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『追放者達』、異常個体を撃破する

 


 周囲へと、先の絶叫と同等か、もしくはそれ以上の轟音が響き渡る。


 すわ何事か!?と周囲の存在がその動きを止めて視線や意識をそちらへと集中させた事により、周囲から音が消えて静寂が周辺へと訪れる事となる。



 魔物である邪森華魔人(イヴルドリアード)ですらも、今は情報を集めないと行動するのは不味い、自分達の母胎はどうなったのか!?と言った混乱と動揺を感じているらしく、アレス達と同様に、轟音と共に発生した白煙が晴れるのを固唾を呑んで見詰めて行く。


 …………そして、暫しの空白の後、吹いて来た風によって立ち込めていた白煙が晴らされた先に現れたのは、頓には信じられない様な光景であった。





 そう、そこには、未だに逆さまに大盾を構えた状態でこちらに背中を向けているガリアンと、突き付けられた盾と接していた植物の部分に巨大な風穴を開けられて滝の様に体液を溢れ返らせている異常個体の姿が在ったのだ。





 普段、ガリアンは歪んだ七角形、と表現出来なくも無い大盾を、縁が尖った面を下にして構えている。


 いざとなったら地面に突き刺して盾を固定したり、近接戦に於いては相手の爪先に落として鎧の上から足を使い物に出来なくしたり、と言った用途でデザインされている故の用法なのだが、現在はその逆に構えていた。



 背を向けている彼らの方へと先端の尖った下部が向き、普段は上部として向けられている方こそが異常個体へと向いており、腕に添わせる様な形で構えられているのが遠目に見て取れた。


 しかも、先程まで立ち込めていた白煙は、その全てが、と言う訳では無いのだろうが、それでもその大部分が構えられていた盾を起点として発生していたらしく、未だに彼の腕と盾との間から細く白く棚引いていた。



 未だに身動ぎ一つしないガリアンの背中から視線を動かして異常個体の方へと向けてみれば、そちらはそちらで先の光景とは大分異なる状況へと至っていた。


 それまで活発に動かしていた根や通常個体を生み出していた産出口に動きは見られず、また先の様に魔法を行使して来る様な素振りも見せず、不気味な程に沈黙を保っていた。



 とは言え、それと宜なるかな、と言うべきか。


 何せ、ガリアンが盾を突き付けているその先には、それまでは存在していなかった風穴、否、最早『大穴』としか表現する言葉が見付からない程の空間が広がっていたのだから。



 反対側が見えている、とは『風穴』と言う単語を表現する形容詞として良く使われているモノだと言えるだろう。


 が、今回のソレは最早反対側が見えている、どころか反対側の方が穴が大きく広がっている、と一目で分かる程の極大な破壊を齎されていると判別出来てしまっており、最早形容の仕方が無い様相を呈していた。



 当然の如く、その大穴からは滝の様に緑色の液体が溢れ出る事となっていた。


 が、破壊の規模にしてはその量は然程多いとは感じられないモノとなっており、遅れて彼らの鼻に届いた焼け焦げた様な臭いから察するに、恐らくガリアンが仕掛けた『何か』は高温となっていた為に傷口が焼かれ、比較的出血?が少なくなっている、と言う事なのだろう。



 そうなると、心配になってくるのが再生されないか、と言う事だが、それも無用な心配となっていた。


 何故なら、上半身に該当するであろう人型?の方へと視線を上げればそこには、攻撃を受けた衝撃によってつい先程修復していた単眼を眼窩から放り出し、視神経と思われるモノでぶら下げながら、ダラリと開いた口からは舌を垂らし、両腕と思われる位置に生えていた巨大な枝を不自然な角度で折れ曲がらせながら、どう見ても絶命している、としか判断出来ない姿を晒している異常個体の姿が在ったからだ。



 凄惨極まる姿を晒している異常個体だが、その身体の強度が仇となってか、地面に横たわる事も出来ず、直立した状態にて屍を晒す事となってしまっていた。


 そして、その姿を認識したが故か、それまでは執拗にアレス達へと攻撃を続けていた通常個体達は悲痛な悲鳴を揃って挙げると、我先に、と森の奥へと逃げ出して行く事となった。



 …………本来であれば追撃して叩けるだけ叩くのが常道なのだろう。


 が、今回の現状に於いては、既に一名が死に掛けており(当然アレス)、かつ約一名が動きもせず言葉を発する事もせずに固まったままとなっていたので動くに動けず、取り敢えず手近な個体を幾体か討伐し、人間とは恐ろしい存在である、との認識を深まらせる程度に済ませる事としていた。



 そんな訳で、追撃、とも呼べない様な形だけの攻撃をヒギンズ達へと任せ、最低限動けるまでに治療を進めたアレスとセレンは、未だに固まったままとなっているガリアンの元へと移動する事に。


 流石に、あれだけ頑丈なガリアンが早々なにかあるとは思えはしないが、だとしてもこれだけの規模の破壊を撒き散らす様な事を仕出かしておいて何も無し、と言う事は無さそうだし、何より無事でいたのならば既にその場を離れて合流してきているはずだ、と心配になって様子を見に来た、と言う訳だ。




「おーいっ、無事か?

 随分と派手にやらかしてたみたいだが、あんなの何処で仕込んで来たよ?」



「ガリアン様、ご無事ですか?

 戦いは終わりましたので、治療に参りましたよ!

 何処かお怪我があったのなら、教えて頂ければそこから治させて頂きますよ?」




 何かしらの事情で動けないだけであり、下手に近付けば反射的に攻撃を受ける可能性も無くはなかった為に、声を掛けながら近付いて行く二人。


 足下は乱雑に隆起しており、ただでさえ歩き難い状態となっている上に、異常個体の魔力が満ちた空間内部に長く留まっていたせいで身体の内外が共にボロボロの状態となっていたアレスを支える形でセレンも歩いていたので、ガリアンの元へと辿り着くのにそれなりに時間が掛かってしまっていた。



 しかし、その間もガリアンは盾を不思議な形で構えたままの状態で立ち尽くしており、僅かにも身動ぎ一つ取っている様子が見られなかった。


 …………これは、流石に不味い状態なのでは!?とある程度近付けた段階にて蹴躓きながらも二人で協力しながら駆け出し、転がる様にして彼の元へと辿り着く。



 そして、アレスが身振りで早く診てやれ!と示した事もあり、急いでアレスから離れるとガリアンの元へと駆け寄りながら回復魔法を掛けつつ状態を診察して行くセレン。


 取り急ぎとは言え掛けた回復魔法が発動した事で絶命は回避出来ていた(生きている対象にしか発動しない)事が判明し、大分無茶をさせた覚えが有るアレスは取り敢えず胸を撫で下ろす事に成功する。



 が、未だに予断を許さない状態であるのに代わりは無いのか、難しい顔をしながら複数の術式を展開しつつ呪文を唱えているセレンを横目に、アレスは地面へと腰を落とす。


 唐突に遭遇する羽目になったし、実際自身のみでは詰みに近しい状況に陥りかけはしたものの、それでもどうにかなったなぁ、と深く息を吐いていると、難しい顔をしながらも、それでいて何と言えば良いのか分かりかねる、と言いたげな表情をしながらセレンがアレスの方へと歩み寄り、口を開く。




「…………取り敢えず、ガリアン様はご無事でした。

 複数箇所の打撲や骨折、重度の筋肉疲労が見られる他には、盾を構えて先の一撃を繰り出された左肩が外れていたり、鼓膜も破けている様子であったり、と重症ではありましたが、命に別状はありませんでした」 



「…………じゃあ、なんで何も反応しなかったんだ?

 さっきだって、今だって、幾ら鼓膜が破れて音が聞こえにくくなってたとしても、反応くらいは出来るだろう?多分だけど」



「…………それなのですが……」 




 そこで珍しく言葉を濁したセレンは、まるで笑おうとして失敗した様な表情を浮かべながら、衝撃的な言葉をアレスへと投げ掛けるのであった…………。






「…………それが、どうやら気絶されている様なのです。

 鎧の構造や直前まで関節を固める様な体制を取っていた為に倒れずにおられましたが、確実に意識を失っています。

 ……これ、どうしたら良いのでしょうかね?」






思ったよりも長くなったので『ガリアンが何をしたのか?』は次回にて

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