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『追放者達』、説明される・上

 



「…………や、やぁやぁ!

 これはこれは、我らがワダツミを守り抜きし英雄達ではないか!

 その一騎当千の戦働き、私がこの目で直々に見せて貰っていたとも!

 流石だ、良くやってくれた!!」




 そう口にしながら、ワダツミの内部へと足を踏み入れた冒険者達を出迎える領主マレニア。


 基本的に、貴族の立場に在る者が、どれだけ過酷な依頼であったとしても、ソレを成して戻ってきた冒険者を自ら迎える、だなんて事はほぼ『有り得ない』事である為に、本来であれば、それだけでどれほど疲労困憊していようと、出迎えられた側のテンションが爆上げされ、中には感動の涙を流した者まで出たであろう事は間違いなかったハズの行為。





「………………」





 …………しかし、それに対する冒険者達の反応は、随分と冷めたモノであった。


 いや、言葉を選ばず正確な表現をするのであれば、確実に『冷たい』と言える様なモノとなっており、視線や素振り、態度からハッキリと言って目の前に居るマレニアの事を()()()()()()雰囲気がアリアリと漂って来ていた。



 そんな冒険者達の空気感に、思わずマレニアは顔を引きつらせる。


 元々、先のセリフですら多少(つか)える程度には自身に心当たりがあったのに、ソレを的確に突き付けられている様な心持ちであった為か、普段から被っていたハズの『お貴族様』としての仮面が若干ながらもズレてしまっている様子だ。



 彼女と同様に冒険者達を迎え入れていたギルドマスターのグラングは、領主であるマレニアに対しての不敬として扱われるのではないか、とハラハラした様子を見せていたが、同時に彼女が取ろうとしていた行動と、最終的には自身もソレに賛同する立場で動いていた事から彼らを咎める事も出来ず、彼女のみならず自身へも向けられているそれらに対して何も言えずにいた。


 が、流石に軍の中でも上層にあり、かつマレニアの側付きも兼ねていたマリケスとしては、そんな彼らの態度には腹を据えかねていたらしく、怒りを隠そうともせずに声を荒げながら口を開いて行く。




「おい、お前ら!

 マレニア様が、直々にお言葉を下さっていると言うのに、その態度は何だ!?

 このワダツミの街に暮らす領民である、どの自覚が無いのか!?」



「…………黙れ、能無し共」



「……………………は?」




 しかし、彼に対して返された言葉は、平服したモノでも反発したモノでも無く、ただ単に何処までも見下されたモノであった。


 ……どうやら育ちの良かったらしいマリケスには俄かに理解出来なかったらしいが、領主であるマレニアやギルドマスターのグラングすらも纏めて見下したセリフを吐き出した冒険者は、既に堰が切れてしまったらしく抱えていた激情のままに言葉を吐き出し続けて行く。




「何が、ご領主様だ?

 何が、ギルドマスター『様』だ?

 何が、軍だ?

 いざって時に何の働きもしねぇで、何の役にも立ちゃしねぇで、偉ぶってやがるだけのクソ共に何の価値が有りやがるって抜かすつもりだ?あぁ!?

 てめぇらクソ共が、このお高くて頑丈な壁の中に引きこもってションベン漏らしてやがった間に、何回俺達が死ぬ目にあったか教えてやろうか!?

 てめぇらクソ共が、普段から威張り散らすだけでいざって時に欠片も役に立ちゃしねぇでいやがる時に、俺達を率いて直接戦い、頻りに励まして助けてくれたのは、外から来てくれたお方達だって事くれぇ、その節穴でも眺めてたんなら理解出来てやがるだろうが?なら、何でそんな事抜かせやがるんだ、あぁ!?

 それでいて、なに?不敬だ?直々にお言葉だ?知った事かよ!!

 領民だ領主だなんだと抜かすつもりなら、先ずは最低限の仕事程度は熟してから抜かしやがれ!!!」




 激情のままに吐き出された言葉により、外壁門直近の広場に沈黙が広がって行く。


 そこには、街を守りきった英雄たる冒険者達を出迎えようと押し掛けた市民や、結局趨勢を見極めて出撃しようとしていた軍の兵士達も詰め掛けており、外から帰って来た冒険者達+αが加算された事によって普段のソレよりも遥かに人口密度が高くなっていたが、その事実を認識出来ない程に周囲を沈黙が支配する事となっていた。



 一介の平民にして領民に過ぎない冒険者が、公然と領主を批判する。


 ソレは本来、絶対に有り得ない事である。



 そんな事を許してしまっては、領主としての面目が立ち行かない、という事でもそうだが、そんな批判をしてどうなるのか、を理解出来ない様な冒険者に対しては、誰も依頼を出したがらないが故に、双方向から見たとしても、やはり有り得ない事態である、と言えてしまうのだ。


 そして、ソレを目の前で行われてしまっては、本来ならば領主の私兵に近しい立場の軍の兵士達は挙って対象を捕らえ、そして領主直々にその批判者の首を落とす、位の事はしないと面子が保てないし、して当然の事である、とすら認識されている。



 …………が、しかし誰もソレを成そうとはせずに、出来ずにいた。


 何故なら、彼の言葉は事実の一側面を的確に表しており、目の前で行われていた事象の当事者からの告発とあっては、流石に貴族であろうとその腹心であろうと力尽くで止める事は憚られてしまうし、何より今は複数の部外者が見ている場面でもあった為にそうする事すらも出来ずにいたのだが。




「…………ま、待って欲しい!

 確かに、我は貴君らを見捨てる様な選択をした!

 それは、間違い無い事であるし、謝罪もしよう!

 しかし、それには理由が在っての事だ!このワダツミを守る為に、必要な事であったからだ!

 それに、我々が何もしなかった、と告発されたがそれは違う!現に、我らはこの門を開いて魔物の群れへと攻撃を仕掛けようとしていたではないか!!

 しかも、先の言葉にあった『最低限の仕事』とやらは、貴君らの方こそ本当に果たしたのか!?

 聞いた話によれば、こうして予想よりも早い段階での『波濤』へと至った原因は、無理な冒険者による強行偵察の結果である、との事だ!

 それに、死ぬ目に遭った、と言っていたが、それこそ『だからどうした』と言わざるを得ないが?

 そう言う目に遭うのが貴君らの仕事であり、そう言う目に遭う前提なのが今回の仕事であったハズであろうが!!」



「はぁ!?てめぇ今なんて抜かしやがった、あぁ!?!?

 死ぬ目に遭うのが仕事だとぉ!?

 それは、あくまでもこっちがその可能性を加味した上で、全部丸ごと承知した上でやる、ってだけの話だろうがよ!?

 てめぇがしたのは、依頼の中身を偽装して、低ランクの連中にドラゴンの巣を偵察させに行く様なモノじゃねぇか!?

 それでいて、ランクは適正で報酬も事前に払っていたのだなら多少内容が違った所で文句を言うとは何事か、と抜かしやがるつもりかよ、あぁ!?

 ソレ、世間一般で何て言うと思うよ?

 あぁ、世間知らずなお貴族様は、それすら知らねぇよなぁ。

 ソレ、普通は『詐欺』って言うんだぜ?なぁ、詐欺師のお貴族様よぉ!?!?」




 ただでさえ空気が悪くなっていた上に、マレニアが発した説明とも取れない反論によって、場の空気は最悪を更新してしまう。


 それにより、先程まで激情を発していた冒険者が完全に切れ、直接的にも貴族であるマレニアの事を侮辱する様な言葉を口にしてしまう。



 結果、遂に見過ごす事が出来なくなったマリケスの指示によって軍が武装を構え、ソレに応ずる形で冒険者達も得物を手にして行く。


 片や、人数的には多少劣るものの疲労は無く、力量的には勝っている、との風評である軍と、片や最後の開戦にて訪れた『援軍』に呼応して突撃を敢行した為に疲労困憊の極地に在るものの、それでも気力で疲労を吹き飛ばし、僅かな差ではあったが人数にて勝り、かつ続けての戦闘によって連携感は極限にまで高まっている冒険者達。



 殺気立つ二つの武装集団が睨み合い、その間に挟まれる形になったマレニアは、助けを求める視線をアレス達へと送って来る。


 が、当のアレス達『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達は、心情としては冒険者寄りの方であった為に、故意的にソレを無視して冷めた目をしながら、『もう一つの勢力』と共に静観の姿勢を崩さずにいた。



 そうして、頼みの綱が使えない、と知ったマレニアの絶望が発露され掛けた正にその時。


 アレス達の隣で佇み、それまで特に関わる姿勢を見せずにいた集団から一人の人間が進み出ると、両勢力の間に割って入って行くのであった……。




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