『追放者達』、歓迎(?)される
アレスの決定によって進路を変更した『追放者達』一行。
大元の予定は変更せず、その上でちょっとした寄り道、としての進路変更であった為に、普段と変わる事無く道無き道を突き進んで行く。
時折、進路先や脇から魔物が彼らの気配を察知して飛び出して来る。
が、それらは尽くが魔法によって穿かれたり、短剣や斧の投擲によって仕留められたり、槍の一撃で気付かぬ内に絶命させられていたり、空中で身体を固定されたり切り裂かれたり捻られたりして駆除される事となっていた。
当然の様に、それらは回収された後にナタリアの魔力庫へと貯蔵される事となる。
街や町なんかに到着した際に売却したり、通ってきた辺りで討伐依頼が出ていれば後から受注し、その証拠品として提出したり、と使い道は多くあるし、それらで大した値にならなければ自分達で食べてしまっても良いのだから、捨てる事は無いのである。
尤も、ソレが出来るのはほぼ彼らだけ、と言う点に目を瞑る必要性が有るが。
何せ、旅に必要な物資を溜め込みつつ、移動する足を止めないままで魔物を蹴散らし、その死体を確実に回収する手段を持ち合わせながらそれら全てを収納するだけの魔力量を誇る人員の確保が必要なのだから、単一のパーティーでソレを可能としているのは彼ら位だと言ってしまっても間違いは無いだろう。
とは言え、幾ら他のパーティーにとっては垂涎モノの状態であっても、彼らにとっては日常的な事柄であり、特に感動も感慨も無いままに襲い来る魔物を蹴散らし続けて行く『追放者達』。
時折、それまで巡った場所ではあまり見掛けない魔物を不思議そうにしながら回収し、またこの周辺特有の組み合わせとして出現して来た魔物の一団に、その組み合わせも有りなのか、と謎の感心を抱きながら駆除しつつ進んでいると、遠目に街の外壁と思われるモノが写り込んで来る。
その頃には、流石に人の生息域としての安全確保の観点から重点的に討伐が為されていたのか、魔物の数も減って来ており、彼らとしても周囲をじっくりと観察し、地図と照らし合わせて確認するだけの余裕が産まれて来ていた。
よくよく確認して見れば、周囲の地面も所々に雪が残り、それによって埋もれている部分も有るが、街道として整備されているのか平らに均されているだけでなく、石畳が敷かれている場所すらもある様であった。
人類の文明圏に近付いている事が確定した為に、周囲に未だにしつこく纏わり付いて来ていた魔物を手早く片付けたアレス達は、橇の速度を徐々に緩めて行く。
コレは、別段動力たる従魔達を慮って、と言う訳では無い。
理由の最たるモノとしては、街の衛兵に警戒を抱かれない様に、といった配慮である。
その気になれば、最高速度を保ったままで外壁まで行き、そのまま通用門へとビタ付けする事すらもナタリアと従魔達であれば可能とするだろうし、実際にやって見せた事すらもある。
が、ソレを現実にやってしまえば、出来上がるのは何体もの魔物を従えた一行が街へと目掛けて突っ込んで来る、と言う抗弁のし辛い絵面のみ。
であるのならば、わざわざ騒ぎを起こして面倒事を発生させるよりも、ある程度時間を掛けて近寄って行き、向こう側に心構えと待ち構える準備をするだけの猶予を与える方が、余程穏当に手続きを済ませられると言うモノなのだから、ソレをしない手は無いと言えるだろう。
勿論、余程焦っている、と言うのならば話は別だ。
今にも命が絶えそうな怪我人を橇に積んでいる、だとか、彼らの内の誰かが非常に危険な状態であり、その上でヒーラーであるセレンの魔力が尽きている、とかの状況であれば、迷わず実行するであろう。
が、そんな事はそうそう起こる様な事態では無いし、仮に起きたと仮定しても、万が一そうなっても大丈夫な様に、彼らとしても使う機会はほぼ無い上にバカ高い回復薬を最低一本は各人で常備している。
それ以外で、を考えたとしても、既に野外での野宿を幾度も幾度も経験し、かつ仲間内で『そう言う場面』に遭遇した経験が皆無な訳が無い彼らにとって、激烈に腹を降していようが膀胱が決壊寸前となっていようが、一人橇から飛び降りて繁みに駆け込めばソレで済む事柄であるが故に、基本的にはあり得る事では無いのだけれども。
そんな事情から、彼らの移動速度としては比較的ゆっくりと目の前の街へと近付いて行くと、通用門の方が遠目に見ても騒がしい状態となっているのが目に見えて来る。
何かしらのアクシデントでも在ったのだろうか?と目を凝らしていたアレスは首を傾げるが、どうやら微かに見える手振りやら何やらから察するに、恐らくは彼らの接近が原因となって騒ぎが始まったのだ、と言う事が見て取れた。
思わず、自身も含めた仲間達の事をグルリと見回すアレス。
しかし、そこには普段の通りの仲間達の姿が在るだけで、別段何時ぞや遭遇した魔族が乗り込んでいたり、誰かが魔物と入れ替わっていたりする、といった様な珍事件が起きている様子も無かった為に、何故に?と再度首を傾げる事となる。
その段に至っては、既に目視によって相手側一人一人の判別が出来る程度には近付いていた為に、更に速度を緩めて行く。
今更になって進路を変えて立ち寄らずにスルーする、だなんて事をしては冒険者としての名折れであるし、何より未知へと挑み踏破してこその冒険者としては『恥』以外の何物でも無い行為であった為に、取り敢えず話だけでも聞いてから次の行動を決めよう、と門で騒ぎとなっている場所から少し離れた所で一旦橇を停止させて様子を見る事にした。
取り敢えず、橇から降りて門へと近付いて行くアレス。
腰に差していた得物も魔力庫へとしまい込み、パッと見た限りでは武装解除されている状態となり、相手側に警戒を抱かせない様に若干ながらも笑みまで浮かべてゆっくりと歩み寄って行く。
すると、流石に彼の意図に気が付いたのか、それとも最初からそうする予定であったのか、門の周辺でガヤガヤやっていた人垣の中から一人歩み出て、彼へと向けて話し掛けて来た。
「…………止まれ!
そちらは、何者か?」
「こちらは、冒険者のパーティーだ。
物資の補給と、ちょっとした休息のつもりでこちらに立ち寄った。
何か騒がしいが、別段俺達に騒ぎを大きくする意図は無い。
なんなら、補給が終わったらすぐにでも出て行って構わない。
通して貰えないだろうか?」
「…………待て。
そちらは、今『冒険者だ』と名乗ったな?
では、依頼であれば受諾する準備が在る、と見ても良いのか?」
「…………?
まぁ、一応は?
端金での強制や、内容だとか情報だとかを隠しての騙し討ち、だとかで無ければ、ランク相応の報酬が支払われれば仕事を熟すのも吝かでは無いが……?」
「……っ!?
そうか!受ける事は可能なのだな!?
なら、コレで希望が見えて来た!
なら、詳しい説明は中でするから、入ってくれ!
因みに、君達のランクを先んじて教えて貰う事は可能だろうか!?」
「…………え?
俺達は、パーティーでも個人でも『Sランク』の資格は持っているが……?」
「『Sランク』!?!?
よ、良しっ!良し良し良しっ!!!
コレで、可能性が高まった!
寧ろ、どうにかなる目も出て来たぞ!?
急げ!!確実に話を通すんだ!!!」
緊迫した空気の中、一筋の光明が見えた、と言わんばかりに雰囲気が高揚し始める。
そして、アレスへと問い掛けを投げた者が他の人員へと指示を出し始め、慌ただしく門へと集まっていた人々がそれぞれへと散って行く。
その光景を目の当たりにしたアレスは、自分達のランクを申告しただけで何故?との思いを込めた呟きを、半ば置いてけぼりにされた状態にて一人佇みながら溢すのであった……。
「………………え?何事?
誰か、説明してくれんの……?」
ポツネン