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『追放者達』、苦戦する

 


 アレスを筆頭とした『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達による、『ダンジョンマスター』との戦闘が始まってかは幾許かの時間が過ぎた。


 その間、彼らは幾度も通常であれば致命傷となっていたであろう攻撃を加え、その上で総合的なダメージであれば何時ぞやの(ドラゴン)を完全に死に至らしめるであろう程には与える事に成功していた。



 …………が、それだけの攻撃を受け、ダメージを蓄積させていても、彼らの眼前に在る『ダンジョンマスター』は未だに健在であった。


 いや、外見的な状態だけを言うのであれば、間違い無く『健在』等と言える様なモノでは無いのだが、未だに両の足にて地面を踏み締め、自立している以上はそう表現するべき状態に在る、とも言えるだろう。



 それ程に、『ダンジョンマスター』の現在の外見は酷い状態となっていた。


 背中には大きな傷が複数刻み込まれており、纏っている白衣であった襤褸切れを真っ赤に染め上げている。



 それだけでなく、心臓や肺と言った重要な臓器が本来ならば収まっているであろう場所には幾つもの大穴が開けられて向こう側が見えている状態であるし、頭部や腹部にも複数の矢や魔法が着弾した形跡が見て取れた。


 唯一、四肢のみが不自然なまでにその形状を最初のままで保っているが、ソレは『ダンジョンマスター』側が大きな損傷を受けない様に立ち回ったり、受けたとしても比較的手早く修復してしまうから、だ。



 どうやら、何かしらのカラクリによって不死身と化しているらしい『ダンジョンマスター』であるが、攻撃手段そのモノにはあまり長じていなかったのか、自身の四肢による攻撃か、もしくはそこまで高位では無い魔法によるモノばかりが多く見受けられた。


 その為、なのかは不明だが、主な攻撃手段である腕や、移動手段として必要な脚に関しては不死身であっても気を使わなくてはならないらしく、他の箇所の様に損傷を何時までも治さずに放置したままにしておく、と言った事はしないで即座に治していたのだ。



 それに気付いたアレス達は、気付けなかった序盤とは異なり、中盤以降は相手の手足に狙いを絞って攻撃する体制に移行した。


 自身に攻撃が命中する事を厭わず進み、距離を詰め、当たったとしてもソレを無視して避けえない距離にてこちらの攻撃を当てて行く、と言ったカウンター主軸のスーサイド戦法を取っていた『ダンジョンマスター』にとっては、自身の攻撃方法や移動手段を潰されると同時に、手足を狙えば良い、との事からそれまでよりも間合いを広く取られ始めた事により、それまでのスーサイドカウンターを当てる事が難しくなった為に、雰囲気や佇まい、そして未だにハッキリとは分からない顔立ちからも苛立ちが滲み始めている様に見えた。



 …………しかし、それは彼ら『追放者達』にとっても同じ様な状態となっていた。


 何せ、彼らとしても、幾ら攻撃を当てたとしても、ソレがまともに効いている様子が無いからだ。



 確かに、彼らは今の処大きな負傷を負う様な事態には、陥る事無く過ごせていた。


 それに、敵対している『ダンジョンマスター』側の戦闘技能自体が、どちらかと言うと攻撃方面に全振りしている気配が有り、防御方面は疎かになっている風にも見て取れる為に、攻撃を当てる事自体は彼らにとってはそこまで難しい事では無かった。



 が、そうして攻撃を当て続けているとは言え、ソレが効いている素振りが全く見えず、堪えている様子も欠片も無い。


 流石にそれは攻め手としては精神的に無駄骨を折らされている様な心持ちになってくる事柄であるし、何より攻撃するにしてもある程度のスタミナと精神力的なモノも削られて行く事になるのは間違いない。



 おまけに、攻撃手段には乏しいものの、その技量自体は低い訳では無く、寧ろかなりの練度にあると言える。


 それらの技術を、徒手空拳とは言え自傷前提で振るわれるだけでなく、いざとなったら攻撃に合わせて切断された腕や脚を、タイムラグ無しに再生させて結果的に防御を擦り抜けて直撃させに来る、と言った様な戦法まで使って来るのだから、直接刃を向けている前衛三人にとっては中々に油断のならない状況が続いている、と言えるだろう。



 しかも、先に述べた通りに相手は何かしらのカラクリにて不死身めいた耐久性を実現しているのに対して、常人の域を脱しつつある上に装備で全身を固めているとは言え、彼らはただの生身の人間に過ぎない。


 今の処は致命的な攻撃を受けずに済んではいるものの、回避するのにも完全回避を心掛けなければならない為に気を使うし、下手に攻撃を受けてしまえばどうなるか分からない、回復出来るのか蘇生すらも不可能なのかも分からない、と言った状況は彼らの精神に大きな負担を強いる事にも繋がっていた。



 その為に、現状では互角にも見える両者の戦いに於いて、その均衡は薄氷の上に成り立っている危ういモノであり、一度崩されてしまえば彼らにとっては大きく不利な状況へと追い込まれるであろう事が、容易く予想されていたのだ。


 当然、そんな事を面に出す程彼らは未熟では無いし、時折前衛のポジションを従魔達に代わって貰う事で適宜小休止を取ったりもしていた為にまだどうにか出来そうではあったが、それでもそれでも彼らの精神に大きな負担となって伸し掛かっている事は間違いでは無く、事態は緊迫していると言っても良いだろう。




「…………それで、どうするのだ?

 此度の状況、何かしら引っくり返す手立てに当ては在るのであろう?

 なれば、早目にその札切って貰えると有難いのであるが?」




 容易くその状況を打開出来る手段に心当たりが在る訳でも無いらしいガリアンが、アレスの横へと下がりながら小声で問い掛けて来る。


 幾度も攻撃を受け止めている鎧と盾は、名工たるドヴェルグの手による逸品であるが故に傷一つ付いてはいないが、ソレを扱い、攻撃を受け止める中身たるガリアンにまで伝わるダメージや衝撃までは完全に防ぐ事は出来ていなかったらしく、口の端から血泡を零しながらの問い掛けであった。



 そんなガリアンへの治療を兼ねながら、近付いて来たセレンが視線で同様に問い掛ける。


 こうして負傷したメンバーは一旦下がって治療を受ける事も出来ているが、彼女の莫大な魔力とて無限では無いのだから、何時かは限界が来る。



 故に、その限界が来て役割を果たせなくなる前に事態を動かせるのか、皆が無事なままで事を終える事が出来る見立てであるのか、ソレが回復役としては非常に気懸かりな状態となっている、と言う事なのだろう。


 直接問い掛けて来ないのは、敵方にその問いを聞かれてこちらの状況を推察する材料を与える事になる可能性を排除したいから、と言った処か。




「…………確か、セレンが使える術式の中に、封印術の類いとかあったよな?」



「…………えぇ、ありはしますが、ソレはあくまでも儀式魔法に類するモノですので、戦闘中に即時展開してどうこう、と言った使い方は難しいですよ?

 少なくとも、暫くの間相手を動かなくさせる事は最低限必要になりますが……?」



「なら、多分どうにかなる。

 俺が、暫く動けなくするから、その間にその術式で()()()()()()()()()()()()()を縛り付けて離脱する、って流れで良いな。

 どうせ、あの阿呆に例のブツ流したのはアイツなんだろうし、何したかったのか、に関しては『ダンジョンマスター』の考えを読もうとするだけ無駄なんだ。

 このまま、見たままを報告するしか無いだろうよ」




 そう言いながら口の端を持ち上げて見せるアレスの表情を見て、反論の類いを飲み込んで行くガリアンとセレン。


 一番危険で、かつ様々な面から見ても、面倒だ、と言える事は間違い無いであろう作業を自らやる、と言っているのだから、任せてしまう他無いのであろう、との半ば諦めに近い感情を見なかった事にしながら、それぞれの役割を果たすべく再び『ダンジョンマスター』へと向けて視線を投げ掛けるのであった……。




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