『追放者達』、巻き込まれる
補給の予定で街へと立ち寄ったアレス達『追放者達』一行。
その際、何故か通用門の外にて衛兵達が集まっており、ソコに近付いて来た彼らは何者なのか、と誰何された。
特に、身分を偽らなくてはならない理由は無かった為に、素直に冒険者である、と答えたのだが、その反応が劇的なモノとなっていた。
…………具体的に言えば、待ちに待っていた援軍が到着した籠城戦真っ只中の兵士、並みに周囲が狂喜乱舞し始めたのだ。
唐突な事に、一人事態を確かめに来ていたアレスは、当然の様に驚愕する。
が、取り敢えず寄る事を決めていた為に、周囲の促しに従う形で仲間達にも手振りで合流を促し、自身も戸惑いを隠せずにいながらも街の内部へと足を踏み入れて行く。
「……では、申し訳無いがタグとカードを出して貰えるだろうか?
わざわざ助けてくれる貴方達を疑う様に思われるのは癪ではあるが、コレも決まりでな。
確認しない、と言う訳にも行かんのだよ」
「……?まぁ、それは別段構わんよ?
他の街でも、入る際にはしなくちゃならない事なんだから、文句なんて言うつもりは無いけどさ。
でも、そろそろ何かしらの説明をしてくれても良いんじゃないのか?」
「そこは、然るべき立場に在る方から、でお願いしたい。
だが、これだけは言わせて欲しい。
貴方達には、断る権利も在る。
が、仮にそうしたとしても、私を含めた兵士一同は、貴方達を恨む事は無いだろう。
それだけは、断言出来ると約束出来るよ」
求められるがままにタグとカードを提出しつつ、そろそろ説明してくれないか?と問い掛けるアレス。
しかし、それに首を横に振りつつ、緊迫した様子を見せながらも、彼に対して『逃げても良い』と言った旨の発言をする一人の兵士。
その言葉遣いと装備の質から、恐らくは兵士達の取り纏め役の一人なのか、もしくは隊長格の内の一人なのだろう、と予想出来たが、そんな役職に就いている者ですら決死の覚悟を表情へと滲ませていた。
おまけに、アレス達としては身に覚えが無い事だが、『わざわざ助けに来た』と言っている以上、冒険者ギルドを通して多方面へと依頼を飛ばしていた、と言う事なのだろう。
そこまでして、他の所から来る戦力を『希望』として当てにしていた、当てにせざるを得なかったと言う事は、それだけの事態が起きている、と言う代え難い事実であるのだろう。
では、そうしなくてはならない様な事態とは、一体何が起きていると言うのだろうか?
仲間と合流し、全員分のカードとタグとを受け取った後案内された部屋にて待機している間もアレスの脳裏にて、その疑問がグルグルと渦巻き続ける。
圧倒的に情報が足りず、また仲間達にしても寝耳に水の状況であったが為に、比較的こう言った事態にも慣れているハズのヒギンズですら首を傾げる現状に、答えが出るハズも無いのだが、それでもアレスは思考を回す。
そうこうしている内に、滞在している部屋の扉が叩かれる。
外から伝わる気配の中に、隠しきれない焦燥が含まれているのと同時に、微かな安堵と、縋る様な懇願の色が見え隠れしている様な気がしていた。
一応、確認する意味も込めて仲間達へと視線を向けるアレス。
すると、一様に戸惑いの色が含まれてはいるものの、それでも話を聞かないことには事が進まない、と皆理解していたからか、沈黙のままで肯定の頷きのみが返されて行く。
ソレを受け、入室を促す返事をするアレス。
とほぼ同時に、急く様子を隠そうともしない勢いにて扉が押し開けられ、部屋の中へと質の良い仕立ての服を来た女性が入室して来た。
「良く来てくれた!
君達が、我がワダツミを救うべく助力をしてくれると言う冒険者達か!
『先遣』とは言え、『Sランク』の冒険者を真っ先に寄越してくれるとは、冒険者ギルドも悪い事をしてくれる!
それで、全体規模としてはどの程度派遣されて来るのかな?『本隊』の規模は、是非とも把握しておかなくてはならないのでね!」
「「「「「「………………はい???」」」」」」
唐突に投げ込まれた無数の単語に、思わず首を傾げるアレス達一同。
どうやら、何かしらが発生し、ソレの対処をする為の戦力を冒険者ギルド経由で大規模に集めようとしていたのだろう事と、その当てにしていた戦力と間違われているらしい、と言う事は理解出来たが、肝心な部分については『知っていて当然』との素振りにで毛ほども触れる事無く言葉を終えられてしまっているが為に、彼らとしては首を傾げるしか無い状況となってしまっていた。
…………一応、彼らにも、選択肢、と呼べるモノならばこの場でも在った。
知った風を装って情報を引き出し、その上で解決して見せて恩を着せる。この場は口を合わせてなぁなぁで済ませ、さっさと街を後にする。正直に『知らない、無関係だ』と告げて知らぬ存ぜぬを貫き通す。
だが、彼らはそれらを選ぶ事は無かった。
これまでの依頼や戦闘を通しての経験や自信によって大概の事ならばどうにでも出来る、との自負もそうだが、この場で変に取り繕った際に発生するであろう不信感や不安感の方こそが厄介であり、正直に問う方が禍根の類いは残らないだろう、との判断から口を開く事にした。
「…………あの、貴女は何か勘違いをしているのでは?
我々は、偶々補給目当てでこの街に立ち寄っただけの冒険者、ですよ?」
「……………………は?
冒険者ギルドから飛ばされた緊急依頼を、偶然近くの都市で受けて一足先に到着した高位冒険者、では無く……?」
「えぇ、まぁ。
高位の冒険者、って所は否定はしませんが、だからと言って依頼を受けてきた、って訳では無いですね。
どっちかって言うと、仲間と共に漫遊している最中なので、オフに近いかと」
「………………なん、だと……!?
なら、我がワダツミの窮状も何も知らずにこの場に居る、と言いたいのか!?」
「正直に言えば、はい。
街に入ろうとした際に、冒険者だと名乗ったら兵士さん達にこっちへと連れてこられただけなので」
「そんな、バカな……では、増援の規模どころか、いつ頃先遣隊が到着するのかも……?」
「えぇ、自分達は知らないですね。
そもそも、ここで何が起きているのか、すら知らないですし」
「そんな………………っ」
正直なアレスの言葉に、その場で崩れ落ちる女性領主(推定)。
その顔には絶望が蔓延っており、漸く見えた希望の綱が、ただの藁に過ぎなかった、とでも言わんばかりの様子にて、衆目が在る最中にも関わらず床へと座り込んでしまっていた。
そんな女性領主(推定)に対してアレスは、その耳元に対してこう囁やき掛ける。
「……それで?どうします?
依頼、しますか?」
バネ仕掛けもビックリな速度にて反応した彼女が、マジマジとアレスの顔を覗き込む。
彼を凝視するその瞳には、疑念と諦観とが濃厚に滲み出てはいたが、その奥底には縋るべき希望の光が見えて来たのでは無いだろう、と言う期待の色が見え隠れしていた。
「…………貴方に依頼をすれば、この状況をどうにか出来る、と?
本当に、そんな事が?」
「出来る、とは断言しませんよ?
何せ、何が起きているのかすら知らないのですから。
ですが、標的を倒せば良い事柄でしたら、大概の事は解決出来る自身があります。
何せ、ギルドからは最高評定の『Sランク』認定を受けておりますので、ね。
まぁ、尤も?事の規模に合わせて、些か依頼料はお高めになるかもしれませんが、ね?」
「…………依頼料なぞ、無事にこのワダツミを救えたのならば、幾らでもくれてやる!
それこそ、この身を寄越せ、と言われたとて、喜んでくれてやるわ!
故に、保証しろ!一度依頼を受けたのならば、必ず達成して見せる、と!!!」
「良いでしょう。
少ない自慢の内の一つに、受けた依頼は必ず達成してきた、と言うのがありますのでね。
余程のモノで無い限り、必ず達成して見せますよ」
そう言って笑って見せたアレスと一同であったが、女性領主(仮)の口から続けて飛び出した情報により、その顔が引き攣る事となるのであった……。
「…………宜しい、では貴方達に依頼を出そう!
内容は、このワダツミをギルドの救援部隊が到着するまでの間、魔物の群れから守り抜く事!
近隣にて発生した大規模な『暴走』から、この街を守りきって見せてくれ!!」
なおこの時、正直な話としてアレスは
「すみません、やっぱり聞かなかった事にしても良いですか?」
と反射的に言いそうになったとか、そうでないとか。