『追放者達』、調査する
「お待たせ致しました!
こちらが、この『ランタオ』周辺の依頼となります!
…………ですが、本当によろしいのでしょうか?比較的難易度の高い依頼ばかりになりますし、この周辺に限定、との事でしたので効率の良い依頼の幾つかは省く形でのご紹介となりますが……」
「ええ、それで大丈夫です。
それと、大雑把で良いのでこの街の周辺の地理が分かるモノと、この街がこの国に於けるどの辺りに在るのかがわかる地図とかありますか?
あれば見て確認しておきたいのですが」
「ついでに、依頼に載ってる魔物の簡単な生態と特徴とかも纏めて説明して貰えると助かりますね。
図鑑か資料でも良いので、その辺りのモノがあれば貸して貰えると有り難い」
「承りました!
では、そちらもお持ち致しますので、少々お待ち下さい!」
「お願いしますね。
何せ、この辺は初めてですので、何だかんだとどうにかなるとは思うんですが、それでも情報は集めておきたいので、ね?」
そんなやり取りを行ったが故に、再び受付嬢がカウンターを離れて行く。
その背中を見送ったアレスとセレンは、手元に残されている依頼書の束を捲り、依頼内容の確認を行ってゆく。
未確認のダンジョンの調査、越冬している魔物の巣の壊滅、特定の薬草の収集、指定された魔物素材の納品、特殊素材指定の鉱石の採取、等々……。
どの依頼も、ある程度の実力と知識があれば達成自体はそう難しいモノでは無い。
が、どれもが一定の『面倒さ』を含んだモノであり、かつソレが為せるだけの実力があれば他のもっと稼ぎが良い依頼を優先する為に、基本的に残りがちになるのだ。
一応、別口の依頼と抱き合わせとしてついでに、と言う事が無くは無いが、それもやはり『無くは無い』程度の頻度のモノであり、メインとして受ける様なモノでは無い。
寧ろ、そう言った不人気な依頼こそ、ギルドからの評価を上げる、といった面から見れば近道となり得る手段なのだが、それでもやはりわざわざソレを選択する様な物好きはそこまで多くは居ないが故に残り続けている、と言うのが現実というモノだろう。
「さて、どうする?
コレとコレなら、何だか地名的に近くにあるみたいだけど、こっちとこっちも似た様な感じみたいだぞ?」
「でしたら、こちらとこちらは如何ですか?
どうやら一所に固まっている様ですし、それに絡めてこちらも出来なくは無いのではないでしょうか?」
「うむ?………やはり地図を待った方が良いのではないであろうか?
比較的、地名が近かったり同じ区域にある、とは言っても、本当に名前が似ているだけであったり、広大な区域の真反対側同士、と言う事も往々にして在る故に、性急に決める必要性は無いのであるよ」
「なら、こっちはどうかしら?
ここから結構近いみたいだし、コレを軸に考えながら地図と場所を照らし合わせて他を決める、って感じでどう?」
「そうだねぇ。
こっちの素材採取の依頼のヤツ、たしかこの手の魔物が住んでる辺りでも採れたハズだから、一緒に受けてしまうのは良いかもしれないねぇ。
あと、コレとコレの討伐対象だけど、たしか共生に近い関係にあったハズだから、多分一緒に片を付ける事が出来たりするんじゃないかなぁ?
まぁ、オジサンの経験上、だけどねぇ」
「なら、十分に信頼出来る情報なのです!
それと、極端に離れていない限りは距離の心配とかはしないで良いのは楽なのです。
さっきの受付嬢さんも、この街の周辺、って言っていたので、やっぱりそこまでの遠出にはならないハズなのです?」
自分達とは基本的に関係の無い場所だから、と緊張感も無い緩い雰囲気にて、好き勝手に講評しながら依頼を精査して行く一同。
この組み合わせならば多分同時にイケる、コレとコレとは相性がよろしく無さそうだから止めておこう、コレなんかは比較的簡単な類いだから緊急性が無いなら置いておくか、等々、現地人からしてみれば思わずツッコミが入る事間違い無しな会話が繰り広げられる事となる。
…………一応、地元民としては、依頼として塩漬けにされる様なモノは、少なくなるかもしくは無くなってしまってくれた方が都合が良い。
何処かしらに需要があって初めて『依頼』と言う形にてギルドに張り出される事となる上に、その手の古漬け依頼は達成された場合、手続きをした受付嬢やその支部の功績としてカウントされやすい特性がある為に、彼ら彼女らとしては一つでも多く片付けて欲しい、と言うのが正直な話だろう。
現に、彼らの会話を盗み聞きしていた左右のパーテンションの受付嬢は、彼らが『比較的簡単だからパス』とした依頼書を恨めしそうな視線で見詰めており、お願いだからそれらもやっつけてしまって欲しい、と目で訴え掛けて来る。
が、先に述べた通りに、自分達の地元で無い為に貢献等を考えなくてはならない立場に無く、その上で流れの自分達が総浚いしてしまっては逆に後に続く事が無くなってしまうから、と敢えて応える事はせずに依頼書の精査を続行する。
そうして、ある程度の目星を付けて候補を幾つかに絞り込み、後は地図等にて地理を確認して確定させるだけ、と言った状態となったタイミングにて、両手にモノを抱えた受付嬢が戻って来る。
周囲の席の受付嬢達が残念そうな表情を浮かべている事に首を傾げながらも、彼らの手元に幾つかの依頼書が抜粋されている事に満足感と期待度を上げたのか微笑みを浮かべつつ、手にしていたニ枚の地図をカウンターの上にて広げて行く。
「お待たせ致しました!
こちらが、このランタオ周辺の地形と地名が記載されたモノで、こちらがこの仙華国内部の大雑把な街の位置と距離とを記したモノとなります!
流石に差し上げる事も貸し出す事も出来ませんが、この場でなら写し取る事は出来ますよ!
それと、こちらがこの周辺で出現する魔物の図鑑となっております!
先の依頼書に記載されている依頼の対象となっている魔物は、大体こちらに載っているハズですし、習性や生態等もある程度は記されているので詳しくはそちらでお調べ下さい!
因みに、図鑑の方は貸し出しが可能となっておりますが、如何なさいますか?」
「了解です。
じゃあ、図鑑は借りるとして、サクッと地図写しちゃうかね。
周辺の方は俺がやるから、ヒギンズは広域の方を写しちゃって貰えるか?」
「はいよぉ〜。
じゃあ、手早くやっちゃおうかねぇ〜」
軽く返事をしたヒギンズは、早速、とばかりにペンを片手に自作していた地図へと、目の前のソレから得られている情報を余す所無く書き込んで行く。
その手順は淀みなく、かつ傍から見ている限りだと適当にやっている風にも見えるのだが、その実としては限りなく繊細に、かつ縮尺も統一した上で正確に位置を書き込んでおり、まるで一流の職人の作業を見学している様な心持ちにすらなっていた。
おまけに、その隣で同様の手際の良さをアレスも発揮し、ランタオ周辺のみ、とは言えそれなりに情報量が詰まっているハズのソレを手早く、それでいて正確に白紙の状態から書き起こして行くのだから、周囲の視線は二人へと集中する事となる。
が、他のメンバー達からしてみれば、その二人がそれだけ出来るのは当然の事であったらしく、特に視線を向ける様な素振りも見せずに図鑑を開いて調べ始めたり、依頼書に指定されている場所がどの辺りなのか、を地図で確認したりして行くのであった……。