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閑話 追放した者達の今

 



「………………勇者、殿……自分は、何度も……言ったハズ、ですぞ?

 基本を、疎かにした、者……には、何も着いては来ない、と……」



「…………う、煩い!

 偶々、そう偶々ここ最近は忙しくて忘れていたってだけで、俺様はちゃんとやっていた!やっていたんだ!

 それでも、結果が出ないのは、お前らの教え方が悪いからだ!

 ソレ以外に、異世界から『勇者』として召喚されてやった俺様の実力が上がらない理由が無いだろうが!?」




 カンタレラ王国の首都であるアルカンターラに建つ冒険者ギルド本支部が持つ訓練所のその一つ。


 ここ最近、とあるチームによって貸し切られているそこに、一組の人影が交わす会話が響いて行く。



 片方は、痩せ形の獣人族(ベスタ)


 狼の特徴を持った、珍しいフルフェイス型の獣人族の男性であったが、その身体は装備や全身を覆う毛皮の上からでも分かる程に痩せ細っており、立ち姿からは武の修錬の痕跡が感じられるものの、現在はお世辞にも健康体である、とは言えない空気を纏った風体をしていた。



 もう片方は、只人族(ヒューマン)の様にも見える少年。


 背丈としては青年の様にも見えなくは無いが、顔立ちや雰囲気からは落ち着いたモノは欠片も感じられる事は無く、苛立ちや忙しなさ、過剰なまでの自尊心等が滲んでいる為に、お世辞にも親しみ易さや人望といったモノを感じ取る事は出来なさそうであった。



 そんな二人は何をしていたのか?と言われれば、相対していた立ち位置と言い、両者が木製の武具を手にしていた事と言い、只人族と見られる少年が地に尻を突いている事と言い、そして場所が場所なだけに、二人で手合わせをしながら訓練をしていたのであろうが、その結果は見ての通り、聞いての通りのモノと言うヤツである。


 聞く限りでは、基礎的な練習をサボった少年が、それでも勝てると思い込んで挑んだ獣人族に負けた、との場面なのだろうが、流石に『勇者』と呼ばれる程の存在がその程度な訳が無い、と信じたい処ではあった。




「…………言い訳は、無用……です。

 戦場で、敵が、ソレを……聞き入れて、くれる確率は、ゼロに等しい……と、貴方も知っている、ハズです……。

 彼らに追い付き、追い越し、英雄、として……認め、られる。ソレを、成す為に……この程度、では不可能、だと、は……貴方も、分かっている、ハズでしょう……?」



「…………う、煩い!

 だから、さっきから言ってるだろうが!今回は偶々だ、って!!

 この『勇者』たる俺様が、魔物相手なんかに油断したりするハズか無いだろうが!!

 それに、あの連中に吠え面をかかせてやるのは、既に決定事項だ!

 まだ、ランクで追い付けて無いのは、俺様の事を魔族共が恐れて接触を避けているから戦えていないだけで、戦えさえすれば、あの連中みたいに取り逃がす様な無様は晒さなかった!確実に仕留めて見せていたさ!!」



「…………そう、仰られるのでしたら、目の前の半死人程度、簡単に倒してみせて下さいませ。

 貴方様が『あの連中』と呼び捨てた彼の方々は、最高難易度のダンジョンを攻略し、攻略深度を更新したその足に彼と戦い、余裕を持った状態にて完膚無きまでに叩き伏せる事を可能としておりました。

 それ程の力量の持ち主を相手に、それだけ大きく出ようと為されているのでしたら、少なくとも目の前の相手程度は軽くあしらえる様になって下さいませんと、話にもなりませんよ?」




 大言を吐き続ける少年へと、横から別の声が掛けられる。


 そちらに居たのは、狐の特徴を持った獣人族の女性であり、かつては勝ち気に吊り上がっていたであろう目尻が、今では程良く力も抜けて下がり気味になっており、程良く切れ長な目を美しく装う化粧と相まって、何処か気怠げで妖艶な雰囲気を醸し出していた。



 彼女に見られていた、と知らなかったのか、勇者を名乗る少年は肩をビクッと揺らしてしまう。


 が、内心での動揺を悟られなく無かったのか、それとも格好の悪い処は見せたくないと思っていたのかは定かでは無いが、慌てて尻餅を突いていた地面から腰を上げ、土汚れをはたき落としながら手にしていた弛く湾曲した木剣を構え直しつつ口を開く。




「や、やだなぁサラサさん。

 この程度が、俺様の実力な訳が無いじゃないか〜。

 偶々、そう偶々!俺様が初めて手にした形の武具を、それの扱いに得意なグズレズから教わっていたってだけなんだから、こうなるのは偶々だって、なぁ?

 俺様が本気を出したら、この程度は一瞬なんだから、さぁ?流石に、練習で全力本気を出す方がカッコ悪いって、なぁ?」



「…………それは、それが出来る者のみが口にして良い事柄。

 現に、貴方は今、立つのもやっと、と言った状態の半死人程度に過ぎない彼に、打ち勝つ事すら出来てはいないでしょう?

 かつて、彼の方々と相対した時、彼は心身共に万全に近しい状態であり、武装も最高に近しいモノだった、と言えます。

 ……ですが、それでも彼の方には、彼の『追放者達(アウトレイジ)』の【武人】『絶対なる巌盾(アイアス・ジルド)』と名高いガリアン様に、手も足も出る事無く完敗致しました。

 しかも、それは彼の方々が魔族と遭遇するよりも遥かに以前、現在よりも力量が低かったであろう時点での話しになります」



「…………勇者、殿は、未だ……に、若い。

 そして、未だ……武の、修錬を、始めた……ばかり、とも言える。

 なら、まだまだ……伸び代の、余地が、在る……結果は、これから……出る、でしょうな……」



「あぁ?お前程度が、何様目線で語ってくれてやがるんだ!?

 俺様が、この勇者として召喚されるのに応じた俺様が、お前程度にグダグダ言われなきゃならない理由が、何処にあるって言うつもりだよ!

 高々、アニキ程度に勝てなかった負け犬は、一人で勝手に吠えてやがれ!

 俺様にどうこう言いたけりゃ、最低でもアリサやカレン並の実力を身に着けるか、それかサイモン達の様に戦闘でも役に立つ所を示して見せるんだな!

 精々、俺様に捨てられない様に、惨めったらしくしがみついて見せるが良いさ!!」




 まだ武具の扱いに慣れていないから、と女性であり、見目自体は悪くないサラサに対して良い処をアピールしたかった様子だが、その本人と直前に彼の事を叩きのめした本人であるグズレズから『今はまだ口程にも無いからな?』とも取れる発言を受けてしまうシカノスケ。


 それにより、自身が言い出した事、現在『勇者』の称号に最も相応しく、同時に本人達は最も必要としていない『追放者達』へと追い付き、追い抜き、思い知らせる、との目標に対する進捗具合が芳しく無い事まで思い出してしまったからか、他の仲間と比較する様な言葉を吐き捨てながら、激昂した様子を見せつつ足音荒くその場を後にしてしまう。



 冬季故に依頼は少なく、その上魔族との接敵が本格的なモノへと移りつつある、との事で各国の軍が本格的に動く様にもなっていた。


 その為に、冒険者が活躍し、名を上げてランクを上昇させる機会が普段よりも少なくなっていた。



 故に、と言う訳でも無いが、現状名声を求めるのであれば、それ相応の実力が大前提とはなるが軍へと志願するのが最も手っ取り早い方法となる。


 しかし、勇者として召喚されたシカノスケは、そうして軍に所属して経験を積みつつ魔族と戦う事を拒否し、あくまでも冒険者として活動する事に拘っていた。



 何故かは、仲間としてギルドに付けられた彼らにも分からない。


 が、初めに指南役、指導役として付けられる、と説明をされていたハズの二人に対して秋波を送る様な真似をしたり、戦闘員として役に立っていないから、とぞんざいに扱う様な言動をして見せたりし始める。



 …………その様子に、若さ故の焦りか、もしくは自身の発言に耐えられなくなってか、と老婆心として心配する一方、何か嫌な予感と傾向が見られないだろうか、との想いが二人の胸中へと飛来するのであった……。




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― 新着の感想 ―
[一言] 大変だなぁ……あの面々の中で反省してるのこの二人だけだから馬鹿勇者の教育できるの彼らだけだし
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