『追放者達』、招待される
依頼によって赴いた先にて邪森華魔人の異常個体を討伐し終えた『追放者達』のメンバー達は、一旦休憩を挟んでから同時に受けていた依頼を片付けるとランタオへと帰還し、ギルドへと報告に向かった。
最初こそ、彼らが遭遇した存在に対して懐疑的であった冒険者ギルドであったが、彼らが得ていた『Sランク冒険者』の肩書が功を奏する形となり、一部しか回収する事の出来なかった異常個体の死体の回収と周辺の再度にして精密な調査を、渋々ながら約束させる事に成功していた。
尤も、翌日ギルドによって派遣された冒険者パーティーが泡を喰って帰還し、自分達の手柄だ、と主張する事すらも出来ない程に動揺しながら彼らの言葉が正しかった、と証言した為に、当日彼らの報告を受けていた受付嬢や関係者達は顔を青ざめさせる事となったとかならなかったとか。
なお、その後の精密調査に関しても彼らに対して指名で依頼を出そうとしていたのだが、彼ら曰く
『報告を上げた時の様に、自分達の情報を信じては貰えない可能性が有る以上は、その様な調査には参加するべきでは無いし出来ない。
それとも、正直に何かあった際にこちらに責任を擦られる可能性が有るから嫌だ、と言わないと通じないでしょうか?』
との痛烈な批判を受ける事となってしまい、泣く泣く強力にして減ったとしても懐の傷まない大駒を手放す事になってしまったのだとか。
そんな訳で、情報を得るついでに半ば義務として塩漬けになっていた依頼を片付けた彼らは、未だに『蓬莱亭』へと逗留を続けていた。
別段、得るべきモノは得た為に移動を再開しても良かったのだが、思ったよりも温泉を始めとした設備や食事と言ったサービスが充実した為に気に入った、と言う事もあったのだが、最大の理由としてはガリアンの負傷に対する治療の為、と言えるだろう。
…………本来であれば、セレンの回復魔法を掛けてしまえばそれで全快して終わり、である。
が、今回は中々に負担の大きな役割を一人きりに任せてしまった事もあるだけでなく、物理的に彼の身体に負担が残ってしまっていた為に、こうして予定を延長して逗留している、と言う訳だ。
「で?状態はどうだ?」
「…………リーダーよ、流石に顔を合わせる度に聞かぬでも良いのではないであるか?
もうほぼ痛む事も無くなったし、ちゃんと自在に動かせるし筋力も落ちてはいないのであるから大丈夫だ、と言ってもセレン殿が許してくれないのであるよ。
リーダーの方から、口添えしておいてはくれないであるか?」
「なら、諦めろ。
帰ってきてから改めて調べてみたら、腕から肩に掛けて細かい罅が骨に入ったままになっていた、とか言われたら本職のプライドと仲間に対する責任感とでああなるのは目に見えていた事だろうがよ」
「いや、しかしだな?
こうして、長逗留する事に決めた為に部屋も別けた訳だが、それであっても事ある毎に覗きに来るのであるし、ナタリアにも色々と吹き込んでくれるのか世話焼きが過ぎているのであってな?
先程など、当方が入ろうとした厠にまで付いてきそうになったのであって……」
辟易した様にそう語るガリアンの腕は、未だに包帯が巻かれた状態となっており、宿から提供されている浴衣の裾や襟から覗く部分は『痛々しい』との感想を見たものに抱かせる状態となっていた。
が、本人は既に気にしておらず、また語った通りに痛みも無いのか、その太く逞しい腕を組んだだけでなく、肩をグリグリと回してみたり、肘を曲げて力を込めて見せたりと、もう大丈夫アピールを繰り返したりもしている。
とは言え、先の会話にて出て来た通りに、聖女であるセレンの魔法をして癒やし切る事が出来なかった程の反動を得ていたのだから、仲間達の心配も当然と言えるだろう。
尤も、反動による負傷自体はそこまで重篤で取り返しの利かないモノ、と言う訳では無く、出先で精密さよりも手早さを優先させないとならない状況であったが為に見付ける事が出来ず、対応する術式を掛ける事が出来なかった為に残っただけの事であり、気付いてしまえれば次からはどうにでも出来てしまうのだけれども、それは言わないお約束、と言うヤツである。
必要な時に必要な札を切り、無事に依頼を達成することこそが、冒険者に必須とされている技能と思考だと言えるだろう。
故に、幾ら反動が大きいとは言え、ソレが必要な盤面へと遭遇したのであれば彼はあの『杭打ち機』(命名・ドヴェルグ)を使用する事に躊躇いは無いのかも知れない。
が、使っただけで下手をすれば冒険者としては再起不能になっていた可能性がある程の負傷を負い、その上で間近で発生した、とは言えソレだけで気絶する程の轟音まで発生する様な札なのだ。
なれば、本当に必要とされる盤面以外では、決して切らず、切ろうとも思えない様に釘を刺し、基本的な選択肢に上らせない様にするのが必要だ、とパーティーによって判断されたと言う事である。
まぁ、とは言っても、リーダーであるアレスによって必要だと判断された場合には、どれだけ持ち主であるガリアンが嫌がった所で使わせる、と言う事の裏返しでもあるのだが、それはまた別のお話、と言うヤツであろう。
そんな訳で、治療、の名目にて各人が温泉を楽しんだり、恋人との逢瀬を勤しんだり、女子会や男子会(?)と言った催し事を行なったりと、当初の目的の通りに休養を満喫していた『追放者達』。
彼らが『蓬莱亭』への逗留を延長してから数日が経った頃、その元へと一人の獣人族が訪ねて来た。
元より、あれだけ巨大な異常個体を撃破した『Sランク冒険者』と言う肩書と知名度が相まって、彼らへと訪ねて来る者は、それなりに多く居た。
パーティーへの加入希望の冒険者達や、自分の下に仕える様にと言って来る自称地元の権力者達に、持っている素材を卸してくれと頼む商人達。
中には、自分が入ってやるのだから感謝しろ!だとか、貴様ら程度に断れる自由が在ると思うのか?だとか、自分達を敵に回す程愚かではあるまい?なら早く寄越せ!だとかと言っては脅して来たりする輩も居た為に、その手の類いの連中は皆丁重にお帰り願ったし、それ以外のまともな連中にも大体は断りを入れて帰していたので最近はそう言った事は少なくなっていた。
どんな相手であっても基本的には断られる、と噂が広まった状態であってもなお訪ねて来るとは如何なる要件なのか?と不思議に思った一同は、取り敢えず会うだけは会ってみる事にした。
宿の方にお願いして、一時的に宴会場を借り受ける事になった。
汚さずに返す、との約束も交わしていた事もあり、まずはどんな相手であっても殴り飛ばしてさぁお終い、とはならないのが多少面倒な部分はあったが、それでもなお気になっていたが為に先に部屋へと入って相手が通されるのを待ち構える。
そして、宿の従業員に連れられる形にて部屋へと入って来た一人の老齢の獣人族を目の当たりにした途端、ガリアンが目を見開きながら声を挙げた。
「…………な、ナベリウス!?
何故、そなたがここに居るのであるか!?」
「……お久しゅう御座います、坊ちゃん。
不肖、このナベリウス。
この度、坊ちゃんと再び相まみえる事が叶い、大変嬉しゅう御座います」
「なんだ?知り合いだったのか?」
「う、うむ。
当方の実家にて、執事をしていたナベリウス、なのである。
当方が実家に籍を置いていた当時から老齢にあった為に、まだ現役かは分からぬが……その服装と佇まいから察するに、まだ続けている様であるな?」
「はい、勿論で御座います。
この不肖ナベリウス、かつて教育係としてじいも勤めた坊ちゃんにもう一目お会いするまでは、と役職にしがみつかせて頂いておりました」
「…………それは、随分と心配をさせたみたいであるな。
誠に、申し訳無い。
……が、本日はどの様な要件でここに?」
「はい、本日伺った件なのですが…………」
年齢にはそぐわない姿勢を良さを見せていたナベリウスと呼ばれた老齢の獣人族は、それまでかつての主家の者であったガリアンと懐かしさから話し込んでしまっていたが、一旦言葉を切り視線と姿勢をアレスへと向けて整えて行く。
そして、旅の移動による草臥れた様子を感じさせない綺麗なお仕着せの懐へと手を差し込むと、そこから一通の手紙と思わしきモノを取り出しながらこう告げるのであった……。
我が主にして坊ちゃんのお父上であるハウル家の当主より、招待状を預かっております、と……。
何故の招待……?