閑話 追放した者達の今・2
誰にも告げる事無くアレス達『追放者達』がガリアンの実家を出立し、ソレに気付いたカレンデュラが『一服盛ってでも種を貰おうと思っていたのに!?』と騒ぎ立てた(まだ滞在するだろうから、と昨晩に仕掛ける事はしていなかった)り、もう居なくなったのだから、と安堵して何かしらの企みを動かそうとしたギリアムがナベリウスから渡された紙切れ(アレスが預けた)を見て顔面蒼白な状態で布団に戻ったりしていたのと同じ頃。
カンタレラ王国のとある街付近にて、戦闘を行っている冒険者の集団が存在していた。
「━━━━はぁぁぁぁっ!!
喰らいやがれっ!!」
気合いと共に振り下ろされた輝く剣にて、魔物が轟音と共に爆散する。
冒険者ギルドの規定によって付けられたランクとしては『B級上位』に相当するソレは、本来ならば『Bランク冒険者』のパーティーか、もしくは『Aランク冒険者』でないと討伐は難しい、と言われる程度には強大な存在であり、出現と同時に近隣の騎士団や国軍に討伐の指令が下る事も珍しくは無い相手であった。
「…………ふっ、くふふっ、はーっはっはっはっ!
どうだ、見たか!俺様の、華麗なる剣捌きとそれによって繰り出された必殺技を!
この、俺様の強さを以てすれば、魔王なんてさっさと片付けられちまうかもなぁ!?」
一人高笑いを放ちながら、まるでソレが『常人であれば成し遂げられなかったであろう難行』であったかの様に誇らしげに言い放ちつつ、『俺様』を自称する若干小柄で珍しい髪色をした青年とも少年とも取れない年頃の男性が背後へと振り返る。
するとそこには、その様子を少し離れた場所から見つめていた、青い短髪で鎧を纏った人物と、赤い長髪を棚引かせた人物が存在していた。
その男性、異世界から召喚された『勇者』であるタジマは、自身の『仲間』として行動を共にしている二人、『蒼穹の剣姫』と呼ばれるアリサと『紅蓮の賢者』と呼ばれるカレンと共に依頼を受けてこの場に来ていたが、彼としては『仲間』である二人に対して自身の魅力を伝える事こそが最重要であったらしく、二人を下げて自分だけでターゲットと戦闘を開始していたのだ。
本人としては自身の強さをアピールしつつ、頼れる所を見せて二人を自分に惚れさせたかったのだろうが、彼女らの瞳に溢れているのはもっと別の感情であった。
「…………なぁ、一つ聞いてよいか?
その程度の相手を倒した位で、何を自慢しようって言うつもりだ?」
「…………えっ?はい?」
「…………貴方は忘れている様子。だから、改めて確認する。
私達は、あくまでも貴方の『護衛』。ソレをわざと下げて自分だけが、前に出る。
そんな無謀極まる行為を、自慢する意味は?」
「…………えっ、いや、だって……。
難敵、って呼ばれてるから、女の子だけに戦わせるのは……」
「ふーん……?
オレ達を女扱いしたいのは分かったが、だったらもっと上位の相手との戦いで見せてくれよ。
この程度、お前でも楽に倒せる様なチンケな相手じゃなくって、さぁ」
「え?でも、コレって強敵……」
「それは、一般人からすれば、の話。通常の騎士団や国軍にとっての話。
私達冒険者にとって。コレはそこまで『絶対的に勝てない相手』では無い。
勿論、弱い相手、とは言わない。が、自身の強さをアピールしたいのなら、『この程度』の事は出来てくれないと、正直困る」
そのセリフと共に、二人は僅かな動作をタジマへと見せる。
アリサの方は腰の得物に手を掛けて一度だけ鍔鳴りをさせ、カレンは目の前に掲げた指を一つ鳴らす。
すると、それだけの動作しかしていないハズであったのに、彼の背後で、先程彼が立てたのとは別次元のモノと思える程の轟音が突如として発生する。
慌てて振り返るとそこには、先程彼が倒した魔物と同じ種類と思われる無数の魔物が、一方では真っ二つとなり、もう一方では黒焦げに近い状態となった、無惨な死体として幾つも転がっていた。
思わず呆然となる勇者タジマ。
自身では、予め幾らかのダメージを与えた上で、必殺技を出して漸く仕留める事が出来たレベルの敵を、比較的死体を綺麗に残した上で、自身よりも素早く、数も多く倒して見せた二人に対し、戦慄にも似た感情を知らぬ内に抱き始めていたのだった。
そんな彼の内心なんて知った事では無い、と言わんばかりに、二人は再び言葉を紡いで行く。
「アンタがオレ達の事を惚れさせたい、って思ってるのは分かってるよ。
それ位、見てりゃ分かるからな。
でも、だとしたらその程度で一々自慢されてたらキリがねぇし、何よりウザったいから止めてくれねぇか?」
「貴方は確かに強い。それは、この世界の基準でもそう言えると思う。
でも、その程度出来る人は多い。ソレに、これだけ出来る私達にアピールとしては不適格。
……それと、悪いのだけど、私達をどうこうしたいのなら、最低でも『彼』以上になって。でないと、私達もどう相手にすれば良いのか分からなくて困る」
「あぁ、そうだな。
オレ達を纏めて狙ってやがるその気概は買ってやるが、だからって手出せるとは思わねぇ方が良いぞ?
少なくとも、今のアンタ程度だと、殺さずに済ませてやる程手加減する方が面倒だからな?
…………その点、『アイツ』は本気で殺しに掛かっても、俺達の事を纏めて返り討ちにしやがったからなぁ……」
自身の狙いがバレていた事や、自身が未だに目の前の美女二人よりも圧倒的な格下としてしか扱って貰えない、との事実に衝撃を受けた勇者タジマ。
本来であれば、それらに対する反論であったりだとか、そんな事を仲間に対してだなんて!と言い訳をしたりする所であったが、ソレを上回り脳が停止しかける程のショックを同時に受けてしまっており、言葉が口から出て来ない状態となっていたのだ。
…………二人が語る『彼』や『アイツ』。
タジマ自身は、具体的に『誰』と聞いた事は事は無かったのだが、ソレを口にする際の二人は普段は固く引き締めている口元と雰囲気を甘く弛ませ、戦士のそれから女のそれへと顔を変化させている事から、その相手をどの様に想っているのか、だなんて事は一目瞭然であった。
━━━━当然、ソレを目の当たりにしたタジマは非常に面白く無い。
何せ、彼女ら二人は、他の仲間と同様に、この世界を救う為の仲間として与えられた存在であり、共に過ごす存在である。
かつて、この世界は現実である、と教え込まれた事もあったが、彼としてはやはり非現実感が未だに抜けきっていないらしく、この手の小説やゲームではこの手のキャラはなんだかんだ言って主人公に惚れるモノだろうが!?との憤りが胸中へと発生してしまう事となる。
自分のモノとなって然るべき存在の心に刻まれた『誰か』。
話半分に聞いた限りでも、今の自身と同等かそれ以上の実力を持ち合わせているらしい事が伺えるその存在に対してタジマは、憎悪と嫉妬とが複雑に入り混じり、最早なんと形容すれば正しく表現出来るのか分からない感情を、その顔も知らない相手に対して抱く事となるのであった……。
なお、二人が倒したモノはそれぞれ表面が壊滅的であったり、内臓がオシャカになっていたりはしたが基本的に売却出来る程度の素材は確保出来る状態となっていた。
が、タジマが倒した個体に関しては、彼の必殺技によるオーバーキルによって跡形も無く吹き飛ばされてしまっていた事もあり、売却出来る程のモノも残ってはおらず、討伐を証明できる部位も無かった為に、正しく『踏んだり蹴ったり』なオチとなるのであった。
さて、後一月と迫りましたが皆さんはどうされますか?
え?何がって?
勿論、AC6に決まってるじゃないですか(青緑色に染まりながら『交信』のポーズを取っている褪せ人)