『追放者達』、攻勢に出る
最前線にて得物を振るっていたアレスが、背後から近付く戦闘の気配に気が付いてから少しの後。
分断されていた(していた?)『追放者達』のメンバー達が、一箇所に合流する事となった。
「…………さて、取り敢えず俺は無事と合流に安堵と感謝を捧げておけば良いのか、それとも勝手な事をしたのを怒れば良いのか、どっちだと思うね?」
「勝手な事云々を言うのであれば、特に説明も無く一人で最前線へと赴いたそなたにこそ非は在ると思うのであるがね、リーダー?」
「えぇ、えぇ!
正しく、ガリアン様の仰る通りかと!
この様な得体も知れない相手との戦いに単独で挑まれる等、危険にも程があります!」
「あんた、英雄願望は持ち合わせていない、とか抜かしてたけど、結構その気が有るんじゃないの?
でないと、こんな事わざわざしないでしょ?」
「なのです!
幾ら探りを入れるのが必要だったとは言っても、それは安全性を確保した上で行うべきことなのですよ?
『勇敢』と『無謀』は全く違う事、だなんて一々言わないと分からないハズが無いのですよね?」
「それに、流石のリーダーでもアレ相手にしながら探りも入れて、って状況には手一杯になりつつあったみたいだから、割と丁度良かったんじゃないかなぁ、ってオジサン思うんだけど、どうかなぁ?」
「………………さて、取り敢えずこうして合流も出来た事だし、どうやって攻略するのか考えようか!
さっきのアレを見ていれば分かるとは思うが、敵さんはガチガチの重装防御型みたいだから、俺だと相性があんまりよろしく無さそうなんでな」
「誤魔化したのである」
「誤魔化しましたね」
「誤魔化したわね」
「誤魔化したのです!」
「はっはっはっはっはっ!」
「うるせぇ!
オッサンは笑って無いで、さっさと方策の一つでも捻り出せっての!
さっきも言ったけど、障壁張ってて遠距離攻撃は届かないし、見た目通りの頑強さなら俺だと相性があんまり良くないんだから、アタッカーは誰かにやって貰わないとならないんだって分かってるよな!?」
「うむ、それは承知しているのであるよ。
そうして、相性の悪い相手は他の仲間に託せるのがパーティーを組んでいる強味である故に、皆で力を合わせてどうにかするのである。
……しかし、見事にリーダーとは相性の悪い存在とかち合う事となったのであるなぁ」
「えぇ、その様ですね。
アレス様の強味である『対人』『対人型』から大きく外れた姿形で、かつ防御篇重型。
それでいて、多数の手下を使って数の強味を押し付けてくる、となりますと、いつぞやの魔族を思い出せますね」
「あの時は、結構キツかったのです!
でも、その時は魔族本体が人型だったからリーダーが致命の一撃を入れられたのでどうにでもなったのですが、今回はちょっと……いや、かなり形が違うので、少しばかり難しい相手になりそうなのです?」
「まぁ、その時は兎も角として、その前の粘性体の時なんかはあんたってあんまり役に立って無かったもんねぇ?
あの幼馴染二人の方が、余程戦力になってたと思うんだけどぉ〜?」
「こらこら、そうやってイジメないの!
君だって、前のパーティーで色々言われて辞めたんでしょう?なら、そう言うのは冗談でも言わない方が良いとオジサン思うんだけどなぁ?
まぁ、でも、割とリーダーに不利な戦況を押し付ける様な特性持ちだよねぇ、アレ。
一体、どんな思惑があるのやら、ってヤツだよねぇ」
「俺的には、やっぱり例の小鬼が作ってここに放したんだと思うんだけど、どうだろう?
ここで性能試験だとかをやって、その後で本格的な投入予定だった場所に放り込むつもりだった、とか?」
「仮にそうだったとして、ここまで相性の悪い個体を的確に引き当てるモノであるか……?
その仮説が正しいとするのならば、ほぼ確実にアレはリーダーに当てる為に作られたモノであろう?
ソレを実験段階で、かつほぼ無関係の場所であっても引き寄せる等、負の意味合いで豪運過ぎるのでは……?」
「取り敢えず、考察は後回しにしてさっさと片付けちゃった方が良いとオジサン思うんだけど、どうかなぁ?
でないと、さっきから続いてるコレが鬱陶しくて集中も出来ないんじゃない?」
「それはそうなのです!
でも、誰がどうやって倒すのです?
ボクとタチアナちゃんは非力に過ぎるのでほぼ不可能なのですよ?」
「いや、流石にアタシ達にソレをやれ、だなんて言いやしないでしょうよ。
寧ろ、腕力云々を言うのならそこの毛むくじゃらが最有力候補に挙がるんでしょうけど、普段の足の重さと火力の無さから考えるとやっぱりリーダーに殺って貰う方が良いんじゃないの?
もしくはオジサンか」
「物理力、と言う点に関しましては、全力を出せば私でもそれなりの打点は出せそうですが、アレに近付いた状態でもソレを出来るかどうか、と言うのは少々心配ですし、そもそも通じるかどうかも分からないのは少しばかり不安な点ではありますね……。
タチアナちゃんがデバフを掛けてくれれば多分イケるとは思うのですが、アレス様の魔法すら弾ける規模の障壁を展開しているとなりますと、遠距離からの支援は難しいかと……」
「流石に紙耐久を通り越している様な相手に、そこまでの無茶をしろ、だ等とは誰も言うまいよ。
それと、ある程度支援を受ける必要はあるが、当方に良い方策がある。上手い事すれば、恐らくは倒す事も可能であろう程度には強力な切り札も仕込んである故に、此度は任されよ」
手立てはある、と言い切ったガリアンに対して、他のメンバーからの視線が集中する。
リーダーとして彼を信用しているアレスも、恋人として深い関係にあるナタリアでさえそうなっている最中、ヒギンズが何気無い様子にて
「ふぅん?自信の程はどうなんだい?」
と問い掛ける。
すると、それに対してガリアンも、鎧に包まれた胸を張りつつ、自身の持つ大盾を拳で叩きながら
「当然、万端であるよ。
まぁ、一撃を以て即座に撃滅せしめて見せよう、とまでは断言出来ぬが、それでもそれなり以上の痛手はくれてやれるつもりでいるのは間違いないのであるよ」
と言い切って見せていた。
ソレを聞いたアレス達は、未だに勢いを衰えさせる事も無く襲い掛かって来る通常個体の群れと、地面から突き上げて来る根の槍を雑に撃破しながら、任せるべきかどうかを考えて行く。
「まぁ、何をするつもりなのかはオジサンにも分からないけど、それでも自信があるのなら任せてみるのはどうだい?
どうせ、あの粘性体の時みたいに、一度や二度しくじった処で即座に全滅する、だなんて盤面でも無いんだし、二の矢としてオジサンも控えているんだから、やるだけやってみるのも良いんじゃないかなぁ?」
が、終始余裕を崩す事の無いヒギンズからの発言が後押しとなり、言われて見ればまぁその通りだよな、とアレス達全員が納得の表情を浮かべることとなる。
そして、ガリアンが口にしていた『必要な支援』とは具体的にはどの様なモノなのか、どの程度で必要なのか、を聞き出すと、ソレを現実のモノとするべく手を止める事無く話し合い、実行の打ち合わせを即興にて終わらせてしまう。
斯くして、アレス達『追放者達』は、これより異常個体に対してのスタンスを一変させ、反転攻勢を仕掛ける事となって行くのであった……。
漸く攻めます(笑)