『追放者達』、報告する
「…………それで?そうやって反撃を喰らいそうになったがどうにかして凌ぐ事に成功し?何やかんやあって『ダンジョンマスター』と思わしき存在を撃退する事には成功した、と?
目的は目下不明だが、奴らがダンジョン間を移動するのに使われる道具は破壊して在るから、一応はあそこも安全にはなっているし?例のブツも件の『ダンジョンマスター』がアレコレした結果渡ったモノだから、今後は心配する必要はあんまり無い、と?
そう言いたい訳だな?」
「あぁ、概ねそんな感じだ」
アルゴーの冒険者ギルド支部のギルドマスターに与えられる執務室にて、ギルドマスターたるマレンコと相対したアレスがそう宣う。
ダンジョンである『ミクトラン遺構』から帰還して直ぐに行われた報告であった為に、まだ彼らは戦装束のままであるだけでなく、その身を戦塵や返り血等で汚した状態のままであった。
普段であれば、そんな状態で報告には赴かないし、聞く方も一旦帰らせて身綺麗に整えさせてから、となるのだが、事の大前提が生活に直結しているダンジョンの調査報告であり、かつ報告する内容が内容であった為に、両者その辺は割愛して実行している、と言う訳だったりする。
…………とは言え、アレス達としては今回まともに報告していない部分もバッチリ在る為に、その辺を突っ込まれない様に、とさっさと報告して自由な身分になってしまいたかったから、と言うのが本音だったりもするのだが。
そんなアレス達の内心を知ってか知らずか、強面に収まる隻眼を細めながらマレンコが問いを口にする。
「…………取り敢えず、今回の件が『ダンジョンマスター』絡みだった、って事は、理解した。
実際、あんな低級なダンジョンであんなモノ出そうと思ったら、それくらいしか原因は無さそうだからな。
ついでに、『ダンジョンマスター』であればそう言った前兆の無い急な接触、って点にも納得はしてやろう。
だが、報告にあった『ダンジョンマスター』を撤退に追いやっただけでなく、あのダンジョンにはもう現れなくさせた、って事は確かなんだろうな?そもそも、ダンジョンコアを砕く事無く『ダンジョンマスター』の出現を防ぐ方法だなんて、儂は聞いた事も無いのだが?」
「そこは、本人(?)が言っていたから、としか?
ほぼ偶然、ダンジョンの最奥で仕掛けられていた道具を破壊したら、転移も出来なくなるしその前に帰る、とか言い出してそのままドロンッ!とされたんだよ。
だから、連中って実はほぼ無条件にダンジョンであれば急に出現する、とか思われてるけど、地味に何かしらの条件でもあるんじゃないのか?
特定の道具を予め埋め込んでおかないとダメだとか、一定時間先に訪れておく必要があるだとか、そんな感じのヤツ」
「…………それは、有り得ん、とも言えんな……」
彼が口にした言葉を吟味し、唸り声と共に黙り込んでしまうマレンコ。
『ダンジョンマスター』に関しては、複数の個体と思われる存在が確認されている事、必ずダンジョンの内部でのみ出現する事だけが確認されており、その他に関してはダンジョン内部であれば万能に近しい能力を発揮できる、と言った程度しか判明していない。
その為に、アレスが口にした言葉が真実であれば新たな発見とも言えるだけの価値があったし、ダンジョンにも『ダンジョンマスター』についても専門的とは言えないマレンコとしては、その情報の正誤を判断する事が出来ずにいた。
立場上、それらの情報を精査するにしても、報告のあった通りにダンジョンでの異常が正常になっているかの調査を行うにしても自身で判断を下す必要があった故に、既にアレス達には用は無くなってしまっていた事もあり、顔を顰めながら思考を繰り返しつつ、気も漫ろに彼らの退出を許可してしまう。
ソレを待っていた、と言わんばかりにそそくさと執務室を後にするアレス達。
さっさと報酬の受け取りも済ませてしまい、ギルドの建物からも十分に離れた処で周囲を窺っていたガリアンが、耳打ちする様にして話しかけて来た。
「…………取り敢えず、どうするのだ?
報告のしようが無い故に黙っていた、と言えば聞こえは良いが、今の風潮に従えばコレは明らかな利敵行為であるぞ?」
「…………仕方無いだろう?
こっちは既に助けられていて、しかもバラした処でどうにかなる様な情報でも無いんだから、黙ってるしか無いだろうがよ?」
「…………でも、何で、って考えると不思議だよねぇ~。
オジサン達、確か彼らとは敵対していたハズなんだけど、何で助けてくれたんだろうね?
もしかして、彼らも一枚岩じゃあ無い、って事なんだろうか?」
「…………もしくは、目的としてのゴールは同じだった、と言う事でしょうか?
あの時、私達を攻撃したのもそうですし、私達を今回助けたのもそうだった、と。
もしくは、今回私達を助けたのはあくまでもオマケで、本来の目的は『ダンジョンマスター』への妨害であった、とか?」
「でも、そうだったらついでにアタシ達も殺して行くんじゃないの?
少なくともアタシだったら、仲間と敵対してるヤツが都合良く弱ってたら、ついでに止め刺しておく、位はすると思うんだけど」
「…………ん〜ボク個人の考えとしては、逆に仲間に配慮した結果、ではないのです?
ボク達と相対した事のある連中が、ボク達を倒すのは自分だ!とか主張していたから、そっちに配慮して手を出さずに放置して、結果的に助ける事になった、とかはないのです?」
「…………まぁ、何れにしても暫くは大丈夫だろうよ。
あのアルカルダとか名乗った『魔族』の言葉と行動を信じるなら、だがな。
とは言え、ここでやらなくちゃならない事は全部終わったんだ。なら、少し休んだから旅路に戻るとしようか。
まだまだ第一の目的地にすら着いてないんだから、な」
ガリアンの囁やきから始まった会話に、何時の間にかメンバー全員が参加しての話し合いとなっていた。
が、彼の中では既に終わった事である、との認識があった為か、もしくは助けられた対象から聞き及んだ情報が真に迫ったモノであった為かは不明だが、特に今後に対する不安の類いを見せる事も無く、次に対する言及をして見せる。
そんな彼の姿に、確かに何かあればその時に対処すれば良いか、と半ば諦めと共に納得したらしいメンバー達は、それぞれで肩を竦めたり頷いたりしながら彼と共に歩んで行くのであった……。
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「…………帰ったか。
ご苦労だったな。
それで、首尾の程はどうだった?
お前の事だ、失敗する心配はしていないが……」
「有難きお言葉。
首尾としましては、当初の予定の通りに撃退致しました。
現地の『傀儡』も破壊しておきましたので、暫く『獅子』が本拠地から出歩く事は難しくなるかと」
「…………ふむ、それは朗報、と言うヤツか。
それで?他にも何か在る、と言いたそうな顔をしているが?」
「…………ハッ。
例のダンジョンにて、『獅子』の『傀儡』を破壊する際、例の冒険者達を助ける形となりました。
その際の感触として、こちら側に引き込めるやも知れぬ、と感じました。
戦力としても十二分な様子ですので、お許しを頂けますでしょうか?」
「……………ふむ。
総体と個別とではまた別の話し、か……。
良かろう、許可しよう。
しかし、その者達に対する執着を見せているのはお前だけではない、と理解はしているのであろうな?」
「勿論、で御座います」
「ならば、良い。
報告ご苦労であった、下がって良いぞ」
「ハッ!
御前、失礼致します」
取り敢えず今章についてはここまで
次回閑話を挟んで次章に移ります