『追放者達』、湯に浸かる
「はっ、あぁ〜……」
足先から湯に浸かると同時に、セレンの口から吐息が溢れる出る。
つい先程、似たような事をしていたタチアナとは異なり、そこには正しく『艶』とでも表現するべき色気の様なモノが含まれており、普段の清楚な外見からは考えられない様なモノを放っていた。
それには、思わず同じパーティーの仲間であり、かつ同性でもある二人も思わず視線を逸らし、若干ながらも顔を赤らめながらお湯の中にて身体を離す。
何やら、してはならないことをしてしまっている、様な背徳感染みた感覚を覚えた故の行動であったのだが、ソレを成させた本人は良く分かっていなかったらしく、一人キョトンとしながら首を傾げていた。
『大人の女性』としての文句の出様の無い程の色気やスタイルを持ちながらも、時折あどけなさを見せつつ、普段の振る舞いは極一部を除けば清楚そのもの。
まるで、男性の理想像の一側面を完璧に体現して見せたかの様な彼女の姿に、思わず嫉妬心が二人の胸中にてメラメラと燃え上がり始める。
故に、と言う訳でも無いのだろうが、一旦は彼女から離れていた二人は、特に打ち合わせをする事もせずに、ほぼ同時に左右から囲う形にて最接近を仕掛ける。
翻ってセレンの方は、何やら離れた二人がジリジリと近付いて来る事に若干の違和感と嫌な予感を覚えたものの、普段の二人との同性特有の気のおけないやり取りや、純粋にお湯の気持ち良さにやられる形にて、最初に抱いていた警戒心を解いてしまう。
「…………以前の時もそうだったけど、アンタ本当にこう言う時って気持ち良さそうにしてるわよね。
何か、理由でもあるのかしら?」
「理由、ですか?
…………まぁ、無い訳でも無いですが……」
「へぇ?
それは、一体何なのです?
ボク達には、あまり関係無いモノなのですか?」
「………?
関係無い、とは言いませんが、最近その……肩凝りが強くてですね?
こうして温かなお湯に浸かれるだけで、大分楽になるのですよ。
それと……」
「「それと?」」
「それと……………こうしてお湯に入っていると、普段重くて仕方のない『コレ』が、軽くて良いなぁ、とね?
まぁ、それはそうとして浮いてきてしまうのが難点ですが……」
そう言って、肩を自ら揉みつつ胸元を自身の腕にて隠してしまうセレン。
彼女の持つ立派な双丘は、その上向きな形を保ちながらも柔らかに変形し、プカリと温泉からその顔を出そうと浮かび上がって見せていた。
…………その衝撃的な絵面に、躙り寄っていた二人は恐怖と絶望の表情を浮かべた後にピシリと固まってしまう。
自らの持ち物ではそこまでの存在感を主張する事は勿論不可能であるし、そこに至る事が出来る可能性の有無を考えると、最早確率論的世界の壁を物理で突破する、位の無茶をしてもなお可能と出来る目が見えて来ない程である。
永劫の未来を見通しても訪れる事の無いのが確定した福音を持つセレンに対して、二人は虚ろな瞳と視線を向ける。
その様子に、漸く二人が何やら不穏な空気を纏っている、と察したセレンであったが、左右から迫りくる二人は既に至近距離にまで迫っており、最早手を伸ばせば余裕で相手に触れられる距離にまで至っていた。
暫し、無言のままで湯に浸かる三人。
しかし、その沈黙は偶然にもタチアナとナタリアの二人が同時に手を伸ばし、左右の双子山をそれぞれで鷲掴みにする事で破られる事となる。
突然の事態に悲鳴を挙げるセレン。
そんなセレンの事は丸っと無視し、鬼気迫る表情にて視線に嫉妬と恐怖と羨望と、それとほんの僅かばかりではあるものの懇願を込めた二人は、セレンが抵抗を止めてグッタリと力を抜き、微かながらも艶めいた声を漏らす様になるまで彼女を蹂躙し続けるのであった……。
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そうして、女湯が姦しくも艶めかしくなっているのと同じ頃。
設備としても隣り合わせとなっている男湯の方でも、俄にざわめきが発生する事となっていた。
と言っても、特に何があった、と言う訳では無い。
ただ単に、『追放者達』の男性陣が、連れ立って湯に浸かりに入って来た、と言うだけの話。
タオルを巻く事すらもせずに長身巨躯を先客達へと晒していはガリアンは、縦にも大きいが決してひょろ長い訳では無く、寧ろ太く分厚く仕上がっている。
皆の盾役として最前線にて常に攻撃に晒されるその身体には傷跡も多く残っているが、ソレを苦にせず、それどころか逆に筋肉の隆起によって埋もれている古傷すらもある程であり、下手な筋肉自慢、力自慢の荒くれ者であったとしても、彼の身体を目の当たりにすればその自信を立処に喪う事となるのは必定と言えるだろう。
続くヒギンズはガリアンと比べると小柄に見えてしまうが、それでも世間一般的には十二分に長身の域に入っているし、身体も良く鍛えられている。
本人的には、最近年のせいでお腹周りが少し気になり始めている、との事であったが、傍から見ている限りではそんな事は微塵も感じられないし、寧ろ毛むくじゃらなガリアンよりも鱗が肌を覆っている部分がある、程度のヒギンズの方が、より深く刻まれた腹筋をハッキリと目視する事が出来るだろう。
そんな二人とは対照的に、体格も身長も種族的な平均値でしか無いアレスは、酷く小柄で細く見えてしまうのは否定出来ない。
が、良く見てみれば彼の身体は筋肉こそガリアンの様に膨れ上がりはしていないものの、その筋一つ一つが鍛え上げられた細く強靭な鋼の様な状態となっており、彼の戦闘スタイルと照らし合わせた場合、如何に『軽量かつ高出力』を実現するのか、を主題として考えなくてはならなくなる為に、最も都合の良い状態となっている、と言えるかも知れない。
そうして、あからさまに荒事に慣れ親しんでいる雰囲気を放っている、ガチムチゴリマッチョ(一人は細マッチョ)三人組が仲良く入って来た事により、先客として湯に浸かっていた他の利用客達は、咄嗟に向けた視線を急いで逸したり、いそいそと湯から上がったり、逆に侮れない強敵と遭遇した、と言わんばかりの空気を醸し出したりし始める。
中には徐ろに立ち上がり、まるで立ちはだかるかの様に三人の方へと歩み寄って行く者もいたが、湯気や距離によって隠されていた彼らの『得物』のシルエットや実物を目の当たりにする事で戦意を喪失してしまったらしく、顔を青ざめさせつつ、若干前屈みになって股間を隠そうとしながら足早に浴場を立ち去ろうとしてしまう。
それらの結果として、彼らが掛け湯で身体を濡らし、軽くとは言え身体を洗って湯に浸かる準備を終えた段階で、他の利用客はほぼ退席してしまった状態となってしまい、半ば貸し切りめいた状態となってしまう。
広く、美しく整えられた浴槽を自分達だけで独占出来る、と単純に喜べたのであればまた違ったのだろうが、そう言った楽しみ方をするには彼らの感性は善性により過ぎていた為に、寧ろ罪悪感の方が強く感じられてしまう。
だとしても、目の前の事を楽しまないのは流石に勿体無い、と決断を下した彼らが身体をお湯に沈めた正にその時。
隣り合っており、また通気の為か仕切りの壁の上部が開いている事で物理的に繋がりがある女湯の方から、何やら艶めかしい声と息遣いと物音が男湯へと伝わって来る。
一瞬、何事か!?と身構えるが、それらの物音の持ち主が自分達の知っている相手であり、かつ音からしてどんな事をしているのか、までほぼ正確に予想してしまった彼らは、互いのパートナーがしているであろう行いに微妙そうな表情を浮かべながらも、一様に『他の客に聞かれなくて良かった』と思いつつ首元まで温泉に浸かるのであった……。
取り敢えずサービス回終わり