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『追放者達』、散策する・5

 


「落ち着いたか?」



「………うむ、済まぬな……」




 リクエストにより書店を訪れたは良いものの、その鋭い五感によって書架特有の匂いに当てられてしまったガリアン。


 そんな彼を避難させつつ、次の目的地として想定していた酒屋へとアレスは仲間達から先行する形で来店を果たしていた。



 匂い自体は強烈なモノであり、かつ一際感覚の鋭いフルフェイス型であったが為に当てられる事となったらしいガリアンだったが、流石に元から離れてしまえば影響は薄くなる上に、別の匂いが充満している場所であれば尚の事早く影響も抜けるらしく、アレスからの問い掛けにも返答する事が出来ていた。


 とは言え、やはりまだ気分は良く無いらしく、その声には普段の力強さを感じ取る事が出来ずにいた。



 普段はピンッ!と立っている耳や尻尾が垂れ下がり、体毛に覆われて見えないはずの顔色も、心なしか青褪めている様にすら見える。


 そんな彼の背中を擦りながらアイテムボックスから水袋を取り出し、カップに注いで差し出すアレス。




「…………しかし、お前さんにそこまで致命的に苦手なモノが在る、だなんて初めて知ったな。

 大概の事は、涼しい顔して熟してるイメージがあったから尚の事意外だったよ」



「……それは、過大評価、と言うものよ。

 当方とて、一人の人間に過ぎぬ。

 故に、この様に苦手、と言うよりも身体の受け付けぬモノは当然在るし、戦闘一つ取ったとしても毎回ヒヤヒヤしながら熟してるのであるぞ?」



「へぇ?そいつは、初耳だな。

 毎回、どっしり構えて攻撃受け止めているモノだから、その辺はドンと来い!的な思考になってるモノだとばかり思ってたよ」



「ふっ、寧ろ当方以外に攻撃が逸れぬか、スキルの発動は間に合うのか、遊撃として当方が守ってやれぬそなたがまだ無事で居てくれるのか、不安な事や心配事で一杯なのだがな」



「そこは、攻撃を受け止めきれるのか、防御を貫かれる程の攻撃が来ないのか、を心配するべき場面じゃないのか?」



「そう言った不安が無い、とは言わぬが、稀代の名工であるドヴェルグ師による作品である盾と鎧を身に着けて、その上で盾職としてはそれなりの腕前である、との自負が加われば、流石にそんな事は思ってはおれぬさ。

 まぁ、最悪防げなかったとしても、その時は当方が死ぬだけであるからな。

 余波は後ろに通しはせぬし、蘇生も出来るのであるから、どうにでも出来はするであろう?」



「いや、流石に蘇生ありきでの戦略は些か暴論に過ぎないか?

 おまけに、その立ち回りと思考は完全に肉壁のソレだぞ?流石にちと危うすぎないか?」



「だが、当方の様な盾職の立ち位置としては、ほぼ間違ってはおらぬであろう?

 そも、メンバーの中で当方のみ、特別な何か、を有している訳では無い故な。

 唯一交代が可能、との意味合いに於いては、運用方法として間違いではあるまい?」



「………………まぁ、確かに他の面々がオンリーワンな性能し過ぎてる、ってのは否定しないし、突出してはいるが特別な何かを持っている訳でも無い、って事も悪いが否定はしない。

 ……しないけど、だからってお前さんなら他の連中でも良い、って訳では絶対に無いからな?

 今更、他の連中に背中の守りを任せるつもりは、俺には無いぞ?」



「……ふっ、確かに、確かに。

 これは、一本取られた、と言うヤツであろうな。

 背中を預けられる程の信頼は、誰にでも寄せられるモノでは無い。

 そう言った意味合いに於いては、確かに当方は既に替えの利かない立場に立っている、と言えるであろうな!」



「そうそう。

 それに、お前さんに抜けられると、連鎖的にウチの優秀な運搬役にしてお前さんの恋人殿が抜けちゃう可能性も在るからな。

 そうなられると、もう俺達『追放者達(アウトレイジ)』はガタガタにならざるを得ないんだから、そこの処理解して言ってるんだよな?んん??」




 若干ふざけた口調ながらも、言葉の端々からは本音で語っている事が、彼と面識の在る人間であれば容易に察する事が出来た。


 ソレが、ガリアンの琴線に触れたのか、それとも話の流れが照れ臭かったのかは本人にしか分からないが、それまでアレスへと向けていた視線を真逆に切ると、手にしていたカップの中身を勢い良く飲み干してしまう。




「…………ふぅ。

 済まなかったな、もう大分落ち着いたから、大丈夫である」



「おう。

 良くなったのなら、何よりだ。

 しかし、お前さん一応は元貴族だろう?

 なのに書架の匂いにあれだけ当てられる、だなんて、実家でアレコレしてた時とかどうやって対処してたんだ?」



「あぁ、確かに貴族としての作法であるとか、家としての仕来りだとかは口伝のみでは伝えられ無いモノが多く、やはり書物による勉学は基本であったよ。

 当然、そう言った書物を仕舞い込む書庫の類いも、実家には有った故な」



「なら、どうやって?

 一々、お手伝いさんにでも頼んで持ってきて貰ったとか?」



「まさか!

 一応、立場としては貴族家とは言え、そこまで『お大尽様』と呼べる程の富豪では無かった故な。

 数名程度であれば、体面を保つ為にも雇ってはいたが、そうやって小間使い出来る程に大勢雇っていた訳でも無いぞ?」



「なら、どうしてたんだ?

 まさか、毎回こんな事になっていた、って訳でも無いんだろう?」



「当然であろう?

 と言うよりも、そもそもの話をすれば実家の書庫ではあそこまで籠もった匂いはしていなかったのである。

 こちらでは、定期的に虫干しやら陰干しやらはしないのであるか?」



「ふぅん?

 陰干し、って事は日に直接当てないで外に出して干す、って事か?

 だが、虫干し、ってヤツはなんぞや?」



「うむ、陰干しの方は大体その様なモノだ。

 本そのモノの湿気を取り除くのを目的としている、のだそうであるよ。

 それと、当方の実家では、との枕詞が付くが、虫干しとは本そのモノを燻す事を指していたな」



「………………本を?燻す?」



「うむ。

 短時間ながら、囲炉裏等の上部に本を広げた状態で吊るし、煙を当てるのであるよ。

 そうすると、本に付いていた虫は煙を厭って離れて行くだけでなく、本そのモノの湿気も抜けてその上微かに香りも付けられる故に、書庫特有の饐えた様な匂いが出るのを抑えられた、のであろうな。

 まぁ、今考えれば、と言った程度のアレであるが」



「…………ほ〜ん?

 だから、実家では大丈夫だった、って訳か?

 まぁ、その辺はもう良いや。

 それで、何にするよ?

 取り敢えず、エール樽で買って外の雪にでも暫く埋めて冷やしておくとして、どれにする?一応、試飲の類いも出来るみたいだけど?」



「ふむ?

 では、こちらの蒸溜酒でも試してみるとするか。

 こちらは……ラベルによると、随分と強い酒であるみたいだな?セレン嬢が好みそうだが、果たして?」



「まぁ、その辺は本人が合流してからで良いだろうさ。

 取り敢えず、コレとコレ、あとコレも試し呑みしてから決めるとして、他には……」



「うむ?

 こちらの棚は、葡萄酒の類いであるか?

 なら、以前山人族(ドワーフ)の国であるガンダルヴァで奨められた、葡萄の蒸溜酒も……あ、あった。

 では、当方はこちらの試飲を頼みたいのである。

 無論、購入を前提として、であるよ」




 そうして試飲を重ね、コレは良い、コレは個人的にはあんまり……と言った感想や、こういったモノにはこんな感じの肴が合うだろう、いや自分的にはこう言うヤツを合わせたいんだが……と言った議論が二人の間で盛り上がる。



 結果的に、二人で消費する分として幾つかの樽と何本もの瓶を購入する事となり、本屋から他のメンバーが出てくるまで二人で幾本かの瓶が空けられる事となるのであった。




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