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『追放者達』、防衛する・5

 


 重装部隊にて進撃を受け止め、遊撃部隊によって横腹を喰い破り、遠距離部隊の大火力によって侵攻を押し返す。


 そうして防衛線と群れ本隊との幾許かの距離を稼ぐ事に成功した冒険者達は、このままならばイケるのでは!?この勢いならばやれるハズだ!と勢い付き、開戦直後からは考えられない程に気炎を上げ始めて行く。



 押し返した、との事実のみを手に持って、アレスが創り出した氷結地獄によって、物理的に進軍を阻まれている本隊に対しての恐怖感が薄れているだけでなく、最早突撃して行きそうな程の勢いであった。


 ……そして、号令は当然下されるモノであり、下すべき人物達はこの状況を齎し、希望の光を見出させた者達である彼らであろう、とこの場にいた冒険者の誰しもがそう思っていた。



 …………しかし、そんな彼らに下された号令は唯一つ。


 第一防衛線を破棄して第二防衛線へと後退せよ。


 ただ、それのみであった。






 ******






 攻められる時に攻めて、そのまま押し切ってしまう。


 冒険者ならば、一部の護衛依頼専門や採取依頼専門、といった者達以外は、少なからず持ち合わせている思考。



 故に、半ば攻性防壁と化している氷壁すらも存在しているのだから、攻め上がれるだけ攻め上がって魔物を討ち取り、『暴走(スタンピード)』の規模を少しでも縮小させ、終結を早めてしまうべきだ、との考えが冒険者達の中で発生していた。


 しかし、ソレを良しとはせず、また()()()()()()()()()()()()()者達によってその動きを封じる様に、退却の号令が下される。



 一様に、不満と動揺と疑問のざわめきが生じて行く。


 だが、号令を下した本人が先の接触の際に最も功績を上げているのは誰しもが否定出来ない事実であった為に、不満タラタラながらもその指示にはちゃんと意味が在るのだろう、と従う動きを見せ始め、幾重にも造られている防衛線を一本下げ始めて行く。



 その動作を目の当たりにして、苛立ちを覚えながらも同時に安堵感を抱いたアレスは、周囲へと小さく視線を回して行く。


 彼の周囲には、同じく前線にて戦っていたガリアンとヒギンズだけでなく、回復部隊を率いている為に後方へと回されていたセレンや、同様に部隊を率いているハズのタチアナとナタリアの姿までもが在った。




「…………なぁ、気付いてるか?」




 具体性は欠片も無い、そんな質問。


 普段であれば、何についてだ?と聞き返されるのが当然なその質問に対して、彼のパーティーメンバー達は、皆一様に苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながら肯定の言葉を返して行く。




「…………うむ、当然である。

 直接切り結んだ当方らが、気付かぬ道理は無いのであるよ」



「まぁ、とは言っても『何でそうなってるのか?』については、オジサンもちょ〜っと分からないかなぁ。

 アレ、本当に天然物の魔物なのかぃ?」



「一応は、そのハズだ。

 少なくとも、俺が数日前に確認した時は、周辺から集まって待機している姿は確認してある」



「…………ですが、それですとあの異様な行動に説明が付きませんよ?

 例え魔物であったとしても、知能は有りますし死に関しては忌避して遠ざかろうとします。

 ……ですが、今回のあれらには、その気配が感じられないのです」



「あぁ、確かにそれはアタシも思った。

 あいつら、何でか知らないけど普通の魔物みたいに『抵抗しよう』って意思?が感じられないのよねぇ。

 普通なら、もう少し抵抗されそうな種類の連中でも、割りとアッサリとアタシの付与魔法が通っちゃって、不気味にすら感じるのよねぇ」



「なのです!

 それに、ボク的にも何だか凄い違和感が在るのです!

 普通の魔物なら、ある程度は『ああしたい』『こうしたい』『コレは嫌だ』って感じの思念?的なモノを読み取る事が出来るのですが、今回の子達は『殺す』『喰う』位しか考えていない、というか、それしか出来ない様に縛られている、と言うか……?」



「なんとなく、自由意志を縛られている、って感じは俺も理解出来る。

 以前偵察に行った時、正にそんな感じだったからな。

 足の踏み場も無い程に密集してたにも関わらず、喧嘩もせずにだんまり決め込んでたのは異様の一言だったよ」



「うむ、当方としても、受け止めた攻撃からは殺意の類いは感じ取れたが、『このまま押し切る』だとか『どうあってもこれで倒す』だとかの気迫、とでも呼ぶべきモノを受ける事は無かった故に、それらを聞いて合点が行く心持ちであるな。

 …………それと、これもちと聞かせるのは憚られる内容であるが、大体は予想も出来ているのではないであるかな?」



「………………あ〜、そうやって言い出す、って事は、もしかするともしかしちゃう感じだったりするワケか?

 マジで?何かしらの根拠が、ちゃんと存在しちゃう感じで??」



「…………あ〜、オジサンとしても、その可能性に関しては、最悪の最悪、その向こう側に在る『何か』だと思っていたんだけど、もしかしてそうも言ってられなくなったかなぁ?

 でも、本当に?そんな事をしても、向こうに利はあんまり無いと思うんだけど?

 寧ろ、自棄になって攻撃を受けたら、とかの方がより大惨事に繋がらない?」



「…………ねぇ、アタシはあんたらみたいに察しも良くないし、頭も良い訳じゃないから良く分かんないけど、それでもこれだけは分かるわよ?

 今、結構不味い状況になってて、ソレを他の冒険者達に知られると本当に不味い事になりかねない、って事なんでしょ?」



「しかも、それは下手をすると彼らがワダツミに仇を為す事になりかねない程の事、って事はボクにも分かったのです。

 でも、それって一体何なのです?

 彼らは、ボク達に対しては反抗的で刺々しい態度を取ってはいたのですが、それでも純粋にこの街を守らんとしてここに残っていた人達なのですよ?ソレを翻意にさせる、だなんて事は、余程で無いと……」



「……………その『余程の事』が起きている、と言う事でしょうね。

 私の予想になりますが、もしかしなくても未だに軍の戦力がこちらへと合流する兆しを見せていない事が関係している、のでは無いでしょうか?」



「………………まだ、確定した、とまでは言えぬが故に、当方からは()()()()()()()()()とのみ言わせて貰うのであるよ。

 まぁ、街を守る、との目的その一点のみを突き詰めた場合、この方が被害を抑えられる可能性が在る、と考えるのは理解は出来るのであるよ。

 まぁ、理解は出来る、と言うだけであり、納得している訳でも、怒りを覚えない訳でも当然無いのであるがな」



「あぁ〜マジかぁ……。

 これは、俺達としても、最悪の場合には事を起こさないと不味い、よなぁ」



「そうだねぇ。

 この中では、リーダーが一番リスク無しに火力を出せる訳だから、その時はお願いする事になるかも知れないねぇ」



「そうならないのが、一番良い事なのですが、現状を見る限りでは、そうなのでしょうね……」




 重苦しい溜め息が、六人全員の口から零れ落ちる。


 最初こそ、二つあった懸念点の後者に関しては良く分かっていなかった様子のナタリアとタチアナであったが、他のメンバー達の会話を耳にする内に敢えて口にしていない単語等を察した事により、大筋の所での流れを察したらしく、同様に重苦しい溜め息を溢していた。



 未だに『多分』との単語が抜け切っていない状況であるが、彼らは敢えて抜いていないだけであり、こうして口にしている以上はほぼ確定している、と見ていて間違いは無いだろう。


 とは言え、まだ『そう』なっている訳でも無く、またアレスの魔法によって喰らっていた足止めも乗り越えて来た様子が遠目に見えていた為に、気を取り直して第二防衛線の配置へと着こうとしていた冒険者達の元への急ぎ、檄を飛ばして行く事になるのであった……。





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