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『追放者達』、御前試合に参加する

 


 要求をギリアムへと一方的に突き付けたアレス達『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達は、その後特に騒ぎを起こすでも無しに大人しく過ごしていた。


 半ば勝手に踏み込んだとは言え、当初から想定していた通りの客間に腰を落ち着けていたし、既に使者として顔を合わせていたナベリウスがそのまま世話役としても落ち着いていた事と、何よりギリアム本人が何時暴発するとも分からないモノに触れるのを厭った事もあり、監視の類いも最低限のモノとして『大人しくしているのならばそれで良い』とでも言わんばかりの対応を行っていた。



 一応、食事の類いもナベリウスが半ば勝手に用意していた事もあり、屈辱を果たさん、として毒物を混入させようとしたりもしたのだが、その尽くは事前に排除されるか、もしくは効果を発揮した様子を見せる事は無く、ギリアムが一番引き出したがっていた『延長』の二文字を彼らから引き出す事は出来ずにいた。


 その為、最低限の仕込みしかする事は出来ず、せめてあと二日あれば更に復讐への布石を打ち込んで万全の盤面を築けたモノを!と歯を食い縛って怒りに震えて居たのだが、当然の様にソレはアレスに把握される事となっていた。



 …………と言うよりも、ここまでの流れが全てアレスの予想の通りであり、彼の描いた図の通りに進行していた。


 その精度は事前に計画を耳にしていたメンバー達がドン引きし、ガリアンに至っては




『よもや、リーダー殿は忍びであったか……』




 と半ば戦慄しながら、『侍』や『巫女』と同様にこの仙華国で特別視される職に就いていたのか、との誤解にも似たモノを抱かれる程であったが、仕掛けた本人も得られた結果に割と引いていた。



 一応、絵図を描いたのは確かに彼自身であった。


 それに、寸毫たりとも間違いは無い。



 そして、最善として彼らの狙いが誤る事無く全て叶う、と言うだけでは無く、最低限の達成しなくてはならない目標のみを狙い撃ちにするパターンや、最善とまでは行かなくともその手前位までは達成出来る様に、と次善の策も用意するだけは用意していたのだ。


 流石に、狙い通りに事が運ぶ事は無く、精々が次善の策でギリギリ達成、と言った程度になるだろう、と、そう思っていたのだ。



 …………が、いざ実際に挑み、蓋を開いてみれば、何故か不思議と事前の想定の通りに事が進み、アレ?コレもしかしてイケるのでは?と認識した時には既にほぼ決着が付いてしまっていた。


 おまけに、多分無理だろうなぁ、と思っていた期限を切る事すらも出来てしまっていた為に、予想外の大戦果を挙げられてしまい、寧ろ罠の類いでは無いだろうか?と心配して警戒していた、と言う訳なのだ。



 尤も、アレスとしてもギリアムに時間を与え過ぎるのは余りよろしくは無いだろう、とは思っていた。


 彼らに匹敵するだけの実力者であれば、その気になれば自前の足で幾らでも駆けて来る事が出来るので、あまり時間を与え過ぎると碌でも無い戦力を引っ張って来られる可能性が在った為に、こちらからの譲歩を引き出そうと一旦は期日を切ってきたギリアムに対し、更に切って見せる、と言う強引な手法すらも使って見せたのだから。



 それにより、こんな下らない騒動の為に特級の戦力が下手な戦線から引き剥がされて来る、だなんて事にならずに済んだ事に、隠密状態となったままでアレスが胸を撫で下ろして行く。


 一応は、とは言え、彼も冒険者として人類の防人の一人である認識は確りと持っており、自分達に対して危害を加えて来た事が在るのならばまだしも、そうでは無い無力で無害な一般市民達までもが被害を受ける様な事態は、可能であれば避けたい、とは考えていたのだから。



 尤も、ソレはあくまでも『こちらに被害が出ないのならば』が大前提な訳だけど、ね。



 そう、自らの胸中にて偽悪的に呟いて見せたアレスは、目の前で怒りに震えるギリアムに一切気付かれる事も無く、その場を後にするのであった……。






 ******






 時間は経過して、例の顔合わせ(?)から三日が経った当日。


 アレスがギリアムに対して切った期日の通りに、御前試合が開催される事となった。



 どうやって呼び掛けをしたのか、それとも彼らの時と同じ様に強制的に召喚を仕掛けたのかは定かでは無いが、試合会場として通された道場(ハウル家の館内部に併設)には、多くの人々が詰め掛けていた。


 服装や立ち振る舞いからして、大半は招待客としてハウル家との交流を深めつつ見物に徹する、と言った様な立場になるだろうが、その内の何割かは雰囲気からして明らかに武辺者のソレであり、少なくとも非戦闘者と言う事は無いのが容易に窺い知る事が出来ていた。



 尤も、そう言った人員の全てが御前試合への参加者、と言う訳でも無いのだろう。


 招待客その者が前線の経験者であったり、招待客に護衛として雇われて同道した者であったり、と参加する立場では無い、参加する訳には行かない者も多く含まれていた様子だが、それでも半数程は参加者として数えても良いと思われた。



 そうして、数はそれなりに集まっている訳なのだが、やはりと言うか何と言うか、アレス達の観察眼からしてみれば、正直な話拍子抜けする様な状態となっていた。


 …………何せ、一級品の戦力が最前線から抜ける様な事態にはなって欲しくは無い、と先に願っておきながらも、それでいて参加者達の中に自分達に匹敵しうるだけの力量の持ち主が居ない、と見抜けてしまったからだ。



 流石に、彼らとてハウル家が幾らこの仙華国での大家であったとしても、国家級の戦力の持ち主を引っ張ってこれるとは思ってはいなかった。


 しかし、幾ら非公式の場であり、かつ殆ど人目の無かった場であったとしても、あれだけ盛大に面子を叩き潰してやる様な事をしてやったのだから、確実にこちらを倒す為の策の一つや二つ絡めて来るのは当たり前、もしくはこちらを打倒しうるだけの戦力の持ち主を引っ張って来るのでは無いだろうか?と予想していたのだ。



 かつて後継であったガリアンも、ハウル家との親交があり、かつそう言った手合に心当たりは無くは無い、との事だったのでソレが出て来るモノとばかり思っていたのだが、正直肩透かしを食らった様な心持ちにさせられていた。


 とは言え、そう言った手合はハウル家の者、として参戦する事も容易に予想は出来ている為に、もしかしたらまだ出て来て居ないだけ、と言う事もあり得ると言えばあり得るのだが。



 尤も、だとしたら何なのだ?と言うのが彼ら『追放者達』に於ける共通認識。


 やる以上は勝つし、そこに何らかの思惑が在るのならば踏み潰してしまえば良い。



 何せ、彼らは自由な冒険者。


 なにも、国防や人類の防人として専念したかったのであれば、軍に入れば良かったモノを、その感覚を残しつつも束縛される事を厭って野に下った類いの人間なのだ。



 であれば、なればこそ。


 彼らを縛り、彼らをその意志に反して抑えつけようと試みるモノの思惑の通りに動いてやらねばならない道理は無いのである。




 汝、拳を握るのならば、同時に振り下ろされる覚悟を決めよ




 この世界に於いて、国や地域、果ては言語や文化の異なる場所であったとしても、不思議と同じ様な形と意味で現れる格言を脳裏に思い浮かべながら、さてどう出てくるか、と若干の期待を胸にアレスは開催を待ち望むのであった……。




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