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『追放者達』、挑発する

 


 ガリアンから放たれた言葉と威圧に、言葉を詰まらせるギリアム。


 自身が絶対と信じていた価値観を、ソレを共有し絶対に逆らわれる事は無い、と確信していた相手から否定された事で軸が揺らいでしまっているのか、動揺を隠す事が出来ずに素直に表情へと浮かべてしまっていた。



 そんなギリアムの表情を直接目の当たりにしてしまったガリアンは、複雑な感情が胸中へと沸き起こって来ているのが感じられた。



 …………何時か必ず、と言うよりもこの一件の終わりには仲間にも手を出そうとしたのだから絶対に吠え面をかかせてやる、と誓っていたがソレは今この時では絶対に無かったし、もっと盛大に噛ましてやりたかった、と言う残念感。


 一応は目的達成している(してしまった?)為に、以前から厳しさのみしか見せて来なかったギリアムに一泡吹かせてやった事への満足感。


 ……そして、かつては絶対者として自身の世界の全てであったこの家に君臨し、弟であるグズレグすらも碌に反抗しようとはしていなかった父ギリアムであれば、この程度で放心なんてする事は無く、まだまだ何かしらの手立てを残してこちらを攻撃しようとしているハズなのでは?と言った、現状が信じられない、信じたくない、と言う様な疑念感。



 それらが入り混じり、複雑怪奇な反応を見せ始めた胸中を、自身を客観的に見た結果として察したガリアンは




(まぁ取り敢えず吠え面かかせる事には成功したのであるし、当方が全て片付けなくてはならない訳でも無いのである。

 であれば、今は取り敢えず『良し』としておくのであるよ)




 と、今は一旦横に置いておく、との結論を出し、その口元をニヤリと歪ませる。



 親兄弟であったとしても、至近距離で見ていなければ分からなかったであろう程に、僅かな変化。


 しかし、彼の仲間達はその変化を鋭敏に感じ取り、ある者は祝福する様に同調して微笑みを浮かべ、ある者はこれからの展開に期待して目を輝かせ、そしてある者は自分の出番が来たな、と悪魔の笑みを浮かべて口を開く。




「さて、そちらの無意味で無価値な『元』親子喧嘩は終わりましたか?

 なら、そろそろ本題に入って貰ってもよろしいかな?こちらも、ヒマと言う訳では無いのでね」



「…………き、貴様っ!?

 その様な無礼極まる口の聞き方を、誰にしているのか分かっているのか!?」



「さぁ?知らんよ。

 そも、こちらは招待されたから来ただけで、目的は兎も角としてそちらが何方様か、何時頃なのか、期間はどれくらいなのかすらも知らされていない身の上なのに加えて、未だに自己紹介すらも受けてはいないのでねぇ。

 それでいて、こちらは全て把握して低頭平身でそちらの言い分に頷いて当然、だなんて言われても『知るかそんなもん』と返すしか無いんですわ。

 寧ろ、先の言葉を返す訳では無いけれど、そちらが真っ先にして然るべきモノなのでは?」



「………………おのれ、野卑にして無教養な冒険者風情が、言わせておけば調子に乗りおって!

 貴様の様な者でも、貴族に歯向かう事がどれだけ愚かしき事なのか程度、知っておるであろう!?

 今すぐ貴様を捕らえ、その首を落として腐れ落ちるまで晒しても良いのだぞ!?」



「ふぅん?まぁ、出来るのならご自由に。

 ソレが簡単に出来るのなら、御大層に『Sランク』なんて肩書貰っちゃいないってんだがな。

 アンタがアンタの価値観でのみ生きてるなら別に構わないが、それでも一応は考慮しておけよ?

 目の前にいる存在が、天災に等しい力を持っているが故に据えられる地位に在るモノだ、って事にさぁ」



「ぐっ…………!?

 わ、我を相手に、脅しを掛けようと抜かすか!?

 この、仙華国でも帝からの覚えも目出度い、武家の名門たるハウル家の当主たる、この我を!?

 貴様、よもや赦せるモノでは無い!貴様共々仲間の女も捕え、縄を打たれて動けぬ貴様の目の前で凌辱の限りを「おっと、そこまでにしておけよ……?」………かひゅっ!?!?」




 ギリアムの脅迫にも等しいセリフを、アレスの一言が遮る。


 片や、激情と共に発せられていた為に、必然的に声量も大きく怒鳴り声に近しい状態となっており、片や平坦で短く、一層の事『静か』と形容した方が良いであろう程度の声量と感情しか込められてはいない、呟きにも等しい一言。



 通常であれば、後者が勢いに乗っている前者を遮って無理矢理止めさせる、だなんて事は不可能とも思えるのだが、実現出来てしまっているから不思議、と言うヤツだ。


 とは言え、別段種も仕掛けも無い訳では無く、バッチリ原因となる事象が存在しており、その証拠として顔を青褪めさせたギリアムが、自ら何も無い喉元を手で抑えている状態となっている。



 そう、それこそアレスが仕掛けたモノ。


 本気の『殺意』を以ってして、セリフを遮った瞬間にギリアムの首を掻き切ってやる、と言う意思を無理矢理伝えてみせたのだ。



 彼程の戦闘力と技量の持ち主であれば、相手に殺意や殺気を叩き付けるのみであったとしても、対象に『その後自分がどうなったのか』を幻視させる事と可能とする。


 尤も、対象がそれなりに腕前を持っている事が大前提であり、かつ彼に可能な手段でのモノでしか不可能である、との前提が付く為に、奇っ怪な手段を用いてのエクストリーム爆殺、みたいな理解不能な手段で突然殺された、と言う様な幻視によって相手を混乱させる様な使い方は出来ないが、こうして目の前の相手の喉を掻き切って見せる程度の事は容易く行使できるのだ。



 とは言え、唐突に自らの喉が掻き切られ、溢れ出た血で溺れる幻視を見たギリアムにそんな事が分かろうハズも無く、半ばパニックに陥りながら喉元を抑えて目を白黒させて行く。


 仲間を穢し、殺し、冒涜する、だなんてアレスに対しては特大も良い所の地雷を踏み抜き、それでも生きていられるだけまだ慈悲を掛けられていると言えるのだが、ソレを理解出来ていればそもそもこんな事態に陥るハズも無く、幻であった、と理解した途端に同じ事を繰り返そうとする。



 が、当然アレスがソレを許すハズも無く、又しても幻視による突然死がギリアムへと襲い掛かる。


 時に首筋を通り抜ける冷たい刃の感触を、時に臓腑をえぐり抜く切っ先の鋭さを、時に四肢を砕く鈍器の硬さを、時に落とされた自身の頭部の重さを、まるで実際に体験した様なリアルさで幻視させられ続けて行く事となった。



 無数の、それでいて現実感に溢れる幻視による死を経験したギリアムは、自身の全身を脂汗がしとどに濡らしている事を察すると同時に、ソレを仕掛けているのが目の前で平坦過ぎる程に平坦で、かつ温度の無い視線を自身へと向けてきている存在アレスであり、そして同時にその条件、の様なモノが在る、と理解し始めていた。


 それは、ギリアムが彼の仲間を害する様な類いの言葉を、又は侮辱する様な言葉や行動を取ろうとした際に発生し、その言動の起こりを強制的に潰してしまうのだ。



 一度や二度であれば、ギリアムも共通点として認識する事は無かったかも知れない。


 が、何度も同じ様な事を口にしかける度に、過程は異なるとは言え結果としては自身の死を幻視させられる事になる、となれば、嫌でも察する事にならざるを得ない、と言う話である。



 そして、ソレを見計らった様にコレを仕掛けて来ている目の前の下郎は、意図的にコレを行っており、その気になれば幻視を現実のモノへと変化させる事も容易く出来るだろう、とも既に理解している。


 なれば、どうすればこの幻視を止められる?どうすれば、ソレを現実へと変えられずに済む?



 脂汗だけで無く冷や汗まで額から滝の様に流しながら思考していたギリアムは、そこでふと天啓の様な思考の閃きに遭遇する事となる。


 目の前の原因と、先に交わした会話の内で、ソレと思わしき部分があったのでは無いだろうか?と。



 ソレに思い至ったギリアムは、思考では『そんな馬鹿な事が在るハズが……!?』と思いながらも、直感的な部分では逸れこそが正解である、と判断するに至っていた為に、汗を滴らせながら




「…………大変、申し遅れた……。

 我は、ギリアム=ウル・ハウル、と申す。

 この館、の主、にして……此度の、招待、の、主となり、ます……っ!」




 と、アレスに向かって頭を下げつつ、そう告げて行くのであった……。




挨拶は大事

古事記にもそう書いてある(某忍者小説風)

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