『追放者達』、異常個体と戦闘する
唐突に目の前で繰り広げられた『捕食』と『生産(?)』に、流石のアレス達『追放者達』も呆気に取られる事となるが、流石に殺意マシマシにて襲い掛かって来る邪森華魔人(と思わしき魔物)を前にしてそんな事を言ってはいられない為に、半ば反射的に意識を戦闘時のソレへと変化させながら近付いて来た個体から順次薙ぎ倒して行く。
「………おい、おいおい、おいおいおいっ!?
ありゃ、一体何なんだよ!?
唐突に捕食したと思ったら、今度は大量に産み出して?来やがったぞ!?
こんな魔物、見た事も聞いた事も無いんだが!?誰か、アレの正体知らねぇかよ!?」
「らしくないな、リーダーよ!
そなたが泣き言を零す等、ほぼ初めてではないか!?
いつもの、煮ても焼いても喰え無さそうな飄々とした態度はどうした!!」
「うるせぇ!?
お前さんからどう見えていたかは知らんが、こう見えてもまだ二十にも成ってねぇ若僧なんでな!
こんな、欠片も考えちゃいなかった事態を前にして、普段の通りに振る舞っていろ、と言われて出来る程達観も老成もしちゃいねぇって事だよ!!」
「そう言いながらも、殲滅する手を止めない処か一撃決殺できっちり片付けてるのは、流石だとオジサン思うんだけどねぇ。
それと、混乱してる所悪いんだけど、正直な話をすればコレそのモノは見た事も聞いた事も無いんだけど、コレと似た様なモノなら、オジサン一応経験は無くはないよぉ?
と言うか、ここにいる全員は、一応経験有る、って言えるんじゃないかなぁ?」
「はぁっ!?なにそれ!?!?
こんなトンデモ体験、した覚えが……無いでもないけど、こんなデタラメな相手した覚えは、少なくともアタシにはないんだけど!?」
「なのです!?
てっきり、ボクが加入する前に相手にしていた、とかのオチかと思っていたら、そうでもなかったのですか!?
……あ、でも、そうだったらヒギンズさんも経験していないハズなのですし、そもそも『この場にいる全員が経験済み』とは言わないのです?」
「………………本体から似た様なモノを生産し、かつ捕食と誘導とを同時に行うだけの知性の様なモノが在る……。
まるで、以前遭遇する羽目になった、あの異常個体の『粘性体』を彷彿とさせる様な要素かと思われますが、ヒギンズ様が仰られているのはソレで間違いないでしょうか?」
「「「「…………あっ!?」」」」
「そうそう、その通りだよぉ。
セレンちゃんには、オジサンが花丸上げちゃおうかなぁ」
それまでの邪森華魔人と同様に、通常の個体と変わらぬ程度の強さしか持っていなかった為に、アレス達としてはあしらうのは容易いモノであった。
が、それよりも、寧ろその正体を探る事にこそ意識を傾けていたが為に、戦闘中にも関わらず、この様なやり取りを挟む事となってしまっていたのだ。
とは言え、正解かは分からないにしても、取り敢えずの答えは出たが為に、近くに居た個体を手早く薙ぎ払ってから遠くに見える巨木へと視線を向ける。
遠目に見る限りでは、やはり巨大な木に無理矢理単眼と口とをくっつけた様な怪物にしか見えてこない。
しかし、全体的に俯瞰する様に観察してみると、そうしてパーツが付いている箇所は比較的上部に固まっており、梢に茂る葉を含めて見れば何となく頭部の様にも見えなくは無い。
そこから視線を下に降ろして行けば、何となく首の様にも見える細くなっている部分や、逆に膨らんで胸の様にも見える部分、腰の縊れの様に締まっている部分を通って完全に樹木としか見えない部分へと繋がっている様にも見えて来た。
首から繋がり、胸の部分から鑑みると腕に相当する部分には左右に太い枝が長く伸びているし、そこ以外には梢にのみ枝が茂ると言った不自然な構造をしている事に、遅れながらも気が付くと、最早ソレにしか見えなくなってしまっていた。
そうして見ていると、以前に出会い、戦闘する事となった超が付く程に巨大な粘性体が自身から産み出していた、と言われる無数の粘性体の事も記憶から蘇って来た為に、未だに邪森華魔人を吐き出し続けている地面との境の穴へと視線を向ける。
位置的には、囮とは言え人類とそう機能の違わない上半身との境目であり、丁度腰から下腹部に掛けての場所に開いた穴から次々に這い出て来るその姿は、正体の可能性を見出してしまった今では完全に産道から這い出て来る赤子のソレと被って見える様にも思えてしまっていた。
とは言え、だからと言って別段手を緩めてやらなくてはならない理由にはならないし、殺されてやらなくてはならない理由にもならない。
おまけに、嫌な前例と先程目の前で繰り広げられた光景を知ってしまっているが為に、このまま撤退して見過ごす、だなんて事も彼らには出来ないし彼らの冒険者として最上位に至った、と言う矜持がソレを許さない。
また、前回の粘性体もそうだが、恐らくは目の前の異常個体も通常のソレの様に自然発生した、と言う訳では無いのだろう、とアレスは考える。
この様な個体が通常の『異常個体』として発生する、と言う事であればもう少し情報が何処かしらに残されているハズであるし、何より長く冒険者として活動していたヒギンズが欠片も知らない、と言っている以上はやはり通常のソレとは異なる存在なのだろう。
…………それに、通常であれば『こうして目の前に在るのだから自然発生した以外に考えられる可能性は無い』と断言出来たのだろうが、彼らはソレ以外の可能性を既に知ってしまっている。
そう、かつて遭遇し、そして自ら『魔族』だと呼称し、オルク=ボルクと名乗ったあの『小鬼』が、自身の手で創り出した、と言っていた存在である粘性体こそがその最大にして動かざる何よりの証拠である、と言えるだろう。
「どうせ、あのイカレ錬金術師が何かしらの関与をしてる結果、なんだろうが、何でまたこんな所にピンポイントで発生させてくれるかね!
あの野郎、俺達に何か恨みでもあるって言うつもりかよ!?」
「…………狙っているのかは定かでは無いであるが、確実に恨みならば買っているのではないであろうか?」
「そうですね。
あの粘性体を倒してしまったのは私達である、と後続の魔族達の口調から確定されてしまっているのは分かっていましたし、ソレを恨みに思われていたとしても当然ではないかと?」
「寧ろ、自分の作品として誇る様な口調ですらあったんだから、ソレを倒されたって事は恨まれて当然なんじゃないの?」
「逆にリーダーに聞きたいのですけど、そうやって自分が大切に作った自信作を倒されて怒ったり恨まなかったりするのって、どう言うシチュエーションだったら有り得ると思うのです?
普通、そこは怒ったり恨んだりするモノなのですよ?」
「……………う〜ん。
可能性として、本当に可能性としてだけどね?
耐久性だとか、動作だとか、思考力だとかを確認したかったが為にその実験台になって貰った、とか思っていたのならば、可能性としては有効的に思って貰えたりしたんじゃないのかなぁ?とはオジサン思うけど、それもかなり確率としては低いとも思うんだよねぇ。
普通は、やっぱり恨まれるので確定何じゃないのかぃ?」
「デスヨネー!
知ってた!言ってみただけだよ!!」
半ば自棄気味に放った、事実確認も兼ねた叫びに仲間全員からのツッコミを受け、これまた嫌な事実を突き付けられる事となったアレスは、涙目になりながら目の前に迫りつつあった次の一団を薙ぎ払うと、根本から叩かなくては意味が無い、との判断を下し、一人先駆ける形で突撃を仕掛けて行くのであった。