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『追放者達』、威圧する

 


 目的地であった冒険者ギルドの建物へと到着したアレスタチアナ『追放者達(アウトレイジ)』一行は、特に躊躇う素振りも見せずに扉を押し開け中へと足を踏み入れて行く。


 すると、ほぼ何処の支部であっても建物の造り自体は変わらないモノなのか、お決まりの様に併設されている酒場から、ガヤガヤとした騒がしさが先ず彼らの耳へと届いて来た。



 未だに時刻は『朝』と形容しても良い頃合いであるにも関わらず、暖炉が焚かれて温かな酒場は盛況を誇っている。


 当然の様に酒の注文が方々から飛び交い、乾杯の音頭が飛び交い、笑い声や怒声が飛び交い、終いには拳まで飛び交う事態になる、何時も何処でも変わらない、冒険者ギルドの一角にて常に見られる光景の一部であった。



 尤も、他の種族の割合もそれなりにあるとは言え、基本的に獣人族(ベスタ)が主に暮らしている国である以上、それら以外の種族は必然的に目立つ存在となる。


 その為、同じテーブルやカウンターにて呑み交わす間柄であると見えていても、他の国と比べて数の少ない彼らは若干ながらも肩身の狭そうな雰囲気を放っていた。



 半ば不文律的な雰囲気が形作られてしまっているそんな場に、突如として現れたアレス達。


 メンバーの中に獣人族が一人しか居らず、それも珍しいフルフェイス型の者だけで後は他の種族の者、と言う構成が目立たないハズが無く、更に言えば連れている女性陣がこぞって綺麗所ばかり、となれば、酒場で朝っぱらから管を巻いている様な輩が目を付けないハズが無く、見慣れない彼らへと嬉々として絡んでやろう、と企み腰を浮かせかける。




「…………へへっ、見ろよあの森人族(エルフ)

 デケェ乳ブルンブルン振るわせてよぉ。ありゃ、俺達の事誘ってるってんで良いよな?」



「はっ、お前はそればっかしだな!

 分かってねぇなぁ。あの、生意気そうなメスガキを、ボコボコにしながらブチ犯してやるのが最高に楽しいんだろうがよ」



「馬鹿だなぁ、お前らは。

 そこまで歳いった連中なんて、腐れかけだろうがよ。

 最適なのは、それこそあの小さな娘位の年頃までだろう?未熟な果実程、歯応えと甘みが際立つ物はないんだぞ?」




 冒険者、等と名乗ってはいても、やはり荒事を生業とせざるを得なかった荒くれ者や、犯罪者予備群の受け入れ先としての側面は隠し切れるモノでは無く、一定数こう言った連中は何処の支部にも在席する事となっている。


 流石に、普段であれば自身の性癖や犯罪行為を無遠慮に行使すれば即座にお縄になる、との事が理解出来る程度の知性は持ち合わせているし、普段は真面目に依頼を熟している側の冒険者であったし、その手の衝動を発散する為に特殊な娼館や特定の相手と『お楽しみ』に興じる事も多くあった。



 が、酔いが回って気が大きくなっており、直前に大口の依頼をほぼ完璧な形にて納める事が出来た事が余計な自信に繋がっており、普段であれば自制していたであろう欲望の箍が緩んでしまい、先の発言に繋がった、と言う訳なのだ。


 おまけに、彼らもこの支部の中ではそれなりに腕利きで通っている為に戦闘力の面でもそこそこいい線行っており、その気になれば気に入った女の一人や二人は好きに出来てしまう、との嫌な事実が理性の緩んだ彼らの背中を後押しする形となっていた。



 しかし、酔って気が大きくなっている、と言う事はつまり、酔によって周囲への警戒心が薄れてしまっている、と言う事に他ならない。


 普段であれば、幾ら軽装であったとしても、例え相手にそのつもりが無かったとしても、対象を目視していればある程度の力量を見抜き、自身と比較し、戦えばどうなるのか、を予測する事が出来ていたハズなのだが、ソレが今回出来ていなかった。



 故に、彼らが獲物として見定めた相手の横にどんな存在が立っており、かつソレに自分達が存在を認識されている、と知らずに行動へと移そうとしていたのだ。


 …………流石に、猥談程度であれば見逃す度量を持ち合わせている彼らであったが、本格的に事を起こし、彼らのパートナーを汚さんとしている、と確定しているのであれば、また話は別の問題となる。



 席を立とうとした三人の背後に、アレス達が音も無く接近する。


 そして、それぞれセレン・タチアナ・ナタリアを侮辱し、凌辱しようとしていた愚か者に対してアレス的ガリアン・ヒギンズが、目の笑っていない笑顔や米噛みに浮かんだ青筋を隠そうともせず、短剣や手斧を片手に彼らの肩を握り潰さんとする勢いにて握り締めながら耳元で




「「「…………それで?誰の何をどうするって?んん??」」」




 と囁き掛ける。



 殺意や敵意に満ち満ちた囁き声を、欠片も気配を気取られる事無く背後に回り込んで囁き掛けるだけでなく、急所に凶器まで添えられている、と気配で察した彼らの血の気が、酔いと共に音を立てて覚めていくのが周囲からも見て取れた。



 腕利きとして名前も通っているハズの三人が、碌に抵抗する事すらも出来ずに、見慣れない上に大した武装をしている訳でも無い相手に制圧されてしまった、と言うこの上ない事実に、周囲で酔いどれていた面子もジョッキを下ろし事の成り行きを見詰めて行く。


 が、どうやら本来一番怒らなくてはならない存在である女性陣としては『不愉快ではあるものの特別どうとも思ってはいない』と言うのが正直な処であるらしく、騒ぎになっている方へとチラリと視線を送るのみ反応を示すと、さっさと受付のカウンターの方へと行ってしまう。



 ソレを目の当たりにしたからか、それとも大胆発言をしておきながら、圧倒的強者に背後を取られたから、と酔いを覚ます所か派手に下半身から放出してズボンと椅子とを汚しつつ、頭頂の耳を倒して怯えている彼らの背後から、突き付けていた凶器の切っ先を外してしまう。


 どうやら、女性陣が気にしていない事と、ど派手に漏らしている事から大した連中では無い、と判断したが故に、この程度で済ませてやるか、と慈悲の心を覗かせたが故の行動であったが、傍から見ている限りでは十二分に無慈悲な暴力の化身としての行いであった為に、ソレが周囲へと正しく伝わる事は期待出来ないだろうが。



 僅かに鼻の奥にこびり着く様な臭気を手で払いつつ、受付のカウンターにてアレコレと手続きをしていた女性陣と合流するアレス達。


 その際、チラリと向けられたセレン達の視線には、まるでしょうがないイタズラ小僧を見る様なモノが含まれていた様にも思えたが、まぁ気のせいだろう、と判断してやり取りに混ざって行く。




「それで?

 今どの辺りまで進んでるんで?」



「一応、移動の手続きを終えた所ですよ。

 それと、何か良い依頼が無いかどうかを見て頂いている所です」



「ふぅん?

 この街の名前と、周辺の地理だとかの情報は?」



「それに関しましては、これからになりますね。

 受付の方が戻られてから、のお話になるかと」



「ん、了解。

 じゃあ、それまでは待機かねぇ〜」



「ですね。

 …………それと、あまり『おいた』は感心致しませんよ?

 あまり、周囲に敵を作る様な真似は控えるべきでは?」



「さっきの件か?

 なら、無理な相談だな。

 何せ、お前さん達の事を襲って犯してやろう、とかふざけた企みをやらかしてくれてやがったんだから、生きていられるだけまだマシだと思って貰わないとな」



「もう…………また、その様に悪びれて……」



「その程度で余計な煩わしさを予防出来るんだったら、幾らでも悪ぶって見せるさね。

 因みに、コレは野郎共の共通認識だから、今更どうこう言われても改めるつもりは無いんで悪しからず」




 そんな会話を挟んでいると、セレンによって依頼を取りに席を外していた受付嬢が依頼書の束を持って近付いて来た為に、一旦そこで切り上げて依頼の選別へと意識を切り替えて行くのであった。




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