『追放者達』、到着する
ナベリウスが騎手を務めた馬車に揺られる事数日。
『追放者達』のメンバー達は、一人を除いては目新しく、その一人としては懐かしさを感じる光景が広がる目的地へと到着していた。
ハウル家の治める領地である『ハウル領』の入口も兼ねている関所にて、一旦馬車から降りながら周囲を見回して行く一行。
流石に、ヒギンズやセレンの様な長命種であっても、初めての場所では好奇心やその他の感覚が擽られるのか、そう言った行動はアレスやタチアナと言った比較的若年層に近しい年齢の者とそう変わりはしない様子であった。
そんな彼らへと、無数の影が纏わりついて行く。
当然の様に、彼らへと同行していた従魔達だ。
最初こそ、馬車に乗り切らないし馬が怯えるから、と宿に置いて行く事をナベリウスより提案されていた。
が、それならば行く気は無い、とハッキリ断った上で、乗せられないのならば、と少し離れた場所を並走させる事で半ば無理矢理に解決へと至らせたのだ。
とは言え、そこは主大好き、仲間達大好きな従魔達。
普段であれば一緒に居られたのに、と移動中は寂しい思いをしてしまったが故に大なり小なり拗ねる事となってしまったので、こうして降りたタイミングで誰かしらが遊んで甘やかして宥める、と言った事をしていたりする。
尤も、別段ソレを面倒に感じているメンバーは誰一人としていない。
何せ、彼ら従魔とて、共に死線を潜り抜けて来た戦友達なのだから、その相手を厭うハズも無く、また彼らのモフモフな毛並みと愛くるしい反応を嫌う者も居なかった為に、寧ろ普段よりも激しく『構え!』とよって来る事になるその役割を、我先に、と全員が引き受けようとするのだから、その愛され具合は察して余りある、と言えるだろう。
そうして、それぞれでお気に入りとして懐いている相手と戯れていると、ナベリウスが手続きを終えて彼らの元へと歩み寄って来る。
流石は、かつてガリアンの教育を任されていた者、とでも言うべきか、彼は一度も従魔達の戦闘を見てはいないのにも関わらず、彼らの力の程を既に察しているのかその顔は若干引き攣っていたが、特に取り乱す様な事もせずに後数刻もすれば到着出来る、と告げて来た。
「まぁ、そうであろうな。
この関所は、ハウル領に在る館に最も近い外部への玄関口である故に、飛ばして急げば更に短縮できるであろうが、ナベリウスにもその気は無さそうであるし、もう暫しの間の辛抱であるよ」
「ソレは、アレか?
ここで俺達が到着した、って知らせを先に送っているから、そいつが向こうに到着して、ある程度の準備が整うまでの時間をわざと作らせてやる為、って事か?」
「そう言う事じゃないかなぁ?
まぁ、地方で結構その辺は別れるよねぇ。
予め用意出来ていない方が恥、って文化だと逆に急ぐ所も在る位だし、寧ろ先触れを出したらそこで数日わざと滞在して、これだけの時間をやったんだから準備は万全に出来ていて当然だよな?って堂々と乗り込む、みたいな所もあったっけなぁ〜」
「それら貴族としての習慣、を除きますと、他には宗教的な決まりとして、と言う場合も有りますね。
特定の方角からの来訪が望ましい、とされている宗派や、特定の獲物を手土産として持参する事を推奨している教義のモノまで、手広く存在していたハズです」
「ふぅ〜ん?色々と、決まり事ってヤツがあるのね。
アタシとしては、約束が在るんならさっさと行っちゃった方が良さそうな気しかしないのよね〜」
「まぁ、多少面倒に思えたとしても、それなりに意味が在るから残っている、と言うヤツなのです。
ギルドでの手続きだって、面倒で無意味に見えたとしても、必要な事だって分かっているのです?」
そんな会話を挟みながらも、再び馬車へと乗り込んで行く一行。
またしても彼らと別れさせられる結果になる為に、悲しそうに寂しそうに鼻を鳴らす従魔達に後ろ髪を引かれながらも、それでも後数刻程度の辛抱だから、と何とか宥めて乗り込み、発車させ、移動を再開し始める。
そうして再び馬車に揺られる事数刻。
先にも述べた通りに、彼らが目的地としていたハウル家の館へと彼らは到着する事となる。
塀や堀に囲まれた、城を彷彿とさせる造りの館。
かつての自己紹介の際に、ガリアンが武門の出だ、と名乗っていただけの事はあるらしく、完全に戦闘時の耐久性を重視した構造となっている様にも見受けられ、装飾は二の次、と言わんばかりの様相を呈していた。
館や城館の装飾によって家格を誇る文化を持つ貴族であれば、この様な見窄らしさを見せるとは!と機嫌を損ねたかも知れないが、彼らは冒険者。
常に戦場に身を置き、命の危機と隣り合わせとなる事を望んで選択した彼らにとっては、今回の呼び出しの件が無ければ実用一点張りなその造りは、好意的にすら受け止める事が出来ていただろうだけに残念としか言い様が無い。
下ろされていた跳ね上げ橋を渡り、館の前に設けられた車止めにて降車する一行。
流石に、国や文化が異なる地であっても、必要に駆られれば似たような機能と形態に収束を見せるらしく、当地の人間では無いアレス達には何と無く違和感のある造りをしていたが、ガリアンが特に何も言う事はしていなかった為に、一先ずは『こんなモノだろう』と納得して促されるままに玄関口へと向かって行った。
当然の様に、そこでも文化の違いによる一悶着。
土足のままで玄関から上がろうとしたアレス達と、ソレを引き止めるガリアンやナベリウス、と言った形でやり取りが発生したのだ。
一応、彼らも文化として『土足厳禁』な場所が在る、とは聞いていた。
が、これまでは宿でも部屋の中だけであったり、ギルドでは特にそう言った事で咎められたりはしなかった為に、玄関からいきなり、と言う意識はしていなかったのだ。
とは言え、そこはアレス達も特に気分を害したりはせずに、言われるがままに靴を脱ぐ。
別段、自分達の行いこそが正しいのでありソレを指摘して害する相手こそが悪である!と声高に主張する様な思想の持ち主では無く、知らなかったが故の行動であったのだから、そこを指摘されれば当然修整もするし、指示があればソレに従うのを厭う理由は彼らには無いのだから。
その後、ナベリウスの案内に従う形にて館の内部を進んで行く。
桶と手拭いを用意して貰い、足を綺麗に拭いた従魔達もその後にズラズラと続いているが、ナベリウスとしては既に『そう言うモノ』として認識しているのか、それとも慣れてしまったからか、彼らに対しては特に指摘が入る事も無いままに移動を続け、とある部屋の前へと到着する。
そしてそこで
「…………ご当主様、お客人をお連れ致しました」
と内部に向かってナベリウスが声を掛けてから、木と紙とを張り合わせて作ったと思われる扉を横へとスライドさせ、その内部へと彼らを導き入れて行くのであった。