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『追放者達』、散策する・4

 


「…………ねぇ、本当に、あの人があそこの商品全部作ってるのよね?嘘じゃなく?」



「何度も言うけど、本当にヴィーネが全部作って売ってるんだよ。

 見た目からは想像も出来ないだろうけど、あの人の手先の器用さは異常なレベルだから」



「それでいて、確りと戦闘の類いもこなせるのであろう?

 大方、あそこで盗みを働いた場合、あの御人に追い掛けられる羽目になると見た。

 なれば、尋常では無い恐怖を体験する事となるのではないか?」



「あぁ、それはオジサンも思ったよ。

 多分だけど、あの店があんな業態でやって行けてるのって、既にあの店に対して悪さをする様な連中の事を吊るし上げた後だからなんじゃないかなぁ?

 だから、あの店に関して言えば周囲よりも治安が良い、無防備に見える商売が出来ている、って事なんじゃないのかい?」



「まぁ、大体正解だな。

 正確に言えば、一度やらかした程度であればまだ更正の見込み有り、として脅される程度で済ませてくれるが、二度目からは本気で始末するつもりで襲ってくるから、な。

 見せしめとして、近くの空き地とかに死体が吊るされていたりする事も少なくは無かったぞ?」



「それ程、なのですね。

 確かに、尋常ならざる空気を纏っておられる方だとは思いましたが、そこまでだとは……」



「その辺も、まぁ否定は出来ないな。

 何せ、ヴィーネ本人は元『Aランク』の冒険者で、しかも周囲から『Sランク』目前だと目されてた上に推薦までされてたみたいだからな。

 尤も、本人はソレ蹴飛ばして引退して現在に至ってる訳なんだが」



「…………え、えぇ〜……?

『Sランク』に推薦までされてた人が、何で引退なんかしてお店をやってるんです……?

 もしかして、怪我か何かでもして引退を余儀無くされて、とか言う理由でも有ったのですか?」



「いや?

 ただ単に、あの店の開店資金が貯まったから引退した、って事らしいぞ?

 本人的には、事実上引退したとしても何かしら戦闘系での関わりを死ぬまで持たせられる『Sランク』には、成れたとしても成るつもりは無かった、って話だし、妥当と言えば妥当なんじゃないか?」



「「「「「…………あ〜……」」」」」




 アレスの説明に、納得の声が重なって行く。


 そこに落胆や意外性を感じている色は無く、寧ろ納得の感情が強く現れていた。



 実質的な冒険者の最高峰である『Sランク』。


 その地位は様々な恩恵を個人や仲間へと齎すが、同時に保持する者へと縛りを与える場面も多い。



 その一つが、身の振り方とその行き先だ。


 一度でも『Sランク』へと到達してしまった者を、ギルドは決して離さないし、穏当な『守られる一般市民』の地位へと戻る事を決して許さない。



 魔物を討伐し、ダンジョンを踏破した上で倒れて命を失うか、もしくは戦えない身体になるまで前線で戦い続ける事を求めて来る。


 仮に五体に欠損無く年を重ね、身体能力が落ちて来たから、と引退を申し出たとしても、その後の就職先、として都市の警備兵や貴族の私兵の取り纏め役を半ば強制的に斡旋されたり、ギルドの教官や高難易度依頼に対する予備兵力として囲い込まれる、と言った末路を辿る事になる。



 なので、極一部のそう言った縛りを嫌う、引退後に『やりたい事』が在る様な実力者は故意的にランクを『Aランク』で留めておき、準備が出来次第引退する、との形を取る事が在る。


 とは言え、冒険者以外にやりたい事が在る、という様な連中が冒険者として実力を発揮して成り上がれる可能性は極めて低く、その上で余程散財するか目標金額を高く設定していない限りは、『Aランク』まで上がる前には大概貯まっているハズなので、滅多な事ではそうはならないのだが。



 なお、その原則に沿って言えば、かつてヒギンズの身に起きた『降格』は、比較的例外的な扱いに近いとも言えるが、やはり大きくは外れていない。


 何らかの方法によってかつての力を取り戻すか、もしくは新たに力を手に入れて再び返り咲くか、といった期待が込みではあったものの、やはり『戦いの場』から身を引く、という事だけは許していない処を見ると、やはりギルドとしては彼を手放すつもりは最初から無かった、という事なのだろう。



 そんな概念的かつ執念的な、一度力を手にしたのだから死ぬまで戦っていろ、と言わんばかりの理念を、当然の様に彼らも承知している。


 というよりも、それらを承知していないと基本的に『Sランク』にはなれないしならない。



 昇格自体を断る事も可能な上に、昇格試験そのものをボイコットしてしまえばそれで事足りるからだし、そもそもの話をしてしまえば先に例に上げた様な連中以外はソレを踏まえた上で昇格の話が来たら断る事をしないだろう。


 何せ、自分の命を天秤に掛けた上で、それでもなお『栄達』や『富』を求める様な命知らずの夢想家の内、戦う力を持っていた者が『冒険者』と呼ばれる存在となるのだから、ある意味『当然』と言えるのだろう。



 そんな認識の再確認を行っていた一行は、それまでと同じ様にとある建物の前で立ち止まる。


 これまでの二軒よりも距離が開いて居たソレは、今までの様に扉が開いていたり、店先が開かれている造りになっていたり、として内部を覗ける様な構造にはなっておらず、閉ざされたドアに掛かる『開店』の小看板と、軒先に出された『ダンタリオン書庫店』と記された看板以外には、そこが店なのだと示すモノは何一つとして存在していなかった。



 玄人向け、一見さんお断り、なんて単語が生温く思える程に店商売、客商売に向いていなさそうな店構えに『追放者達』のメンバー達は若干顔を引き攣らせていたが、ここへと誘導してきた張本人であるアレスは特に気にした様子も無く、普通にドアノブを捻って扉を開き、内部へと足を踏み入れる。


 それと同時に、乾燥していながらも黴臭さを微妙に感じる、といった、大量の紙を一所に集めて管理している場所特有の香りが彼らの鼻へと届き、それぞれの精神に作用して行く。



 文字を目で追っているだけで眠気を誘ってしまう者や、冒険活劇の類を好む為にワクワクが湧き起こる者。


 学術書を好むが為に新たな知識との会合の予感に心躍らせる者や、純粋に実用本ばかり読んでいたが為に道具としてしか捉える事の出来ない者。



 それぞれが異なった感慨を抱きながらも、その根本に在るのはそこに大量の書物が蓄えられている、大量の知識が溜め込まれている、という事実。


 唯一にして不変の事実を前にして胸を高鳴らせたセレンとヒギンズが前へと足を踏み出そうとする最中、やはりというか何と言うか、一人鼻を抑えて一歩後退る者がいた。



 言わずもがなかも知れないが、それは獣人族(ベスタ)であるガリアンであった。


 五感の鋭い彼にとっては、その店内に漂う紙の匂いがキツすぎたらしく、顔を顰めて鼻を抑え、一人距離を取る程となっていた。



 それに気付いたアレスが足を返して店から退出し、ガリアンの側へと寄りながら皆へと先に酒屋の方に行っている、と既に見えていた酒屋と思われる建物を指差してガリアンを誘導しながら彼らと告げるのであった……。




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