定評があります。

 そのため主に防具を作っている会社からの依頼が多く、毎日必ずと言っていいほどに探索者ギルドにはどこかからの依頼書が届いているほどです。


 そういった経緯もあり、非常に多くの採取依頼が出ているシルバーベアの体毛。

 市場価格の平均は最低でも10万円から、需要が高まれば50万円を超えることもあるようです。ですから探索者にとっては実入りの良い仕事でもありますが……リスクとリターンが合っているかと言われると疑問が残ります。


 また、それ以外にもシルバーベアの体毛はコートなど洋服の素材としても人気があります。

 あの美しい銀色の体毛は、防御面だけでなくファッション面でも大きな魅力があり、特に魔力さえ通していれば常に銀色に輝き続けるという点から、特に女性に人気があるようです。



「依頼料も高く実入りは良いし、自分たちの防具に使われる素材ではあるものの、危険度が高い。

 シルバーベアはまさにハイリスクハイリターンなモンスターと言えるでしょうね」



 ちなみに今回我々は直接森林地帯には赴いていません。

 さすがに危険度が高すぎることと、護衛を雇ったとしても落ち着いて撮影できる環境ではないからです。そのため前回ディグラビットの巣穴を覗いた時に用いた魔力球カメラ、これを使って撮影をしています。


 博士の説明を聞いている中で、我々はカメラが映すシルバーベアの胸元の体毛が、三日月型に黒くなっているのを見つけました。

 シルバーベアの体毛は常に銀色で、普通の熊のような色では無いはずですが。



「あの黒っぽい部分が本来の体毛になっています。彼らは通常の熊と同じ体毛の色をしていますが、そこに魔力を付与することで銀色に変えているんです。

 あそこだけ色が変えられていないのは、恐らく傷を負ったなどの原因で魔力がうまく付与できないんでしょう」



 我々人間も、大きな怪我を負った際にそこに魔力がうまく通わなくなることがあります。

 この個体もまた同じように、怪我を負った部分に魔力が通らず三日月型に元の体毛が残ってしまったのでしょう。

 私たち取材班は、今回観察することになるこの個体に、胸元の特徴から『ムーン』と名付けました。


 日が昇ってきたこともあり、ムーンもようやく活動する時間帯となったのかゆっくりと身体を起こしました。

 立ち上がると、やはりその大きさに威圧されてしまいます。ムーンは人間で換算すれば、おおよそ30歳から40歳くらいになる、円熟期を迎えた個体です。


 シルバーベアの成長はおおよそ3つの時期に分けることができ、それぞれ成長期、円熟期、老衰期と呼ばれます。

 成長期に体が大きくなり、円熟期になると成長は止まりますが、そのぶん魔力が育つと言われています。どの期間なのかは体毛で判断することができ、円熟期に入ったシルバーベアの体毛は、ムーンのように美しい銀色になります。



「成長期間は、観察してきた限りではおおよそ3年から4年で移り変わるようです。

 もっとも、実際には衰退期に入るまで生きている個体の方が少ないので、衰退期のシルバーベアはほぼ見かけませんが」



 当たり前ですが、モンスターである以上探索者に討伐されることがほとんどです。

 衰退期まで生きていられるシルバーベアは貴重であると共に、それだけ狡猾で強力な個体でもあります。


 博士の解説を聞いている間に、ムーンはゆっくりと四つ足歩行で歩き出しました。

 いったいどこに向かっているのでしょうか。



「恐らく朝食を見つけるための狩りですね。起きたばかりで、腹がすいているでしょうから」



 博士の言葉を証明するように、ムーンはきょろきょろと首を左右に動かしながら歩き続けています。

 まだ日が低いから、体毛の照り返しによる光源にも期待できず、しっかりと自分の目で獲物を探さなくてはいけません。シルバーベアはあまり目が良くないので、せわしなく首を動かして匂いも確認するのです。


 そうしてしばらく歩いていたムーンですが、とある木の前に来たところで立ち止まりました。

 ムーンが立ち止まった前にある木には、爪で引っ掻いた傷跡がついています。



「あれは縄張りを示すものです。無造作に引っ掻いているように見えますが、個体ごとに引っ掻くパターンが違っていて、それによってお互いの縄張りを区別しているんですよ」



 今見ている木にはちょうど十字になるような引っ掻き傷が残っています。

 それを確認したムーンは、その傷跡をなぞるように十字の傷をつけ始めました。定期的に新しく傷跡を付けることで、ここは自分の縄張りだと主張するのです。

 何度か引っ掻いて木に傷跡を付け直し、ムーンは再び餌を求めて歩き出しました。






お読みいただきありがとうございます。

うまくキリのいいところで切れているか、少しばかり心配です。



※何度も書き直し、書き足しを行っているため、内容がおかしな場所があるかもしれません。

もし内容が繋がっていない、矛盾している、誤字脱字などお気づきの点がありましたら、感想などでご指摘ください。

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