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『追放者達』、防衛する・2

 


 外壁から鳴らされた警報により、ワダツミの街は蜂の巣を突いた様な騒動となっていた。


 一応、その意味に付いては告知が為されていたが、同時にもう少ししてから、だとかの時期の情報も公布されており、こんなに早いハズでは無かっただろう!?間違いの類いではないのか?と役所や城館へと押し掛ける者がいたり、そもそも字が読めず話も聞いていなかった、とアホらしい理由にてパニックとなって大騒ぎする者もいたりと、街の中は混乱が広まっていた。



 その為に、出陣の準備を進めていた街の軍としては外に即座に兵士達を動かす事が物理的に出来ない状況となっており、防衛戦力の中核として運用する事が予定されていた戦力の展開が間に合うかどうかが微妙な所となってしまっていた。


 一方、そんな軍の状態を尻目に、既に予定されていた位置に展開していたのが冒険者達。



 彼等は、その身の軽さと常に荒事に身を置いて来た、との自負により、予定外の警報であったが即座に対応し、予め『事が始まったらこの辺りに展開』と指示されていた場所へと各自で向かっていたのだ。


 その為に、軍としての団体で行動しようとしていた兵士達よりも、先に防衛線へと到着する事に成功していた。



 一番外側であり、魔物が来る、と思われている『坩堝』の在った方向へと向けて作られている、塹壕や堀と言った掘り下げや土嚢等を使っての簡易的な防壁によって構築されている防衛線の『前』に展開するのは、ガリアン率いる重装部隊。


 基本的に盾持ちの人員が多く居るが、中には両手で大剣を肩に担いでいたり、騎馬に跨って使用する長槍を手にしていたりする者もいたが、基本的には突っ込んでくるであろう魔物を受け止めて始末するのが彼らの仕事となっている。



 そこから少し離れた場所に作られた、本格的な高台の上には後衛系の職業の者が集まっており、指揮官としてアレスもソコに参加して遠距離攻撃部隊を構築。


 重装部隊や防衛線にて受け止めた魔物の群れや、まだ遠く後続として向かってくる群れに対して大火力にて応答し、物理的な高台からの打ち下ろし、と言う距離と威力によるアドバンテージを用いる事で、少しでも群れその物の『数』を減らして行く重要な仕事が待っている。



 そんな彼らの後方には、ヒギンズ率いる遊撃部隊とナタリア率いる補給部隊。


 それぞれ、遊撃部隊が状況を見つつ重装部隊が受け止めた群れに対して横腹から食い破る、火力と機動力を求められる危険なポジションを、補給部隊は火力の要である遠距離部隊に矢弾や魔力ポーション等の物資を補給し続ける役割を担っており、最初から直接戦闘には関わらないかも知れないが、双方共に非常に重要な立ち位置となっている。



 残るタチアナが率いる支援部隊とセレンが率いる治療部隊はそれらのやや後方に位置する場所に展開しており、適宜全体に対して必要とされた事を行い総崩れとなるのを防ぐ役割を課されている。


 ここに、本来であれば攻撃力と統率力に優れた軍が重装部隊の背後へと付き、打撃力を用いて敵を減らしつつ両部隊で連携を取って防衛線を使いながら少しずつ戦線を下げ、最終的には街の外壁へと至るまでにある程度減らしておく、と言うのがアレス達が提出していた作戦の概要であったのだ。



 その為、本来軍が展開する予定であった場所は、ポッカリと空間が出来てしまっている。


 冒険者達も、細かく指揮を出される予定は無かったものの、それでも具体的な作戦やら部隊の展開場所やらそれぞれの役割やらは聞かされていた為に、人数の減少と攻撃力の低下を招いている現状には不安そうな表情が隠せずにいた。



 そんな彼ら彼女らとは一線を画す様な反応を示しているのは、何を隠そう指揮官としてこの場に赴いているハズの『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達。


 それぞれ、部隊の人員として割り振られている冒険者達がある程度集まったのを確認した後、最前線の重装部隊の近くに集まっていたのだ。



 周囲の冒険者達とは異なり、口元を釣り上げて獰猛な笑みを浮かべて見せるアレスを始めとした男性陣。


 そして、そんな彼らの事を、まるで仕方のないヤンチャ坊主達を見るかの様に、微笑まし気に女性陣がそれぞれのパートナーの事を見詰めていた。



 あからさまに、これから展開されるであろう地獄の様な消耗戦にそぐわない光景。


 まるで、普段のソレと変わり無い様な、寧ろ気軽にピクニックにでも赴く直前であるかの様な振る舞いに、とうとう耐えきれなくなったのか重装部隊の一人が震える声にて彼らへと問い掛けた。




「…………な、なぁ、あんたら。

 あんたらは、怖くは無いのか?

 死ぬかも知れない、寧ろほぼ死ぬ、って現状が、怖く無いって言えるのか……?」



「………………?

 あれ、もしかしてその程度の事でそんなに思い悩んでいた訳か?

 てっきり、この後の事で何かしらの面倒事でもあるのかと思ってたんだが……」



「「………………??」」




 が、それに対する返答は問を投げ掛けた冒険者が望んでいたモノでは無く、同時に返答したアレスからしても何故にその様な質問がされたのか理解に苦しんでいるらしく、同時に首を傾げる事となる。


 その様子を見ていた周囲からの視線や疑問の声に促される形にて、彼らが抱いた『どういう事なのか?』と言った疑問を解消するべく再びアレスが口を開く。




「…………あーっと、取り敢えず前提として話させて貰うけど、皆何か勘違いしてないか?

 別段、俺達のやってる事って、普段の依頼であれ今回みたいな特殊な案件であれ、少なからず()()()()()()()()()な訳なんだから、今更死ぬ覚悟云々とかは言うだけアレな事じゃないのか?」



「…………え?」「そんなモノ、か……?」「…………いや、言われて見れば、その通りな訳だが……」「いや、だからってそんな覚悟までは……」「でも、死ぬかどうか、って言うなら、なぁ……?」「まぁ、普段の通りではある、のか?」



「んで、いつもの通りに死ぬ可能性があるのなら、ソレは普段と変わらない事、って理由だろう?

 なら、悩むだけ無駄だし、それならこれから受け取れる膨大な報酬金と街の住人達からの英雄扱いにどこまで応えるか、どの程度お行儀良く『英雄』として振る舞うのか、を考えておいた方が良くないか?って話よ。

 正直、この最前線で体張って命賭けて戦って守ってくれた、って事になればそれだけで感謝感激雨霰で普段は扱いがちょっとアレな俺達でも、簡単に処女童貞捨てられる程度には持て囃されるハズだからな?」



「…………え?マジ?」「いや、でも考えて見れば……?」「そうなる、のか……?」「え、じゃあ……気になってた娘に告白でもしてみる、かな……?」「…………あの子も、そんな目で見てくれるかしら……?」「なら、あそこで働いてる『イイ漢』も……?(ウホッ)」「じゃあ、あの娘にアプローチしてみようかしら……」



「だから、死ぬ可能性が在るのはいつもの通りなんだし、普段通りで行けば良い。

 そんで、普段の通りにやれば良いのに、それだけで貰える報酬は破格で、その後の英雄扱いもほぼ確定。

 なら、後は仕事の最中も『キツイ』『辛い』『苦しい』とか考えずに、寧ろ楽しんだ方が良いだろう、って話さ。

 因みに、俺達の中で誰が一番多く倒すか、大物を倒せるか、って事で賭け染みた事をやる予定。お前さん等も乗るか?」




 そう言ってニヤリと笑みを浮かべて見せるアレス。


 既に死を覚悟し、その上で死の恐怖を無かったモノとして扱うのでは無く、絶対の意思の元にて飼い慣らし、自らの感覚の一つとして使い熟して見せている、年齢不相応の熟練した冒険者としての雰囲気を醸し出して見せていた。



 そんな彼の言葉により、何だそりゃ、と呆れる者から、じゃあ俺も参加で!と彼らの賭けに乗って来る者まで現れる程に、冒険者達は様々な反応を見せて行く。


 未だに年若く、自分達よりも歳下であるにも関わらず圧倒的な経験と実力を持つ彼の振る舞いに、不必要に入っていた力が良い感じに抜けてリラックス出来たのか、それまで強張っていた表情が緩み、重苦しかった雰囲気にも良い意味で明るく軽いモノが見え始める。



 そんな空気が重装部隊だけでなく他の部隊にも伝播し、ああでもないこうでもないと賑やかに会話が繰り広げられ始めたその時、誰もが待ち望んでいなかった報せが、とうとう齎される事となるのであった。





 …………そう、遂に『暴走(スタンピード)』の最前線が、ワダツミの街へと迫りつつある、との報せが……。





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