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『追放者達』、遭遇する

 


 残された痕跡を辿って行くと、森の奥へ、奥へと続いている事が見て取れた。


 通常であれば、ほぼ『有り得ない』と言えるだけの事態を目の当たりにしての現在であった為に、警戒しながらの道行きであったが、それも長く続く事は無く、呆気ない、と表現出来てしまうであろう程に短時間にて森の開けた場所へと到達し、終わりを迎える事となる。




「…………なんだ、ありゃぁ……?」




 思わず呟きを零した彼の視線の先に広がっていたのは、不自然なまでに広がっている森の中の広場と、一本の巨木。


 遠目に見える限りでも、かなり立派な幹をグルリと囲むのに、両手を目一杯広げた成人男性が何人必要となるのか予想出来ない程に大きく、そしてそれに見合うだけの高さを誇っているその巨木は、ある種異様な存在感を放っていた。



 …………それだけならば、まだ理解は出来た。


 これだけの大木であれば、森に踏み入る前から見えていて然るべきだ、とか、これ程に巨大化した植物であれば畏怖の感情や静謐な雰囲気を感じる事が常であるのにも関わらず、何故か威圧的かつ邪悪な空気に晒されている様な気がする、と言う事も、無視して呑み込む事も出来ただろう。



 だが、彼らが跡を追い、ここまで追跡してきたあのリーダー格の個体がその巨木の根本で何やら理解出来ない言語で金切り声を挙げ、それに呼応する様にソレの周辺で巨木のモノと思わしき極太の根が地面を引き裂いて持ち上がった事。


 そして、遠目にも安堵した様な表情を浮かべていたリーダー格の個体を、そうして持ち上げた根で絡め取ると、そのまま上空へと持ち上げてしまった事は、到底看過する事も現実として容易に受け入れる事も出来ない光景として彼らの眼前に広がっていたのだから、先の様な呟きが思わず零れ落ちたとしても仕方の無い事だと言えるだろう。



 流石に、長く冒険者として活動していた実績の在るヒギンズでさえこれに類似している光景は目の当たりにした事が無かったらしく、険しい表情を浮かべながら事の推移を見守って行く。


 が、そちらとしても突然の出来事であったからか、それとも物理的な拘束力が強かったからか藻掻き苦しむ様子を見せていたリーダー格の個体が更に上空へと向けて持ち上げられて行くのと同時に、彼らの周辺にて複数の気配が発生し、近付いて来るのが感じられた。



 半ば呆けていたアレスもそれには慌てて正気に戻り、周囲の索敵も兼ねて気配察知の系統のスキルを展開して行く。


 すると、その結果として先の襲撃とほぼ同等か、もしくはそれ以上の規模の集団が近付いて来ている、との応えが彼の脳裏へと齎される事となる。




「やべっ、囲まれた!

 総員、戦闘準備!」




 咄嗟にそう声を挙げたアレスに対し、斥候としての仕事を果たせよ、と半ば呆れた様な視線が向けられる。


 が、これまで積み上げて来た戦績からして、彼が警戒を怠っていたとしても、そこまで慌てる様なレベルで囲まれるまで気配に気付けなかった、なんて事がこれまでどれだけあったか?と考えると、それなりに異常な事態なのでは?との結論が出た為に、特に文句も無く戦闘態勢へと移行する。



 当然の様にその直後に襲撃を受けるが、仕掛けて来たのはつい先程まで相手にしていた邪森華魔人(イヴルドリアード)であった為に、特に混乱する事も梃子摺る事も無く、比較的淡々と処理して行く『追放者達』。


 そして、襲って来た最後の一体を斬り伏せた正にその時。




 何か硬いモノが引き裂ける様なバキバキとした音がすると同時に、恐怖と絶望に満ちた救いを求める様な絶叫が周囲へと響き渡る。




 流石に、何事か!?と音と叫びの聞こえて来た方向へと視線を向けると、そこには先程よりも更に上空へと吊り上げられたリーダー格の個体と共に、何故か真一文字に裂けて行く大木の幹が揃って存在していたのだ。


 今も音を立てながら裂けて行くその部分は、繊維が千切れて出来たであろうギザギザした縁と相まって、正に巨大な口にも見える様な状態となっていた。



 本来ならば虚と言うべきなのだろうその『口』に、根と呼ぶよりも最早『触手』と表現するのが妥当、と思われる動きを見せるソレによって運ばれたリーダー格の個体は、当然の様にその内部へと押し込まれてしまう。


 人の背丈を遥かに超える程に大きく開かれていたそこは、開いた時と同じ様に、バキバキと音を立てながらゆっくりとしている様にも見える速度にて閉ざされて行く。



 未だに叫び声を挙げていたリーダー格は、必死の形相を浮かべながらそこから脱出しようと試みている様子であったが、内部も平坦と言う訳では無かったらしく、下から突き出ている突起に足?を取られたり、内部からも生えているらしい触手に絡め取られたりして時間を稼がれてしまったらしく、虚の縁に到達した時には既にほぼ閉じている、と形容できるだけの状態となってしまっていた。


 最早、立っているのすら覚束ない程にしか開いておらず、文字通りに這って移動し、先程まで敵対していたこちらに対してまで助けを求める様に手を伸ばして見せるその姿勢に、流石に女性陣が心動かされたのか駆け出そうとする素振りを見せるものの、彼我の距離的に到底間に合うハズも無く、無慈悲にも残り僅かとなっていた隙間は勢い良く閉ざされてしまう事となる。



 それと同時に周囲へと響き渡る断末魔の絶叫と、水分を含んだ硬いナニカを引き裂き、潰し、砕いて行く様な、胸の悪くなる気分にさせられる湿っぽい音が周囲へと響き渡る。


 遠目に見ている限りでも、閉ざされたハズの虚の縁から謎の液体が滲み、滴っている事からもその音の出処と正体はお察し、と言うモノであろう。



 …………あんまりにもあんまりかつ、唐突過ぎる程に唐突に目の前にて展開された事態に、思わず呆然となる『追放者達』。


 追い掛けた魔物が突然大木に喰われました!だなんて事になれば、誰であってもこうなるだろうとは思えるが、だからと言ってコレは流石に『無い』だろう?と言いたくもなったその時。



 再び、彼らの頭上から、先程も耳にしたバキバキと頑丈な繊維が無理矢理に引き千切られる様な、そんな音が届いて来る。



 咄嗟に、その方向へと視線を向ける一行であったが、その角度は先程のソレよりも鋭角であり、音の発生源は先の虚よりも更に上部から発せられている事が察せられた。


 何故なら、虚があった場所には新たな動きは見られなかったが、その更に上部に新たな裂け目が発生しており、そこから眼球と思わしきモノが覗いていたから、だ。



 人で言う所の半眼に近い位まで開いた処で、隙間から覗いていた巨大な眼球がキロリと動いて視線を動かし、アレス達の事をギロリと睨み付ける。


 その視線は自身の思い通りに事が進まなかった事への苛立ちと怒り、そして飢餓にも似た煮詰まった食欲の色が見て取れる様であった。



 ただの大木、と言う訳では無い、とはこの場の誰もが認識していた。


 だが、だからと言って、ここまでスケール感の違う存在であれ、とは欠片も思ってはいなかった。



 寧ろ、これ本当に植物の類で良いのか?


 実は、巨人とかが偽装していた結果にとか言わないよな?



 そんな思いが彼らの脳裏を駆け巡るが、そんな事はお構い無し、と言わんばかりにソレは地面との生え際(?)から根を持ち上げて地面との境に隙間を作る。


 すると、そこから次々に邪森華魔人が飛び出してきて、アレス達へと向けて敵意を剥き出しにした状態で襲い掛かって来るのであった……。




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