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『追放者達』、冒険者ギルドへと向かう

 


 豪勢な夕食と共に酒等を楽しんだ『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達は、その後部屋に戻って従魔達と就寝を果たす。


 そして、その翌日、アレス達は軽装に身を包んだまま街の内部を観光するべく宿から繰り出し…………はせずに事が普通に武装した状態のままで、この街の冒険者ギルドへと顔を出していた。



 …………何故、里帰りをお題目としていながらも休養も兼ねているハズの道程にて、特に必要も無いのに観光に繰り出す事もせず、冒険者ギルドなんて訪れているのか?


 それは、彼らの現状に起因している事であった。



 実は、彼らは現在地であるここの街の名前を知らない。


 何故なら、適当に『そっちに街が在ったハズ』と言った適当な感覚を頼りにして突き進んだ結果、辿り着く事となった為に、ほぼ偶然ここに居る、と言った状態となっている。



 入り口にある通用門の警備兵も、敢えてこの街の名前を口にする事は無かったし、通りに『〇〇の街』と地名が綴られている看板が出ていた訳でも無かった為に、狙って訪れた訳でも無い彼らはソレを知らなかった、と言う訳なのだ。


 当然、現在位置や、補給やその他に適切な街の位置だとかも全く以て把握出来ていなかった。



 なので、そこら辺の情報を把握し、そのついでに暫くは滞在する予定となっている為にその手続きと、手頃な依頼があれば片付けてしまおうか、との思惑からの行動であった。


 尤も、依頼云々と言っても簡単な内容にて多額の報酬が得られる、と言う様な、所謂『美味しい依頼』を狙っている訳では無く、どちらかというと依頼内容の難易度に見合わない報酬しか提示されていないが、さりとて無視してしまうと周囲への影響が大きくなる、と言った『美味しくない』依頼を狙って片付ける事になるだろう。



 元々、それまでの稼ぎで蓄えは十二分に確保出来ているし、彼らは『Sランク』としての矜持を周囲へと示す必要がある。


 前回、アルゴーの街に滞在していた時は、周囲がリーダーであるアレスに対して侮った態度を取っていた為に故意的に救済する様な事はしなかったし、元々その手の依頼が少なかったので片付けたりする事はしなかったが、通常は『Sランク』冒険者としての義務として行われる事が多い。



 そんな訳で、街の内部を進んで冒険者ギルドを探して行く。


 当然の様に、この街にあるハズの冒険者ギルド支部の位置すらも把握出来ていない為に半ば適当にぶらついているだけとも言えるのだが、大体の場合大通りに面しているか、もしくはそう言った通りが集まっている場所に在る事が多いので、大まかな目星は付けられている状態にある、とも言えるだろう。多分。



 雪が少ない国であるが故か、冬季であっても人通りの多い通りをあっちにフラフラ、こっちにもフラフラと漂う様に進んで行く一行。


 今回、依頼が在ったとしても余程緊急性の高いモノでないと即応して対処する、と言った事はしないつもりでいる為に、残念ながら色々な意味で嵩張る従魔達は宿でお留守番する事となっている。



 故に、逆説的に言えば現在は非常に身軽な状態となっている為に、こうしてブラブラと通りを練り歩く事が出来ている、とも言える。


 尤も、ここまで人通りが多く、その上で恐慌状態にあったり、不安そうな様子を見せていたり、と言った状態に無い、との事はつまり喫緊に迫る危機は無い、と言う事になるので彼らとしても焦ったり急いだりする必要性は無い、と判断しているが故に、ここまでノンビリとしているとも言えるのだが。



 そうして、時に屋台に立ち寄って買い食いを行い、時に店先に並べられた商品を観賞しながら買ったり買わなかったりしつつ、通りを進んで行く。


 そして、他の通りと合流して広間的な空間となっていた場所の一角に、彼らとしては慣れ親しんだ看板が掛けられた建物が在るのを発見する。




「おっ、アレっぽいな」



「うむ、その様であるな。

 では、行く…………前に、両手に持っている食べさしの串をどうにかした方が良かろう」



「あによ!

 この程度、冒険者なら普通の事でしょうが!」



「なのです!

 この位の事は冒険者なら普通にやっている事なのですし、ボク達はもっと食べて大きくならなきゃならない義務が在るのです!」



「…………いや、流石に成長期過ぎてからじゃ幾ら食べても、縦には伸びずに横にばかり大きくなるんじゃないかと、オジサン思うんだけど……」



「ヒギンズ様?

 女の子には、例え頭で理解していたとしても、時には衝動的に身体が勝手に動いてしまう、と言った事が多々あるのです。

 そして、今の二人は正にソレで、かつ女の子相手には言って良い事と悪い事もある、とはご存知ですよね?」




 屋台で売っていた焼き串を両手に持ち、その両方を頬張っている二人の姿は、身長も相まってまるでリスか何かの様にも見えた。


 が、その愛らしい姿を前にしても、と残酷な現実を突き付けんとしたヒギンズの背筋を凍らせる様に、セレンの言葉が飛び出し、彼の顔色を青ざめさせて行く。



 長い冒険者生活に於いて、これまで数々の命の危機を迎えて来た彼の生存本能は、独自の進化を果たして目の前の危機の規模や脅威度を彼へと教えてくれていた。


 その働きによって命を拾った経験は幾度もあり、全幅の信頼をヒギンズは置いているのだが、今回はソレが『最上級の危機である』と彼の脳髄へと最大音量にて訴え掛けて来ていたのだ。



 そんな馬鹿な!?と否定せず、そんなハズが無いやろ?と訝しむ事もせず、半ば反射的な行動として即座に両手を掲げ、降参の意を表明するヒギンズ。


 戦って負けるハズは無い、とは思っているが、仲間内にて戦う意味は欠片も無いし、万が一開戦した場合には彼女の恋人であるアレスが参戦してくるのは目に見えているし、彼と戦うとすれば確実に命のやり取りをするハメになる。



 尤も、半ばお巫山戯としての発言でもあった為に、この程度で許してね?と言った内心が無いでも無かった上に、相手側であるセレンとしても、どうせそんな処だろう、との予想は出来ていた為に、笑顔のままで




「次は無いですから、ね……?」




 とかなりの含みを持たせたセリフを放って一件を終わらせて見せる。



 そんな、ある意味『大人のやり取り』を間近に見ていたリス二人は、改めて尊敬する様な、嫉妬する様な視線をセレンへと向けて行く。


 彼女の持つ圧倒的なスタイルに少しでも近付かんとしている訳だが、精神的なやり取りの面でも『大人の女性』としての側面を見せられる事となり、仲間や友人として鼻が高い思いであると同時に、目指すべき壁が更なる高さを誇っている、と知らしめられた気分であるが為に、その様な反応となってしまっているのだ。



 尤も、タチアナの方としては、自身の恋人であるヒギンズと親しげにやり取りし、かつ自分では出来なかったであろうやり方にて彼をやり込めて見せた、との事により、自分よりもお似合いの組み合わせなのでは?と一瞬だけであったとしても、そう思ってしまった。


 それが個人的に許せないのか、それともそう思ってしまった自身が許せないのかは本人にも分かっていないが、怒りにも似た感情が湧き上がるも、ソレを何処に持っていけば良いのか分からず、結局胸の内側へとしまい込む事となってしまう。



 が、それはさておくとして、目的地としていた場所が目と鼻の先にあるのは間違いが無い為に、何時までも眺めていても仕方が無い、と判断したアレスの号令により、全員で揃ってギルドへと向けて移動を再開するのであった……。




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