『追放者達』、報復(?)する
それぞれ、酒屋と本屋との二手に分かれていたアレス達は、酒屋にて合流を果たす事となる。
が、気分を悪くしていたガリアンを介抱する、との名目にて行われたハズのソレは、二人による一足先の『お楽しみ』が目撃された事によってジットリとした視線が伴うモノとなり、二人を大いに慌てさせる事となった。
その後、アレスとガリアンの二人は他のメンバー達が購入するモノを選ぶ間雪の残る外にて立たされる羽目になるだけでなく、辞退したヒギンズを除く女性陣が購入する予定となっていた商品の分の代金を自腹で支払う事が罰として下される。
予定されていたカフェは思ったよりも疲れていないから、と予定を飛ばされて食べ歩きへとシフトしたのだが、そちらは適当なベンチやテーブルを占拠しての宴会へと発展し、その際に消費されたのは二人が購入していた酒類となっていた。
そうこうしている内に、一日目が終了。
続く二日目は自由行動となり、女性陣が予めアレスから場所を聞き出していたカフェへと向かったり、男性陣は昼間から酒盛りしたり夜はカジノへと繰り出したり、帰ってからそれぞれのパートナーと…………とそれぞれ休暇を楽しんで過ごしていた。
そして、アルゴーへと到着してから三日目となった日の朝。
彼らの姿は、完全武装の状態にて冒険者ギルドの前へと存在していた。
別段、ここに来なくてはならない、という理由は無い。
既にギルドマスターであるマレンコとの依頼契約は締結しているし、現地である『ミクトラン遺構』に関してはアレスが熟知している為に、内部構造等の情報を得なくてはならない、という訳でも無いし、補給しなくてはならない物資も特には無い。
が、彼らがこうして姿を見せる事で、本気で戦う際の姿を見せる事で、容易く吹き飛ばせる残滓、というモノも在る。
未だに蔓延る、彼を侮る噂、という下らないモノを。
確かに、アレスは噂は噂に過ぎない、との事を決闘を通して明らかにした実力の一端によって周囲へと示した。
が、だからといって元々噂を信じていた連中全てが即座に彼へと評価を改めるか、と言われれば首を横に振らざるを得ないし、ソレをギルドが訂正する様な情報を流した所で変わるモノでも無い。
そういった連中は、得てして信じたいモノしか信じない。
故に、殆どの連中は『実は『アスランが弱かった』だけで別に『アレスが強かった』訳では無い、そうに決まっている』との、自分達にとって都合の良い妄想のみを信じ込む事となっていたのだ。
その為、と言う訳でも無いのだろうが、女性陣のみで出掛けていた時に頻繁に誘い掛けられたのだそうだ。
あんなヤツの下に付いていないで俺達と来た方がイロイロと『良い思い』をさせてやるぞ、と、まるで版で押したかの様に、テンプレ染みたセリフと共に、何度も。
最初こそ、適当にあしらっていた三人だったが、下卑た視線や言葉を散々に投げ付けられ、挙げ句の果てには直接手を出されそうになった為にそういった連中を撃滅しつつ、お茶を続ける事になったのだそうだ。
とは言え、基本的に先の決闘を仕掛けて来たアスランよりも弱く、口が回るだけの連中であったが為にセレンは勿論、ほぼ非戦闘要員であるナタリア相手であっても一方的に叩きのめされる程度でしかなかったが、やはり鬱陶しいモノは鬱陶しかったらしく、夜になって合流した男性陣に対してのアレコレによってその不満の大きさは示された、と言えるだろう。
故に、現地に到着してからすれば良い臨戦態勢を、既に寄る意味すら無くなっている冒険者ギルドへと故意的に立ち寄って、言い方は悪いが『わざと周囲に見せびらかす』事となっている、という訳なのだ。
これには、二つの意味が在る。
一つは、彼らが使っている装備の格を、周囲へと知らしめる、という意味。
基本的に、冒険者は自身が使いこなせない装備は幾ら手に入ったとしても使わない。
何せ、実戦でソレを手にしていた所で自身に扱えず、思った様に動く事すら出来ず、仲間との連携が崩れてあっと言う間に魔物の餌へと仲間諸共成り果てる、というのがオチだからだ。
尤も、外見的な見栄としてぶら下げていたり背負っていたりする事も皆無では無いのだが、そこら辺は実際に装備を見てみれば嫌でも理解出来る。
何せ、タダの飾りとそうでないモノとでは、使い込み具合で露骨に差が出るのだから。
そして、二つ目の意味だが、それは彼らの実力を周囲へと知らしめる事、だ。
一定以上の実力を持つ存在は、そこに在るだけである種の『圧力』の様なモノを放つ。
ソレを抑える事はそこまで難しい事では無いし、『追放者達』のメンバー達は基本的に周囲への迷惑等を鑑みて可能な限り抑える様にもしている。
が、普段はそうして抑えているモノを一気に解放し、意図的に周囲へと振りまく事で、周囲に対してまるで物理的に上から押さえ付けるられているかの様な錯覚を覚えさせる事すら可能となっているのだ。
そこに並大抵の冒険者では手が出ないどころか、下手をすれば一生目の当たりにする事すら不可能なレベルの装備で全身を固め、更に意識を臨戦態勢時のソレへとシフトさせる事で威圧感を倍増させ、否応無しに実力を理解させる事が出来る、という訳なのだ。
そうして、威圧感マシマシでギルドへと姿を現したアレス達『追放者達』一行を目の当たりにした冒険者達は、固唾を呑んで彼らの一挙手一投足に注目する。
自分達が、彼らのリーダーであるアレスを馬鹿にし、見下していた事実を認識しているが故に、彼らの動向が気になって仕方が無いのも、勿論有る。
が、常に微笑みを浮かべていたセレンが口元を引き締め、厳ついながらも親しみ易さを感じさせていたガリアンが空気を硬くし、タチアナが周囲へと油断なく視線を配るだけでなく魔力を巡らせ、ナタリアが連れていなかった従魔達を引き連れて歩き、ヒギンズは普段のソレと変わった様子が無い事が余計に恐ろしく思われる。
そして、当のリーダーたるアレスは、視界に納めていればまるで首筋に刃を添えられてしまっている様な緊張感を押し付けて来るにも関わらず、一度視界から逸れてしまえば途端にその影響が欠片も感じられなくなる為に、一部の冒険者達、特に斥候系や遊撃系の冒険者達の背筋に、その卓越し過ぎた技能に対する激烈なまでの悪寒を生じさせる事となった。
流石に、戦場でも無いのにそんな威圧を振り撒いていては元実力派としては気が付かないハズも無く、奥の執務室からギルドマスターであるマレンコが何事かと顔を出す。
普段であれば、馬鹿をやらかした冒険者を周囲の者が囃し立てたり、依頼の取り合いにて一定以上の騒がしさが常となっているハズのギルドが静まり返っている異様な光景に、片方のみ残されていた視線が一瞬鋭いモノとなる。
だが、その騒ぎの中心が誰なのか、どうやってそんな事態を引き起こしたのか、を一目で理解すると、仕方の無い連中だ、とでも言いたげな表情を浮かべると同時に、口元を苦虫を噛み潰した様に歪めてしまう。
それは、自分達の問題は自分達で解決する、との彼らの姿勢に対する感慨と同時に、自分自身が『どうにかする』と一度口にした事柄を本人達に解決させる羽目になった、と結果的に契約を反故にする様な事態となった事への悔恨からくる、複雑怪奇な感情をそのままに表すモノとなっていた。
そんなマレンコの表情を目の当たりにし、ギルドの中央にて特に何をするでも無く仁王立ちとなっていた『追放者達』は、一様にニヤリと口元を歪めると、そのまま何事も無かったかの様に踵を返して出入り口へと向かって足を進めて行く。
どうやら、彼の表情を確認した事によりそれまで溜まっていた鬱憤の幾らかを流し、溜飲を下す事に成功したらしくそれまで振り撒いていた威圧を幾分か緩めると、依頼の地である『ミクトラン遺構』へと向かって移動を開始するのであった……。