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『追放者達』、依頼をこなす

 


 邪森華魔人(イヴルドリアード)の先制攻撃によって開かれた戦端は、終始一方的な戦況にて展開されていった。


 当然の様に、アレス達『追放者達(アウトレイジ)』が圧倒的な優位を保ったままで、と言う事である。



 見た目は兎も角、実態としては『動く植物』と言う方が本質的には近しい邪森華魔人の身体は、靭やかに動く事が出来る反面、非常に硬いモノとなっている。


 それに加え、人間のソレとは微妙に異なるらしい独自の魔術までほぼ全ての個体が扱う上に、基本的に群れで行動するので、討伐推奨ランクとしては、それなりに高く設定されている。



 一応、外見の通りに火に弱い、と言う弱点が在るので、燃やそうとすればかなり呆気なく倒す事は出来る。


 が、そもそも生息し行動の範疇としている場所が基本的に森の中なので周囲への延焼を恐れてその手は使い難いし、そうやって燃やしてしまうと討伐証明部位や売却出来る素材等まで全部黒焦げになってしまうので、一銭にもならない無駄働きになってしまうのだ。



 高い難易度に中途半端とは言え人に似た外見、おまけに倒し方を間違えると鐚一文手に入らなくなる。


 そんな、不人気になるであろう要素をこれでもかと詰め込んだ魔物が邪森華魔人なのだが、それでも認定されているランクは『Bランク』でしか無い。



 単体であれば、『Cランク』のパーティーか、もしくは『Bランク』個人が居ればどうにかなりはする、と言った程度の魔物でしか無い為に、当然の様に『Sランク』に至っているアレス達からしてみれば、かなり手を抜いていたとしてもどうにでも出来てしまうレベルの敵、となるのだ。


 尤も、流石に装備も何も脱ぎ捨てて棒立ちしていても大丈夫、と言う訳では無いし、ほぼ非戦闘要員であるナタリアはそれなりに本気にならないと倒せないレベルの相手である為に、言う程油断しても大丈夫、と言う訳でも無かったりする。



 とは言え、ランク的には圧倒的に格下の相手である事に間違いは無いので、順当に片付けて行くアレス達。


 時に攻撃を加えようとしていた個体を各個撃破し、時に集団で固まっていた所を薙ぎ払い、時に魔術を行使しようとしていた連中を遠距離から逆に狙撃して倒したり、と襲い来る邪森華魔人の群れの数をどんどんと減らして行く。



 その段に至っては、流石に魔物程度の知能であっても『手を出してはいけない相手に手を出した』事に気が付いたのか、徐々に相手側からの攻勢は緩まって行き、怯えた様子を見せながら何処か撤退したそうな素振りすら見せ始める。


 中でも、一番最初に攻撃を仕掛けて来た、群れのリーダー的なポジションに居ると思われる個体は、既に何らかの方法にてアレスによってつけられた傷を修復する事に成功しているにも関わらず、自身は最後尾にて隠れる様に身を潜めているのが遠目であれば見て取る事が出来ていた。



 依頼内容としても、ここで尻を捲くって逃げられると面倒な事になる、と判断したアレスは、自身で魔術を放って逃げようとしていたリーダー個体を狙撃しようと試みた。


 それなりに距離が開いている状態であるとは言え、普段であればほぼ必中に近しい距離でしか無かったのだが、彼の手から放たれた氷の矢はリーダー個体を射抜く事無く消失してしまう事となる。



 …………いや、より正確に表現するのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、届く事無く消失するに至った、のだ。



 これには、流石のアレスも一瞬とは言え虚を突かれる形となり、背を向けて逃げ出したリーダー個体への追撃を行おうとするも、次々に現れた邪森華魔人の追加の群れに射線を遮られ、邪魔をされた事で断念せざるを得なくなってしまう。



 …………依頼書には、邪森華魔人の群れは複数在る、との記載は無かった。


 それに、群れるとは言え、所詮は魔物でしかない邪森華魔人が、自身の身を呈してまで他の個体を、しかも他の群れのリーダーと思わしき個体を守った、のか?そんな事があり得るのか?



 そんな風に、半ば混乱に近しい形にて彼の思考は空転して行く。


 高位の、強力な魔物と相対している場合、ソレは致命的なまでの隙に繋がる行為であったが、彼の身体は追加で現れた邪森華魔人から向けられる敵意に反応し、半ば自動で周囲の敵を殲滅して行った。



 そうこうしている内に追加で現れた分まで倒し切る事に成功した『追放者達』。


 撃破した邪森華魔人の死体をナタリアのアイテムボックスに仕舞い込みながら、アレスは確認する様に口を開いて行く。




「…………なぁ、さっきのヤツなんだが、俺の見間違いじゃなければ、後から来た奴らが前に居たリーダーっぽい個体を庇う様な動きをしていたみたいに見えたんだが、俺の気の所為だろうか?」



「…………いや、気の所為や見間違い、と言う事はあるまい。

 当方とて、ソレは視認している故な。

 しかし、この様な事態は初めて目にするが、一体どの様なカラクリであるかな?」



「同じ群れ、ってなれば、オジサンとしては無くはないんだよねぇ。

 まぁ、余程重要な立場に在るヤツ、ってのに限られるけどさぁ。

 でも、同種とは言え、他の群れの個体を、自身を犠牲にしてまで守る、だなんて事は初めて見るねぇ。

 …………偶然タイミング的にそうなった、偶々動きが重なってそうなっただけ、って事なら良いけど、そうでないなら原因を探らないと不味いよねぇ……」




 渋面を浮かべ、そう言葉をやりとりする男性陣を尻目に、撃破した邪森華魔人の死体を回収していた女性陣は、何処か気の抜けた様な会話を繰り広げる。




「……へぇ?人っぽく見えても、やっぱり草なんだ?

 この辺とか、人肌みたいなのに触った感触とかもろ植物っぽい硬さなんだけど」



「なのです!

 それと、逃げて行った個体もそうなのですが、どれも皆女性っぽい形をしている気がするのです?

 基本的に華奢で、草になってる腰の接続部に続くお腹には縊れがあるのですし、胸も膨らんでいるみたいに見えるのです」



「そう、みたいですね。

 魔物である以上、性別は兎も角として子供に乳を与えて育てる、と言った行程が在るとはとても思えませんし、ここに居るのが全て女性体で男性体は皆無、と言うのも考え難いですが、一体どの様な意味が在るのでしょうか……?

 外見で男性を油断させ易くするとか、もしくは『豚鬼(オーク)』の時とは逆に男性を襲う為の外見、と言う事でしょうか……」




 胸に該当する部分を突いて柔らかくない、と騒いだり、自分の方が大きい、いやこっちの方が大きい、と比べていたり、最終的にはでもやっぱりセレンのが一番デカい!と仲間に襲い掛かったり、と、もう少し真面目にやろうか?とツッコミが入りそうなやり取りをしながら、全て回収して行く。


 そこまで貴重な素材、と言う訳でも無いが、流通量の多くはない素材であるし、何より残しておいて他の魔物の餌になられては元も子もない状態になってしまう為に、やはり回収してしまうのが一番良いのだ。



 取り敢えず、依頼として指定されていた魔物の群れは壊滅させた、と言えるだけの戦果は挙げたものの、やはり逃げ出した個体を野放しにしておくのは不味いだろうし、先の不可解な行動の意味と原因を探る、との意味合いも兼ねて、逃げた跡を追う事に決定したアレス達。


 幸いな事に、嗅覚に優れる森林狼達と、元々スカウトとしてのスキルと技能を持ち合わせているアレスが痕跡を発見する事に成功した為に、比較的安易に追跡する事が可能となっていた。



 …………そうして、彼らが痕跡を辿って森の奥へと入って行くと、程無くして彼らの視界にこれまで想像だにしていなかった驚くべきモノが飛び込んで来る事になるのであった……。




果たして、それは一体……?

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