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『追放者達』、攻勢に出る・3

 


 五人の中で、一番最初に障壁の内側へと足を踏み入れたのは、最前線を征くガリアン。


 盾を構えて身を隠しながら前進した彼の全身を、何とも言えない様な感触が撫で上げて行く。




「………………ぬぅ……っ!」




 生温かく、それでいてぬめり気の在る何だか軟らかなモノで体表を撫でられつつ、それでいて背筋には氷柱を突っ込まれた様な嫌な寒気を感じながら、体内からは温度を奪われると同時に肺腑が焼け爛れた様な痛みを訴え掛けてくる。


 そんな、表現は難しいが総評としては『苦痛』としか言い様の無い感覚に、思わず彼の口からうめき声が零れ落ちる。



 兜によって覆い隠されてしまっているが、その食い縛られた口元からは一条の喀血が流れ落ちており、先の感覚が気の所為や錯覚の類では無かった、と明確に訴え掛けてきていた。


 必要故に装着しているとは言え、今にも溢れて来そうな喉元の不快感を濯ぐ事も、口元のぬめりを拭う事も出来ずに居る彼は眉を顰めながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと一抹の心配を胸中で燻らせながらも前へと足を踏み出して行く。



 が、運動に重要な役割を持っている肺が真っ先に焼かれたが故か、それともこれまで続いていた戦闘による疲労がとうとう彼の体力に追い付いてしまったからか、先頭を進むガリアンの膝から力が抜け、その場でカクリと折れかけてしまう。


 人一人を軽く上回るだけの総重量を持つ装備を全身に纏い、それでいて精神的にも摩耗が激しい役割を果たしていたのだから当然の話であり、常人であれば疾うの昔に潰れているだけの運動量を熟しているのだから宜なるかな、と言わざるを得ないだろう。



 だが、隊列の先頭にして今回の作戦の鍵となる役割を背負っている自負の在る彼がその程度で心折れ、倒れ伏すハズも無く、兜の内側を吐血によって紅く染め上げながらも咆哮を挙げ、気合で折れかけた膝を伸ばし、盾の握り(グリップ)と『()()()』の部分を握り潰さんばかりの握力にて握り締めると、正に『突撃』としか形容の出来ないであろう勢いにて前進を再開し始める。


 それと同時に、チラリと肩越しに背後の仲間達の状況へと視線を向けるとそこには案の定な光景が広がっていた。



 全員が全員、大なり小なり口元や胸元を赤く汚している。


 回復魔法の使えるセレンや元々の体力がガリアンからしても底の見えないヒギンズは比較的平気そうに取り繕えているが、年若く比較的体力の少なかったであろうタチアナは顔を青くしながら足を震わせていたし、元々そこまで体躯が大きく無かったナタリアは少なくない量の吐血によってグッタリしている様子であった。



 ナタリアの周囲に留まり、彼女へと襲い掛かって来る通常個体を蹴散らしている従魔達も、自身の主であるナタリアの状態を気にしてか頻繁に視線を向けている。


 それでいて、確りと周囲の敵を掃討し、その上で近付いた事によって頻度が激増した地面からの突き上げもキチンと察知して回避している様は、普段構って欲しくてじゃれついたり、オヤツ欲しさにつぶらな瞳でジッと見詰めて来たりする姿からは想像も出来ない程に凛々しく逞しく見えていた。



 そんな彼らの姿に、コレは心配するだけ寧ろ失礼か、と未だに喀血の止まらない口元を歪めると、前方へと視線を戻してたった今地面を突き破って来た根へと手斧を叩き付けて緑色の液体を周囲へと撒き散らすと同時に、傷口へと盾を叩き付けてグチャグチャに粉砕して無理矢理に広げてダメージを嵩増しして見せる。


 すると、流石にそれまでのダメージも効いていたのか、それとも傷口に塩を塗りたくるが如き行為に耐えかねたのか、それまでよりも一際大きな絶叫を上げながら、遥か頭上に存在していた血走った一つ目をギロリと彼らの方へと向け、視線をそこへと固定してしまう。



 …………一応、それまでも認識はしていたのだろう、とは思われる。


 明確に攻撃を仕掛けて来ていたし、通常の個体を大量に吐き出して襲わせて来る、だなんて事をしていた以上はやはり存在を認識はしていたのだろう。



 が、それはあくまでも『捕食対象』としてのモノであり、あけすけに言ってしまえば『餌』に対しての興味であった、と言えるだろう。


 これまでのアレスが放った魔法に対する防御は半ば自動的なモノであったし、彼らの目の前に聳える事となっている根の壁も、捕食対象に近付かれたくは無い、と言った感情とも言えないモノによる忌避感から来る行動であった、と言えるかも知れない。


 誰であれ、これから喰らおうとしている対象が唐突に自身の手から逃れ、その上でこちらへと近寄って来たのならば一旦は遠ざけよう、とするのは当然の反応と言えるのではないだろうか。



 しかし、今はそれとは事情が異なる。


 未だに、彼らを喰らおうと狙っている、と言う点には変わりは無いだろう。



 だが、明確に異なる所としては、彼らの事をこれまでの『餌』としてのみ認識している訳では無く、是が非でも排除しなくてはならない『敵』である、と認識している、と言う点だ。




 その証拠に、それまでは漫然と彼らを遠ざけ自身の身を守る為に展開()()していた根による壁を前方へお倒し、彼らに対して叩き付ける事で攻撃へと転化して来た。


 更にそれだけでは無く、彼らの頭上に当たる位置に魔法陣を展開し、そこに魔力を注ぎ込む事で魔法を発動しようとすらしていたのだ。



 …………元々、邪森華魔人(イヴルドリアード)は低位の魔法を扱える、と知られている魔物ではあった。


 その為に、それが人為的(?)に弄られた存在である異常個体に受け継がれていないハズが無く、因果関係を鑑みるのであれば行使できて当然、と言える事であっただろう。



 が、その『規模』が頂けない。


 彼らの頭上に展開され、魔力を注ぎ込まれた事によって光を放っているソレはあからさまに巨大過ぎる程に巨大なモノであり、規模だけで言えばかつて彼らが行動を共にした事のある『賢者』が放った、渾身の術式を込めた一撃にも相当するであろう程のモノとなっていた。



 異常個体自身と、ガリアン達『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達のとの間に、確かに距離は存在している。


 そして、今は触手めいた動作によって武器として振るわれているものの、十二分に頑丈な壁として機能する事が出来るであろう根の数々も既に展開はされている。


 が、展開されている魔法陣とそこに注がれている魔力の量を鑑みるに、彼らを消し飛ばした上で発生する余波だけでも、それら程度でどうにか減衰しきれる様なモノでは無いだろう、との予想は簡単に弾き出す事が出来ていた。



 高耐久高出力、そんな存在が、燃え残ったモノを喰えればそれで良いや、と思考を切り替えて自爆覚悟で高火力をぶっ放して来る。


 そんな、一部の界隈の連中にとっては歓声ものの展開であったとしてとも、実際に相対して放たれようとしている彼らからすればとんでもない話であり、急いでどうにか妨害する事が出来ないか?と攻撃を放ったりして行く。



 しかし、魔法陣へと攻撃を放った所で相手の魔力そのものに干渉するには特殊なスキルが必要となる為に意味を成さず、異常個体へと向けて放たれた攻撃は通常個体が身代わりとなったり、展開されている根が壁となって本体まで届く事は無く、術式を中断させる様な事は出来ずにいた。


 また、そうして攻撃にばかり気を取られる事となってしまった結果、彼らの足下から這い寄って来ていた根の接近に気付くのが遅れてしまい、その場に拘束されてしまう事となる。



 目標たる彼らをその場に固定し、確実に直撃させる事を狙っていたのか、それともそう言った戦術を予め組み立ててインプットされていたのかは定かでは無いが、狙いの通りに事が進んだ愉悦に異常個体がその巨大な単眼を眇めさせると、展開していた術式を起動させ、魔法陣から『魔奥級』にも匹敵する程の魔法を放とうとするのであった……。




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