『追放者達』、顔合わせをする
取り敢えず、ワダツミの領主からの依頼を引き受ける事にしたアレス達『追放者達』一行。
彼らは彼女からの説明を受けた後、彼らが先程まで居た部屋へと案内していた上級兵士によって再度誘導されながら、とある施設を目指して進んでいた。
その施設とは、ズバリ『冒険者ギルド』である。
正確に言えば、『冒険者ギルドワダツミ支店』と言うべきなのだろうが。
「…………しかし、本当に良いのですか?
完全に外様で、かつほぼ偶然居合わせたに過ぎない俺達を唐突に放り込んだとして、早々簡単に統率が取れるとは思えないのですが」
「うむ。
そもそもからして、他人に指図される事を厭って冒険者になる輩も一定数存在する以上、所詮は外様で、かつ権力によるゴリ押しで据えられた頭、との印象を抱かれてしまっては一発でおしまいであるし、状況的には確実に『そう』と言えてしまうのである。
その辺り、何かしらの考えが在ると見て良いのであるかな?」
「あぁ、その辺りは心配しなくても大丈夫だろう。
何せ、事が事だからな。
幾ら、冒険者達が独立独歩の気風が強い集団とは言え、この非常時にまで一々口出しして自分勝手な行動をすればどうなるのか分からないハズが無いし、マレニア様直々の指名としての指揮官就任である、と最初に公表してしまえばそれで大丈夫だろう。
何せあの方は珍しく冒険者からの人気も高く、その能力の高さも広く知られているから、冒険者達も納得するハズだ」
「………………だと、良いのですが……」
若干どころでは無いレベルで思案顔をしながらそう呟くアレスの様子を、案内と説明役を兼ねて同行している上級兵士が不思議そうな顔をしながら眺めて行く。
そんな、対比的な光景を、外部からしか見ていない人間ならそんなモノかぁ……と言わんばかりの視線にて、残りのメンバー達が内心ではアレスに同意しながら進んでゆく。
頼まれて引き受けた以上どうにかするつもりではあったが、流石にこのやり方は駄目なんじゃないかなぁ?と内心で不安になりながら進んだ先にて、冒険者ギルドの建物へと到着する。
他の街と比べて建物の規模が小さく、内部で待機しているであろう冒険者の気配が些か少ないのは、やはり『聖国』と言う強大な大国との国境に位置しているが故に、腕に自身があれば『聖国』へと流れるか兵士へと鞍替えするかしていたからなのだろうか。
まぁ、宗教国家にして『人類の防人』を標榜し、時には国と国との戦争にすらその嘴を遠慮なく突っ込んでくる『聖国』は、同様に魔物の討伐にも非常に熱心に取り組んでいる。
その為、と言う訳でも無いのだろうが、『聖国』と隣接している国々の辺境域では、通常ならば魔物が蔓延って依頼が常設され支部に所属する冒険者が増える傾向に在るハズなのに、実態としては仕事である依頼が少なく、真逆の方向性となるのだとか。
とは言え、そんな環境下であれ、寧ろそんな環境下だからこそ、身内での結束力は必然的に強くなる。
そんな環境下の場所に、他所から来た者が、しかもコミュニティの頭上を通り越した場所にて行われたやり取りにて決められた事で捩じ込まれて来たら、どうなるか?
「はぁ?
どこぞの馬の骨とも知れない連中に、指揮を任せろ、だぁ!?
…………おい、マリケス。
お前も、マレニア様も、この非常事態でとうとうオツムがおかしくなっちまったか?
いきなりそんな事言われて、無理矢理ねじ込まれたとしても、実績も無ければ実力も知らない様な連中の指図なんて、なんで聞いてやらなくちゃならないって言うんだよ!?」
正解は、こうなる、だ。
とか誰にも聞かれない様な音量にて呟きつつ、内心にて、やっぱりなぁ、との思いを隠そうともせずに、胸ぐらを掴まれて慌てた様子を見せている『マリケス』と呼ばれた上級兵士と、先程ワダツミ支部のギルドマスターだと聞かされた中年との絡みを興味なさそうに眺めて行くアレス達。
彼らにとっては予想通りの反応であったが為に、平静かつ白けた様な態度を取っていたが、当の本人であるマリケスとしては想定外の事態であったらしく、何故その様な反応をするのか分からない、と言わんばかりの様子にて口を開いて行く。
「グ、グラング!
そちらこそ、どう言った了見なのか!?
確かに、指揮に対して横入りさせる様な指示を出したのはこちら側だ。それは、否定はしない。
だが!だからと言って、そこまで非難されなくてはならない理由はこちらには無いぞ!?
彼らは、このワダツミには所属すらしていない高位の冒険者だ。
ならば、その高い知見と広い見識を活用するべく、指揮官として据える事の何が悪い!?
それに、コレはマレニア様の決定だぞ!
そちらも既に、この難事を切り抜ける為に、とマレニア様の決定には従うと誓っていたではないのか!?」
「だからって、他所から来た何処の誰とも知れない連中に、そうホイホイ指揮権なんて渡せるハズが無いだろうが!
それとも、あれか?お前なら、マレニア様が連れてきた相手なら、何も聞かずに自分の席すら明け渡して、寝室に連れ込もうが黙って見逃す、とでも言えるつもりか!?あぁ!?!?」
「なっ!?
そんな事と、今回の事とは、全く繋がりが無い話だろう!?」
「同じ事言ってるんだよこっちはよぉ!!!」
互いに言葉を交わしながら、それでも致命的に擦れ違っているやり取りを延々と繰り返して行く二人。
先の説明の切迫具合からして、今直ぐにでも、と言う瀬戸際では無かったのだろうが、それでも目前に迫る事が事だけに対処が遅れればこれまでの一切合切が全て『オジャン』になりかねない状態であったが為に、溜め息を一つ溢してから二人の間へとアレスが踏み出して行った。
「あ〜、ちょっと良いか?
こちら、アルカンターラ所属の『Sランク冒険者』パーティー『追放者達』でリーダーを務めているアレスだ。
正直な話をすれば、俺達は偶然立ち寄っただけで、頼まれて引き受けているに過ぎない。
一応、腕に自信は在るが、それでもそこまで邪魔者扱いされるのであれば、俺達はこのまま手を引かせて貰う事になるが、別段構わないよな?」
「「なっ!?!?」」
「何をそんなに驚いている?
一応、依頼として託されたから引き受けたが、現地での協力体制が構築出来ていない、程度なら兎も角、完全に拒否する姿勢まで見せられてしまっては、こちらとしてもやる気が失せる、ってモノだろうよ。
そもそも、俺達には『何が何でもここを守らなくちゃならない』って理由も特には無いんだし、何ならケツを捲って逃げ出しても別段構いはしない身分なんだがね?」
「ちょっ!?待て待て待てっ!?
それは、困る!!」
「待ってくれ!?
ソレをされると本当に困る事になる!
せめて、この街の防衛に位は手を貸してくれないと!
『Sランク』なのだから、その程度大した事でも無いだろうに!?」
「出来る力を持っているから、出来るのだから黙ってやれ、と?
随分と、傲慢な物言いだな?
生憎と、その程度で力を貸してやらなくちゃならない義理は無いし、守らなくちゃならない様な魅力をこの街にも抱いていないのでな。
俺達にとって、不都合な事しか無いのなら手を引くのは当然の判断だろう?」
「し、しかし……」
「……それとも、アレか?
俺達『Sランク』には、依頼を選ぶ自由すら与えられない、とか抜かすつもりか?
なら、『暴走』に先んじて、このど田舎の街一つ、更地にしてやる事も、個人的には吝かでも無いんだがな」
「「…………っ!?!?」」
『Sランク』として、人間の限界を超えた力を持っている、と言う事をかなり直接的にアピールするアレス。
さっさと協力しないのであれば、この街を自分達で瓦礫の山に変えてから退避するだけだ、との言葉により、その場に居たワダツミ側の関係者達は、揃って顔を青ざめさせるのであった……。