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『追放者達』、異常個体と戦闘する・4

 


「…………さて、どうしたモノかな?」



 悩ましげな呟きが、アレスの口から零れ落ちる。


 群がる通常の邪森華魔人(イヴルドリアード)の群れを切り飛ばし、蹴り飛ばし、時に殴り飛ばし、魔法で打ち抜きながらもそうして考え事が出来ているのは、余程力量に差がないとやろうと思っても出来はしない事であった。



 が、彼がソレを可能としているのは、彼がそう言ったマルチタスクに慣れているだけでなく、やはりソレを可能とするだけの実力差が通常個体との間には存在していたからだ。


 そう言った意味では彼の頭を悩ませているのは、全く別の事柄である、と言える。



 当然の様に、彼の悩みのタネは、彼の前方に遠く見える聳え立つ巨木こと邪森華魔人の異常個体、と思われるモノ。


 今も、彼の足下から奇襲を仕掛けるべく根を突き上げたり、そこから派生させて横方向に伸ばして来たり、と遠距離ながらも絶妙に面倒臭い攻撃を、通常個体と連携させる様な形にて繰り出し続けてくれていた。



 ソレを回避し、伸びて来た方を手にした得物で切り払い、ついでとばかりに突き上げられたままとなっていた方には火属性の魔法を放って派手に焼き討ちを仕掛けてやる。


 すると、断面から緑色の液体を周囲へと撒き散らすだけでなく、文字通りに『派手な火柱』へと変貌した部分を振り払うかの様に振り回しながら大音量の絶叫を上げつつ、地面の下へと引き戻して行った。



 …………そして、コレと同じ行動を既に三度は繰り返しているアレスは、まるで度し難いモノを見るかの様な視線を異常個体へと向けて放つ。


 まるっきり、学習と言うモノをせず、仕方を知らない様な素振りに、以前の粘性体(スライム)とは大分違うみたいだな、と幾分かの落胆を滲ませながら。



 恐らく、以前にも人を襲い、殺め、喰らった事があるのだろう。


 こうして、自ら産み出した邪森華魔人を使ってまで捕らえ、その後喰らおうとしている事から、そう言った経験か知識か、もしくは本能的なモノがあるのは間違い無いのだから。



 そして、その成功経験なのか、或いは手段そのものが乏しくそれしか無いのかは定かでは無いが、先の根による奇襲と捕縛に固執している様に見える。


 既にソレが三度も通じず、その上で手痛く反撃すらも受けていると言うにも関わらず、周囲の邪森華魔人と連携して確実に当てに来る訳でも、何かしらのフェイント等を織り交ぜて来る訳でも無く、ただただ先の行動を同じくなぞっているだけ、と言った風にしか見えて来ない。



 それらを総合して鑑みると、恐らくこうして相対している異常個体は、そこまで高い知能は持っていない、と言えるだろう。


 少なくとも、創意工夫の類が出来る頭の出来では無い、と言う事は確かだ。



 今も行われ、先の手順と同じく撃退された攻撃は、多分だが以前訪れた人間を喰らった時に上手く行った手法なのか、もしくはオルク=ボルクのヤツに教え込まれた方法なのだろう。


 突き上げで貫ければそれで良し、回避されればそこから派生させて不意を突き当てれば良し、と組み立てられているのは良いのだろうが、それすらも回避された場合の事や、反撃を受けた際の行動等に対する工夫が欠片も見受けらていないのだ。



 最初に見せた様な、通常の個体を同時に絡め取る、と言った様な手法や囮として使ったり、複数体にて纏わり付かせてから捕縛する、貫いてダメージを与える、と言った様なパッと浮かんで来るような工夫もせず、ただただ焼き増しの様な手法に拘り徒に負傷のみを増やす。


 それはつまり、そう言った工夫を凝らしたりする知能や知識が無いのか、もしくは予め教えられた事以外は本能的な行動を取る事しか出来ないのか、と言う証明と成り得るだろう。



 尤も、可能性としては、今彼が回避と解析とに勤しんでいる場所と間合いの関係上、それしか出来ない為にそうしている、と言う可能性も無くは無いのだが、だとしてもやはり馬鹿の一つ覚えの様に同じ事しかしてこない、と言うのには強い違和感を覚えざるを得ない。


 考える頭を持っているのであれば、ここまで数を揃えさせた通常個体の軍勢で外部から圧力を掛ける様にして囲い込んで無理矢理にでも射程圏内へと押し込んだり、逆に何らかの特別製の個体にてアレス達へと向けて無視出来ない何かしらを仕掛けてから後退させ、自らの射程圏内へと誘い込んだり、と、成功するかは置いておくとして試みとして行う事くらいは出来るハズなのだ。



 であるにも関わらず、行動を変える何処ろか工夫もせず、素直過ぎる程に素直に攻撃して来るだけで退きも攻めても来る事は無い。


 それだけで、最早諦めるつもりも無いが、さりとてこちらを攻め落とせるだけの手立ても特には無い、と大声で叫んでいる様なモノだと言えるだろう。



 適当に痛め付けて逃げられる、と言う事が無さそうなのは良い事だが、逆に言えば不退転にてハッキリとした決着が齎されるまで事が明けない、とも言えるし、彼らとしても『面倒臭いから』『存在を聞いていなかったから』とこの場を後にする事も出来ない。


 故に、アレスとしてどうにかして盤面を自ら進んで動かし、どの様な形にしても決着を齎すか、もしくはそれに繋がる様に事を起こす必要性に駆られてしまっているが為に、どうしたモノか、と頭を悩ませている、と言う訳なのだ。



 …………せめて、他のメンバー達が同じ戦線にて集まっていれば話もまた変わったのかも知れないが、必要だから、と碌な情報も無い相手を前にして一人突出した自身が阿呆であったのだし、何よりこうして散らばっていた方が数が多い相手に対しては、やはりやりやすくもある。


 何より、未だに射程の定かならざる攻撃を前にして後衛達を危険に晒す様な可能性を一応とは言え排除出来ているのなれば、このまま自身でどうにかするより他にあるまい。



 改めてそう認識したアレスは、根が引っ込んで行くのに合わせて即座に術式を構築し、魔法を展開すると、今度は根に向けてでは無く多少なりとも距離の離れている本体の方へと向かって解き放った。


 これまで戦った限りでは、根に対しては火属性の魔法が良く聞いている様にも思えたが、だからと言ってあのオルク=ボルクが創り出した(と思われる)異常個体が本体までそのままの耐性である、とは限らない、と負の信頼を寄せているが故に、こうして何があったとしても余裕を持って回避出来る距離が在る内に実験を済ませてしまおう、としている訳だ。



 先に放った、簡易的な術式による矢では無く、速度を重視してはいたが、本格的に練られた術式によって展開された業火の槍は、違う事無く的として定められた幹のど真ん中へと目掛けて飛翔して行く。


 途中、その勢いに危機感を抱いた通常個体が群れの創造主たる異常個体を護らんとして枝葉を伸ばし、槍に対する壁となろうとするが、そんなモノは知った事では無い、と言わんばかりに、まるで薄紙でも貫く様にして焼き切り穿ち、延焼すらせずに瞬時に傷口を炭化させながら異常個体の間近へと迫って行く!



 …………が、その手前、幾分かの空間の隔たりを経た何も無いハズの空間にて、突如として『何か』とぶつかった様にしてその形を崩す事となってしまう。


 即座に拡散し、消滅するに至る程に生半な甘い構築をしてはいなかった為に暫く『何か』と拮抗していたが、ソレを貫く事は叶わなったらしく、何かしらの表面をなぞり滑る様にして焔が拡散してしまう事となる。



 その様は、正しく『見えない半球状の壁』がそこに存在していた、と言わんばかりの光景であり、一応は予測していたアレス本人をしても若干唖然とならざるを得ない光景として展開される事となってしまったのであった……。




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