『追放者達』、現場に到着する
冒険者ギルドを後にしたアレス達は、程無くしてアルゴーの外壁を抜け、三日振りに未だ雪の残る野外へと足を踏み入れる。
普段であれば、冬季であっても十分に蓄えを作る事の出来なかった駆け出しや低位の冒険者達が行き交っていた道も、ギルドが閉鎖と調査を公表しているからか、閑散として人気の無いモノとなっていた。
都市のインフラとしても頻繁に使われる場所でもあった為か、草木を払って地面を固めただけの道、との事でも無く、どうやら石畳が敷かれているらしく、下手な街道よりも手間と費用を掛けているのが見て取れた。
が、ソレも今では殆どが雪の下に埋まってしまっており、その恩恵に預かる事も、目にして実感する事も出来ていないアレスを除いた一行は、彼からの説明を聞きながら橇でサクッとその道中を省略してしまう。
「…………そんな訳で、こうして今到着したんだけど、特に変わった感じはしないねぇ……」
「ふむ?極々普通の、良く在る遺跡型のダンジョン、であるな?」
「内部から感じられる魔力もそこまで強くは無いですし、そう強い魔物も出なさそうですね……」
「雰囲気的に見ると、アタシ単独でもどうにかなりそうな感じね。
本当に、ここで合ってるの?」
「でも、ギルドでのリーダーの反応を視る限りだと、間違えるハズが無いのです。
なら、やっぱりここで合ってはいるハズなのです?」
「何故に最後疑問形?
まぁ、取り敢えずここが例の『ミクトラン遺構』で間違いは無いよ。
道にも地形にもちゃんと覚えが在るし、ここの形も変わってないから合ってるよ」
「でも、出るハズの無いブツが出てるんでしょ?」
「ソレが何で出るのか、を調べるのが俺達のお仕事でしょうに」
彼らが到着したのは、パッと見た限りで形容するのであれば、『崩れかけた石造りの廃墟』といった風に見えるモノ。
自然に倒壊し雨風によって風化して自然に還るのを待つのみの廃墟、といった風情の外観をしているのだが、これでも立派にダンジョンだ。
外から見た限りでは、精々が建物が一軒二軒程度固まって倒壊している程度、に見えるが、その実として内部はその十数倍は下らない空間が広がっているし、当然の様に内部で魔物も湧いて来る。
更に言えば、外から廃墟を破壊しようとしても欠片も壊す事は出来ないし、内側から穴をぶち開けて新たな出入り口を作る、なんて試みもその尽くが失敗に終わっている。
とは言え、ソレも遥か昔に行われた調査と試行錯誤の話。
今となっては、中で出てくる魔物は弱いし設置される罠は簡易的なモノばかり、その上で産出される宝物や回収出来る魔石はそこそこ、という事で、すっかり鉱山として使い倒されるのが慣例となっており、当然の様に内部の地図は出回っているし、何なら迷宮核の位置すら判明していたりもする。
そんな、調査され尽くした上に特段筆に上る様なモノが出る訳でも無い、と思われていたダンジョンから唐突に禁忌のアイテムが転がり出て来たのが判明した、というのが今回の件の流れな訳なのだが、こうして現場に到着した彼らには些か信じられずにいた。
やはり、その手のアイテムが出る場所には、それなりの雰囲気というか空気感というか、そういった『ヤバい感じ』を受けるナニカが在るのが定番なのだ。
そういった、明ら様に『ヤバい』場所に自ら飛び込んで行くのが冒険者という連中なのだが、それはそれとして何も分からない、無いハズなのに有る、というシチュエーションはかなり躊躇ったりする。
何せ、ヤバい何かが在る、と分かっているのであれば警戒や準備をすれば良いだけだが、前情報全く無しで準備が不可能な状態や、警戒の仕様が無い状況は即座に全滅する可能性が否定出来なくなる為に、自殺願望を持たない冒険者はそう言った状況を酷く嫌う。
故に、彼らとしてもどうしたモノか、と頭を悩ませている訳なのだが、一旦仕事として依頼を受けてしまっている以上、何もしないで引き上げる、といった事は出来ない。
……流石に、『Sランク』にまで至っていながら、鉱山として認定されているダンジョン内部の調査の一つもまともに熟せませんでした、なんて言い訳は、どんな事情が有ったとしても早々通じるモノでは無い、と言う事だ。
そんな訳で、各自で装備品の確認や追加で魔力庫へと持っておく道具等の確認を始める。
流石に今となっては無いだろうし、当時は状況が超が付く程に特殊であった為に引っ掛かる羽目になったが、転移トラップによってバラバラに分断される、なんて事態も経験している以上、必要に為りそうなモノは各自最低限持っておく、ソレが彼らの中での一つのルールと化していた。
「…………取り敢えず、俺はスキルが在るから良いとして、他の皆は六フィルト棒持っておけよ〜。
でないと、そこの脳筋みたいに自分で踏み抜いて漢解除する羽目になるからな〜」
「なに、意外とどうにかなるモノであるぞ?
当方が即死するレベルの罠、となるとほぼ最上級の威力特化型が定番であるが、そんなモノ相手では六フィルト離れていた所で大した違いは無いのではあるまいか?
少なくとも、三メルト程欲しいのでは?」
「少なくとも、あんただから死なない、ってレベルの威力を食らったらアタシは骨の欠片も残らないんだけど?
あっ、閃光玉と煙幕玉はこっちに貰っても良い?多分、逃げ切る、って事考えると手持ちだけだと足りないから」
「なら、こっちのを持っておくかい?
オジサン、ちゃんと棒も持ってるし、一応欠損手前位までならどうにかなるポーションも何本か持ってるから、ガリアン君も一本持っておくと良いよぉ。
因みに、さっき渡した煙幕玉と閃光玉はオジサンのお手製だから、使い処を間違えると自爆しかねない程度の性能だって事は把握しておいてねぇ。
まぁ、使われたら一発で分かるから、直ぐに迎えに行くつもりだけど、ね?」
「あら、お熱いですねぇ。
でしたら、こちらの簡易結界等も持たせて上げた方が良いかと。
何が有ったとしても、生きてさえいれば跡も残さず治しますし、例え亡くなっていても遺体さえ在れば蘇生させられますので、取り敢えず私と合流する事を最優先して下さいね?
それと、私もその棒?は不要かと。
例え分断されたとしても、必ず助けに合流して下さると信じておりますので。ね?」
「おーおー、そっちもアツアツで羨ましいのです!
と、そっちは置いておくとして、もう皆分配のリクエストは無いのです?
なら、ボクは食糧とポーションを多めに貰って行くのですよ。
ボクの場合、この子達が傷付いて戦えなくなった、って場面が一番困るし『詰み』に近い状況になりうるので、それだけは阻止しないとダメなのですからね〜。
……………まぁ、この子達とも分断された場合、本当に何も出来なくなるのですけどねぇ〜……」
「その辺は、ほら。
俺達から武具の類いを無理矢理引っ剥がして云々、って仮定とほぼ同意義の話な訳なんだから、そんなに気にする事でも無いんじゃないか?
まぁ、実際に起きたら死ねる、って点では激しく同意せざるを得ないんだが。
…………って、言ってる内に準備は終わったみたいだな?なら、そろそろ突入するから覚悟を決めておけ。
何も無ければ、それで良い。
偶然出ただけって事なら、それでも良い。
けど、何か在るのなら、それに対処しなくちゃならないのは俺達なんだからな」
そんな彼の言葉により、それまでの和気藹々とした空気を吹き飛ばし、表情を引き締める一行。
雰囲気が引き締まった事を確認したアレスは、満足そうに一つ頷いて見せると、普段の隊列を組んでから目の前に広がる『ミクトラン遺構』へと足を踏み入れて行くのであった……。