『追放者達』、立ち寄る
と言う訳で新章開始
未だ冬の明け切らない仙華国の平原を駆け抜けようとする影が一つ。
土地柄、降雪は周辺国よりも少ないとは言え、それでもそういう季節である以上それなりには降る為に、残雪によって通常であれば駆け抜けるだなんて事は勿論、通り抜けるだけでも不可能に近い状態となっている。
が、その影はそんな土地状態なんて知った事では無い、とでも言わんばかりの様子にて、比較的新しく柔らかな雪であっても、古く固く凍り付いた雪であっても、日差しによって溶けた雪で泥濘んだ土であったとしても、構わず踏破して行くその姿は、見る者が見れば垂涎間違い無しな速度と安定性を周囲へと見せ付けている様であった。
では、その影の正体とは何なのか?
その答えは言わずもがなかもしれないが、当然の如く我らが『追放者達』一行であった。
彼らは、例のハウル家の館から出奔(?)し、土地勘を取り戻したガリアンの誘導によってほぼ真っ直ぐに仙華国を横断し、入国した時とはまた別の方向の外周部へと至ろうとしていた。
当然、ソコに至るまでにはそれなりに日数も掛かっている為に、最近は多少吹き付ける寒気が若干緩まっている様にも感じられる場面があったが、ソレはソレとしてやはり寒さは耐えられはするものの堪えるモノでもある為に、急ぎ過ぎはせず、されども進むべき分はキッチリと進む、といった彼らなりの道中を満喫していた。
そんな最中、橇の後部にてアレスが徐ろに地図を広げて行く。
かつて、ランタオの街にて写しとして手に入れた仙華国の地図であり、大雑把ながらも街の位置や地形といった情報も書き加えられている物となっている為に、方角や依然として立ち寄った街の名前と進んだ距離等から現在位置を割り出すのは比較的容易な行為となっていた。
「…………んで、あの街から出て、これだけの日数進んだ、って事は、多分そろそろ国境に到着する頃合なハズだけど、次に向かう予定の国ってどれだったっけか?」
「…………おいおい、確りするのであるぞ?リーダー。
流石に、その年でボケられたら困るのである」
「えぇ、私としましては、ボケる様な歳になったとしても、その先の先、最後まで添い遂げる予定でおりますが、だからと言って早々にそうなられてしまうのはちょっと……。
流石の私でも、治せるモノとそうでないモノもございますし、何より個人的にはもっと可愛がって頂いて思い出を沢山作ってからでないと、ね……?」
「…………まぁ、一人色ボケてる駄エルフは置いておくとして、取り敢えずどうするのよ?
確か、予定の上だと次は……」
「次は、予定では『聖国』に入る行程なのです!
セレンさんが長く過ごした国であり、同時にヒギンズさんとも深い関わりが在る国、とは聞いているのですが、実際に足を踏み入れた経験は無いので、どんな国なのか気になるのです!」
「なっはっはっ!
確かに、入った事の無い国だったりすると、何があってどうなっているのか、って気になって心が踊るよねぇ。
でも、残念ながら期待を裏切る形になるかも知れないけど、あそこって言う程に観光名所的なモノって無かったハズだから、そこまで面白いモノでも無いかもねぇ〜」
「そう、ですね……。
確かに、各地に存在する聖堂やら教会やらは見応えも在るかもしれませんが、基本的に宗教国家なので観光面に力を入れる様な気質でも無かったので、そこまで楽しく見て回る、といった事に向いているとはとても……。
まぁ、別の方向での『愉快な場面』に遭遇する可能性としましては、否定致しませんが」
「そこは、ほら。
俺達が好き好んでそんな場所に突っ込んで行った事なんて一度も無いんだし、全部向こうから突っ掛かって来ての結果なんだから、一応は否定してくれないと、ねぇ?」
「…………そう、であったか?
確かに、厄介事が向こうから突っ込んで来るのは日常茶飯事故に、不可抗力的なモノである事は当方も否定はせぬよ?否定は。
…………否定はせぬが、だからと言ってその全てが回避不可能なモノであったか、と言われれば、なぁ?」
「少なくとも、直前の騒動に関しては回避は出来たわよね」
「グフッ……!?」
「そうですねぇ……。
私達の様に、後から有用性に気付いて連れ戻そうとした、との形でのトラブルであれば原因は向こうに在るので、良くは無いですが良いとしても、関係性が拗れて、ですとか、幼稚な感情の発露によるモノ、ですとかが原因のモノとなりますと、流石に『不可抗力によるモノ』とは言い切れないかと……」
「「…………ゲフッ!?!?」」
自分達で広げた会話の展開の流れ弾により、男性陣が吐血したり胸を抑えてその場で蹲る。
女性陣は皆、彼女らが言う所による『原因が全て相手側に在る』状態であったのだが、アレス達男性陣に関しては『幼い頃からの感情を拗らせた結果』と『コミュニケーションの不足による関係の悪化』と『憧憬と嫉妬と憎悪とが化学変化を経て爆誕した結果』だとかが追放された理由となった経緯を持つ為に、自分達もそうである、とは例え口が裂けたとしても、とてもでは無いが言えない状況であったからだ。
とは言え、それらの厄介事の尽くを自分達の力にて跳ね除けて来た彼ら『追放者達』。
誰もが大なり小なり先程口にされた事に関しては心当たりが在る状態であった為に、自然と話題は別のモノへと移行して行った。
「…………ところで、コースにも依るんだろうが、比較的近くに街が在るみたいだけど、どうするよ?
寄ってくか?」
「ふむ?確かに、寄ろうと思えば寄れる位置に在るみたいであるな?」
「補給や休息の為に、って事?
でも、だったらさっさと聖国とやらに入っちゃった方が良いんじゃないの?」
「それも、有りと言えば有り、ですが、聖国は辺境にはあまり街や町の類いは多くないので、少し掛かる事になるかと思いますよ?
勿論、村程度で良ければそれなりに在るハズですので、補給は不可能、と言う訳では無いですが」
「なら、先に寄ってある程度補給を済ませてしまった方が良いのです?
休息の方は……まぁ、少し前まで纏まって休んでいたのですから、どっちでも良いと言えば良いのですかね?」
「まぁ、休める時に休んでおくのが冒険者の鉄則だからねぇ。
あんまり休み過ぎて身体が鈍るのは流石に頂けないけど、そうでないなら別に良いんじゃないかなぁ?」
「なら、一回寄ってみるか。
どうせ行くだけなら大した手間も無いんだし、寄るだけ寄って良い宿やら上手い具合に補給出来なさそうであったりだとかしたのなら、さっさと出て予定通りに聖国に向かえばよいんだから、行くだけ行ってみるか!」
「了解なのです、リーダー!」
アレスが下した決定に基き、握っていた手綱を操るナタリア。
その動きに従い、橇を引いていた彼女の従魔達が方向を修正し、それまで遠くに見えている山の谷間を目指していた進路から、その山の裾野を回り込む様な方向へと向かって行く事となる。
━━━━斯くして、彼らは予定していた進路から、ほぼ気紛れに近い形で外れて行く事となる。
それが、どの様な結果を齎すか、果たして、どの様な因果が巡って彼らの前へと現れるのか。
それはまだ、誰も知らない。