『追放者達』、策を仕掛ける
一旦同じく後ろへと下がっていた為に隣に居たアレスから、軽く『これからしたい事』の説明を受けたガリアンは、セレンによる回復を終えると同時に再び盾を構えて『ダンジョンマスター』へと向けて突撃を仕掛ける。
それまで彼の代わりを勤めていた従魔達が飛び退き、彼の入り込む余地を改めて作り直すと同時に、攻撃を受けた事による負傷を癒やすべく何頭かが後ろへと下がり、未だに余裕を残していたもう何頭かが攻撃的な立ち回りへと戻って行く。
普段のソレよりも攻撃的な立ち回りを見せるガリアンと、同じく治療も終わったハズなのに戦線へと復帰した様子を見せないアレスに対し、未だに最前線にて致命傷を与え続けているヒギンズがチラリと視線を向けて来る。
が、その様子からして、何かしら企んでいるらしい、と察したらしく、普段からして引き締まりの無い口元を若干苦笑気味に歪めると、ガリアンの動きから彼らの『予定』を読み解いて行く。
(…………普段どっしり構えて受け止めてから、が強味の彼がここまで前に前に、ってやってるって事は、撃破する手立てが見付かった、って事なのかなぁ?
多分何かしらの目処が立ってるんだろうけど、こうまで密着してる、となると魔法の類いでドカン!は無さそうだねぇ。
そうなると…………立ち回り的に時間稼ぎ、いや、どっちかと言うと意識を集中させようとしている気が強い様にも見えるって事は……リーダーが何かしら仕掛けるまで注意を引いておきたい、って処かなぁ?
なら、オジサンもそうするとしようかねぇ)
特に説明を受けた訳でも無く、状況的に見て判断を下したヒギンズがガリアンと並ぶ形で戦線に復帰する。
それまでの通り、目の前の『ダンジョンマスター』を翻弄し、隙を見せれば致命傷を与えてその身体を破壊する、と言った立ち回りを続けていたが、より注目を集める為にか、それまでよりもより派手に立ち回る様になっていた。
具体的に言えば、やはり『ダンジョンマスター』の身体に対する攻撃の威力、だろうか。
これまでは最低限の破壊、例えば人体に於ける急所である心臓や肺、動作に不可欠な骨や腱と言った部位のみを貫き、破壊していたのだが、それからは胸部に対しては向こう側が見える程の大穴を開け、手足は切り飛ばして骨はわざわざ叩き潰して折り砕く、と言った具合に、より意識を傾けざるを得ない様な振る舞いを見せる様になっていたのだ。
流石に、思考を司る頭部に関しては、丸ごと喪ったり、またある程度以上の破壊に晒されると『ダンジョンマスター』であっても不都合な『何か』があるらしく、頭部や首に関しての攻撃は比較的回避行動を取る傾向が強く出ていた為か、未だに斬首に至ってはいない。
が、流石にそうするだけで倒せてしまう、殺しきれてしまう、と言った様な事態にはならないだろう、との認識は彼らの中でも共通のモノであったので、これまでは積極的に狙いに行ってはいなかった。
しかし、そうしてまで頑なに回避を選択する、防御を徹底する、と言う事はそれなりに意味が在るのでは?との読みから、時たまアレスやヒギンズが狙ってみたり、タチアナやナタリアが短剣の投擲や弓での狙撃を試みたり、とと言った具合に様々な試みを行ってみた。
とは言え、その結果が先に述べた通りに『なんか頭部丸ごと落とされるのは避けたがってる』のと同時に『矢だとか短剣程度であれば直撃して突き刺さってもあんまり気にしていないらしい』との事である。
…………正直な話、タチアナが隙を窺ってから放った投擲の短剣が『ダンジョンマスター』の額に突き立った時、グラリと身体も揺れたので一同の胸中に『殺ったか!?』との感想が浮かんだのは、否定出来ない。
が、その次の瞬間には体制を立て直し、額から短剣を生やした状態のままで魔法を放ちながら接近してくる、との悪夢に見そうな光景を展開してくれた為に、ナタリア共々何度か試した程度で止めてしまっていたのだが。
そんな、頭部へと狙いを定めた攻撃。
それを、ヒギンズは敢えて今意図的に行っていた。
そうした方が回避行動時により相手を厭う様な雰囲気が出るから。
その後は、大抵決まって狙って来た相手に対して強く仕留めようとする行動に出るから。
そうやって強い敵意を引き付けておけば、後は多分潜んでいるリーダーがどうにかしてくれるハズだから。
自身の役割を徹底する姿勢と、リーダーであるアレスの企みに対する強い信頼感。
これまで共に潜って来た死線の数々が、会話等無くともそれだけの判断を下せるだけの情報を、彼へと与える事となっていたのだ。
そうして、目の前の二人に対して、強く敵愾心を抱かされる羽目になった『ダンジョンマスター』。
何かしらの企みが在るのだろう、とは彼?(彼女?)も理解はしているが、だからと言ってソレがどんなモノであれ、どんな類いのモノであれ、自分に対して何かしらが出来る、とはとても思えないし、何より目の前の二人に意識が引き寄せられ過ぎてしまっている為に、頭の片隅では『ちょっと不味いかなぁ〜?』とは思っているが、思っているだけでしか無い。
何せ、自身と同じ存在であるか、もしくは『例の連中』でもない限り、自分達をどうこう出来るハズも無い。
だから、何をされたとしても大した事は出来ないだろうし、出来たとしても自分には関係無い。
なんて自信が傲りとなり、傲りは盲信へと繋がり、やがて油断へと結び付いて行く。
それが、絶対に倒せるハズの相手に対して未だに一人たりとも落とせていない、との状況への焦りと苛立ちが加われば尚の事意識は目の前の事のみに集中して行く事となり、殺意も巧みに隠し切り、殺気や敵意すらも感じさせずに行動していたアレスがヒッソリと背後へと回り込み、その首を刎ね飛ばして見せるに至った訳なのである。
第三者から見れば、攻撃に転じようとしていた『ダンジョンマスター』の首が唐突に斬り落とされ、その背後からそれまで無かったはずの姿が顕わになる、と言った、混乱必須な光景。
現に、特に話を聞いていなかったタチアナとナタリアは唐突過ぎる展開に仰天して固まっているし、何となくしない方が良さそうだ、と感じて背面側には回らない様にしていた従魔達も目と口を開いて驚愕していたし、話を聞いてはいたセレンも、事前に準備していた術式を崩壊させる事は無かったものの、突然の事態に展開が滞る事となっていた。
そんな仲間達の動揺を尻目に、斬り落とした首を身体から蹴り離し、倒れた身体の関節部に短剣を投擲して突き立て、破壊して行くアレス。
最悪、首を落とされた事で身体からも脱力して地に伏せているとは言え、ここから立ち上がって反撃してくる可能性も否定は出来ない、と認識しての行動であったがソレは結果的にとは言え、無駄になる事は無かった。
…………いや、より正確に言うのであれば、そうした可能性を考慮し、アレス本人がセレンの封印術が完成するまで身体の近くで待機していた、との状況が、彼を窮地へと陥れる事となってしまっていた。
何せ、一応警戒を解いてはいなかったとは言え、まさか彼も首無し死体、と評して然るべき状態のソレが、関節部すらも破壊されて地面へと縫い付けられてしまっているにも関わらず、なんの予兆も無しに跳ね起きて自身へと向けて攻撃を放ってくる、だなんて事は予想しきれなかったのだから。
その為、半ば反射で動けた初撃に対する防御こそは間に合ったものの、かなり無理矢理な体制によるモノであった為に、身体の軸を大きく揺さぶられる形となってしまう。
そんな状況であった為に、続く二撃目・三撃目とどうにか凌いで行くが、徐々に体制を大きく崩される事となり、回避も覚束無くなってゆく。
超が付く程の密着状態であるが故に、仲間達も割って入る事も援護する事も出来ず、ただただアレスが猛攻に晒される姿を見ているしか出来ずにいた。
時折掠める攻撃に、アレスが苦鳴を漏らしながらもどうにか体制を整えようと足掻くものの、彼を以てしても振り払う事も出来ない程の威力と勢いの乗った連撃を前にしてはそれらの試みは無為に終わり、結局の処として彼の体勢は大きく崩される事となり、その隙を穿く様にして放たれた一撃が、彼の元へと容赦無く到達するのであった……。
アレスの運命や如何に……?