重戦士、説明する
「いやぁ、済まぬ済まぬ。
随分と、迷惑を掛けた様であるな。
よもや、当方としても気絶までするとは思わなんだでな」
豪快にそう言い放つガリアンに対し、ジットリとした視線が五つ集中して行く。
当然の様に、それらを放ったのはアレスを筆頭として同じパーティーである『追放者達』のメンバー達であった。
あれだけの事をしておいて、それでいて暫く反応すらしなかった為に『最悪の事態』すら可能性としては考慮していたのだ。
そこに、当の本人は欠片も悪びれる事はせず、こうして飄々としながら笑い飛ばそうとしているのだから視線に込められた湿度が高まったとしても仕方のない事だ、と言えるだろう。
そんな彼の態度に、溜め息一つ吐いてから、後方へとチラリとアレスは視線を逸らす。
すると、その先には凄惨な姿にて、文字通りの『立ち往生』している異常個体の死体があった。
「それで?
一体お前さんは何をしたんだ?
策がある、とは聞いていたから、支援は他の皆に任せて至近距離に潜んでいたけど、よもやあそこまで派手にやらかすとは思っても見なかったんだが?
しかも、使えば本人が気絶するって、一体どんな魔導具仕込んでるんだ?」
「…………あぁ、それに関してなのだがなぁ……」
アレスから発せられた当然の質問に、地面へと座り込んだガリアンか頭を掻きながら口籠る。
一応治療を終え、身体の負傷に関しては治っているとは言え未だに危険地帯に身を置いている以上、幾ら疲労していたり死にかけていたりしたとしても、鎧や装備は付けっぱなしとなっている。
だが、普段であれば背に負う事はあっても決して手離す事は無かったハズのガリアンが、現在唯一手元から離して置いていた盾へと視線を向けると、ソレを手元へと引き寄せて行く。
そして、普段であれば持ち主以外があまり目にする事は無い裏側をアレス達の方へと向けると、そこに仕込まれていた一目では良く分からない、何やら筒に収められた杭の様に見えるモノを彼らの視界に収めて行く。
「まぁ、なんだ。
見ての通りに、コイツを使ってヤツの身体をぶち抜いてやった訳なのであるが、制作者のドヴェルグ翁曰く、コレは魔導具では無いとの事であるな」
「…………はぁ?魔導具じゃ、ない?
そんな訳無いでしょう?じゃなかったら、あそこまでの破壊力が出るハズが無いじゃないのよ!?
それとも何?アンタはあれだけの破壊力を持つ『何か』が、魔力に頼らずに誰にでも使える道具です、とでも言いたい訳?」
「そうそう。
それに、オジサンとしてもその手の技術はそれ程得意、って訳じゃないけど、それでもあの時には音と同時に周囲に魔力が拡散していたんだから、少なくとも魔導具じゃない、って言うのは無理筋だとおもうんだけどねぇ」
「なのです!
確かに、戦闘者としての冒険者たる者、詳細は仲間にも秘密にしている切り札の一つや二つは持っているモノである、とは良く聞くのですが、流石にソレは言い訳としては苦しいのですよ?
さっきも気絶する程の反動があったのですから、どう言ったモノなのかをちゃんと説明してくれないと、ボク達としても作戦の組み立て様がないのですし、助ける事も出来ないのですから正直に答えて欲しいのです……」
「いや、別段嘘は吐いていないし、何も隠してはいないのであるがなぁ……」
そう言ったガリアンは、自ら引き寄せた盾の内側をカチャカチャと弄り始める。
そして、幾度かの何かが外れる様な音と、金属同士が擦れ合う様な音と共に、盾をそのものから筒状のソレを取り外して見せて来る。
………外見上は、先端を尖らせた杭を収めた筒、と言った感じだ。
杭の頭が出ているのとは逆の部分に何やら小さな箱の様なモノが付いており、ソレには何かをスライドさせる様な機構が有る様にも見えるが、人の腕程の長さと太さを持つソレがどの様な理を得れば魔力も使わずに先の破壊を巻き起こせるのか、と周囲の視線にはより強い疑念が込められて行く事となった。
「詳しい仕組みは、当方も理解出来ているとは思えぬので割愛するのであるが、要するに筒の中の杭を加速させて突き出し、相手に叩き込むモノ、であるな」
「…………それだけ?他は無し?
杭自体に爆裂させる魔法が刻まれて仕込まれてる、だとかは無しに、純粋に物理での威力であれだけの破壊力が有る、と?」
「うむ。
当方としてもあそこまでとは予想外であったが、威力に関しては特に魔法の類いは絡んでおらぬ様であるよ。
仕組みとしても、この尻の部分にある箱に魔核を入れ、安全機構を解除し、発射機構を兼ねている取手を握り締める、と言うだけであるからな。
なんでも、開発者のドヴェルグ翁曰く、魔核に込められている魔力を一瞬で全て抽出・爆破する事で圧倒的な威力が得られる、とか言っていたのであるが、流石にここまでとは思わなかったのであるよ」
「ですが、そうして動力に魔核を使われている、と言う事はやはり魔導具なのではないですか?」
「いや、ドヴェルグ翁的には、全体に術式を刻み込み内部に動力として魔核を埋め込んだモノこそを魔導具と呼称する為に、一撃で魔核を使い潰し、素材として使用している『神鉄鋼』の頑強さで無理矢理形を整えているコレは魔導具とは呼べない、との事であるな」
「へぇ〜?
そう言う事ならソレは魔導具では無い、ってことなんだろうけど、だとしてもさっきの威力って正直どうなのかなぁ。
流石に、普段からあの出力、となると滅多な相手には使えないんじゃないの?下手な相手だと、死体も残らずにバラバラになっちゃうよねぇ?」
「そこに関しては、一応調整が利く、との事であるな。
この箱に入れる魔核の大きさや、純度によって杭を突き出す勢いが変わると言っていたのであるから、そこら辺を変えれば毎回ここまでの事態にはせずに済む、らしいのであるよ。
ちなみに、今回は勝手が分からなかった故に偶々残っていた、例の大迷宮の序盤で出てきた魔物のモノを使ってみたのである」
「それで、あの威力な訳?
だったら、ボス級のヤツのモノなんて使ったらどんな威力になるのよ?
アンタが反動でバラバラになるんじゃないの?」
「うむ、ソレに関しては否定出来ぬな。
今回程度のモノであっても、当方が反動で気絶する羽目になったのであるから、次回以降はもう少し考えて使わねばなるまいよ。
それと、一応使ったらメンテナンスの為に毎回持って来い、と言われている代物であるが故に、当方の手入れではあと何度安全に使えるのかも知れないモノであるから留意しておく方が良いのであるよ」
「…………じゃあ、もしかして暴発したりする危険性が有るのです?
だったら、なんでそんな危ないモノを敵の攻撃を受け止める盾の裏になんて仕込んでるのですか?攻撃を受け止めた衝撃とかで、下手をしなくても暴発したりしちゃうんじゃないのです?」
「そこは、ほれ。
普段は安全機構で機能をロックした状態となっているのであるし、箱に魔核を入れていなければ基本的に筒に入った『神鉄鋼』の塊であるから危険性は無いのであるよ。
それに、使用時以外は杭の先が空へと向かう様に取り付けられている故に、万が一魔核を入れたままで忘れていた、等の事態になったとしても安全なのであるよ」
「あぁ、だから途中で盾の向きを普段とは逆に構えてた訳だ。
じゃあ、一応は安全な訳だ?」
「うむ。
リーダー達が術式を暴走させたりする可能性と同程度には、安全性を保つ為の工夫がなされてはいると聞いているのであるよ。
それと、一応言っておくと本当の意味合いにてコレが暴発すると、内側からの炸力によって筒や杭が弾け飛び、ついでに当方の腕どころか身体まで巻き込まれてバラバラに弾け飛ぶ事になるらしいのであるが、まぁ気にする必要性はあまり無いのであろうよ」
その言葉を聞いた一同は、従魔達を含めた全員がその場から飛び退る事となるのであったが、その直後に彼の口元にて浮かべられたニヤニヤ笑いによって冗談だとバラされ、メンバー全員によって容赦無く粛清を受ける事となるのであった……。
なお本人の口から『ウソで〜す!』とのセリフは出て来ていない模様