『追放者達』、街へと辿り着く
国境地帯から離れて進む事数日間。
アレス達『追放者達』のメンバー達の姿は、とある街の近くに到着する事となっていた。
別れ際に警備兵へと訪ねていた情報に従い、先ずは東に進路を取って氷塊傀儡の集団へと突撃をかまし、その尽くを殲滅。
途中で出没した魔物も蹴散らしながら軌道を修正し、街道へと戻ってから今度は分かれ道をわざと本筋から逸れて、こちらも予め聞いていた乱殺灰熊の群れへと強襲を仕掛けて、こちらも乱獲。
その他にも、幾つかの魔物の群れを蝗害染みた殲滅力にて撃破しつつ、その素材と討伐証明部位を大量に溜め込んだ彼らは、ガリアンの記憶を頼りに行動し、こうして街へと辿り着いた、と言う訳なのだ。
…………尤も、この付近に関しては一応出身地とは言え、そこまで地理や土地勘には明るく無かったらしく、おまけに国を出てからそれなりに時間も経っている事も相まって、大雑把に『こっちの方角に街が在る……ハズ』だとか『この街道を辿れば街へと辿り着く。どれくらい掛かるか?……忘れた』だとかの指示しか出せなかった為に、ここまで時間が掛かった、とも言えなくは無いのだが。
そんな、無いよりはマシ、と言った案内により漸く街へと辿り着いた一行は、吹き荒ぶ寒風と旅路による土汚れ等によって疲弊しており、アルゴーの時とは異なって特に議論の余地を挟む事無く、一心不乱に街へと目指して突き進んで行く。
雪が少ないだけ野営もし易いだろう、と思っていたら、風が強過ぎて焚き火を焚く事すら憚られる(そもそも焚けない)為に暖を取る事が難しかった上に、周囲の木々やテントが靡く音で警戒も難しく、睡眠も浅くならざるを得なくなったりと、疲労が溜まる要素が多く散見されたのが大きな要因を占めている、と言えるだろう。
残りの要因としては、主に活動の場所としていたカンタレラ王国とは周囲の環境や植生も異なる為に、必然的に魔物の行動原理や習慣等も異なっていたので、それまでは『ここまでは大丈夫』だとか『これさえしなければ何とでもなる』だとかの経験則が通じなかった、と言った点が挙げられるだろうが、その辺は既に各自で克服し、ある程度までは把握する事が出来ているのでもう大丈夫だろう。
とは言え、肉体的にも精神的にも疲れているのは間違い無い為に、特に足を止める事もせずに目の前の名前も知らない街へと突撃を敢行する一行。
当然の様に、人通りの少なくなる季節に唐突に現れた一行に対して不審な目を向け、警備兵達が止まる様に促して来る。
が、そこは国境と同じ様に『Sランク』のタグとカードの威光によって強制的に黙らせ、ついでに従魔達も利用可能な宿の場所も聞き出して行く。
「…………宿、ですか?」
「あぁ、出来れば可及的速やかに休める、設備の整っている所が良いな。
金額に関してはあまり拘りは無いが、そこまで高い場所でなくても良い」
「出来れば、お風呂が着いている宿が良いですね。
勿論、無くともお湯が貰えるサービスが着いていれば良いのですが」
「…………でしたら、あそこはどうでしょうか?
少々値が張りますが、設備やサービス、提供される食事等も一級品で、従魔とも共に泊まる事が出来る、と聞いた事があります」
「ふむ?
従魔を預ける厩舎が在る、のでは無く、従魔と共に泊まる事が出来る、と?
それは、珍しいであるな」
「ええ、そうしているが為に値段が嵩んでいる部分もあるそうですが、実はその宿が最も『売り』としているのは別の部分なのだそうです」
「なのです?
この子達と一緒に泊まっていられる、ってだけでテイマーにとっては十分に強力な『売り』だと思うのですが、それ以上のがあるのですか?」
「アレじゃない?
食事が特別豪勢なんだとか、それか部屋の内装に拘りがあってこの国特有のナンタラが〜とか言う感じなんじゃないかしら?
それか、ドコドコの誰々が作ったナンタラって芸術品を集めて〜みたいな感じ?
精々が、その程度でしょうよ?」
「いえ、そのどれもが当て嵌まる、とも言えますが、本命は別のモノだそうですよ」
自身の予想に余程の自信が有ったのか、それともそれ以外の要素には心当たりすら無かったからか、タチアナが不思議そうに首を傾げる。
自身の恋人のその仕草に、思わずヒギンズが口元を緩めながら微笑ましく見詰めて行くが、同時に答えも気になったらしく、自らの分として提出していたタグを受け取りながら、先程までやり取りしていた警備兵へと再度問い掛けて行く。
「さっきの口ぶりだと、伝聞として耳にした事はあるけど実際に目にした事は無い、みたいに聞こえたけど、実際の処としてはどうなんだい?
以前、実際に利用した事があるのかなぁ?」
「いえ、自分の稼ぎでは少し難しい所なので、実際に泊まった事は無いですね。
ですが、上司の一人が実際に泊まった経験があり、ソレを散々自慢すると同時に宣伝までしている、と表現出来る様な状態となっていたので、嫌でも売り込み文句や特筆点を覚える事になった、ってやつですよ」
「成る程ねぇ。
じゃあ、そろそろ答え合わせと願いたいんだけど、そこの一番の『売り』って結局何なんだい?
食事でも内装でも芸術品の類でも無い、となると、かなり候補としては限られるとオジサン思うんだけどねぇ〜」
「えぇ、まぁ、言ってしまえば、かなり簡単な事なのですけどね?
ただ単に、その宿には温泉が在ると言うだけ、なのですから」
「「「温泉!?!?」」」
「おわっ!?!?」
彼の言葉に激しく反応を示した女性陣が詰め寄り、思わず悲鳴が挙がる。
どうやら、以前ガンダルヴァへと赴いた際に体験した温泉が、彼女らの中では大層お気に入りの部類として認定されていたらしく、機会が有れば是非ともまた入ってみたい、と思っていた様子。
それが、思っても見なかった場所とタイミングにて、予想だにしていなかった単語が飛び出して来たが故にこの過剰反応を見せて居る、と言う訳なのだろう。
とは言え、唐突に顔を近付けて来た、目を爛々と光らせている女性陣の状態に警備兵の方が若干引き気味であり、どうにか下がらせないと続きを促す事すら難しそうになってしまっていたりするのだが。
そんな女性陣を引き剥がして話を聞いてゆくと、どうやらその宿は温泉の源泉を持っているらしく、それにより設備として温泉を持っている、との事。
そして、温泉の質として、美肌や髪の艶を上げたり、冷えや体調悪化の解消にも効果が在る、とも聞いており、実際に例の上司は利用する前と後では別人染みた変化を見せていたらしい。
それらの情報を得た女性陣は、まるで暴走状態にある魔物の如き勢いにて宿の名前と場所を聞き出すと、困惑する従魔達を急かしながら、周囲へと土煙を立てる程の勢いを持って件の宿へと駆け出して行く。
…………そして、その場に取り残された男性陣は、何故にあそこまで執着するのか、と半ば呆れ、半ば恐怖心すらも感じながらも軽く肩を竦め、自分達も聞き及んでいた位置を頼りに、宿へと向けて歩き始めるのであった……。
次回、サービス回(?)